第10話 Legend(言い伝え)

Legend(言い伝え)


山田「ところで酒井さん、この九頭龍神社の言い伝えってご存知ですか。」


僕「いいえ、知らないですよ。山田君は何か知っているんですか。」


山田「一様今回、箱根へ来る前にネットで調べちゃいました。ネットからの受け売りですけどね。」


僕「そうなんですね。さすが山田君は勉強家ですね。」


山田「ちょっとだけ調べた程度ですよ。」


僕「それで調べた結果はどんな言い伝えがあったんですか。」


山田「そうですね。今から話しますね。九頭龍神社は、箱根神社を開いた万巻上人という人が芦ノ湖の暴れていた龍を調伏して、守護神として祭ったのが始まりとされているようです。」


僕「そうなんですね。その言い伝えはなかなか面白そうですね。神社のいわれって伝説的なことが多いですよね。ちなみに神社ってパワースポットとして言われているところも結構多いんですよね。」


山田「そうですよね。神社って訪れるとなんだか気分がさわやかになるっていうか、癒される感じがしますもんね。」


僕「おそらく、神社に植えられている植物からの何らかのエナジーを感じ取っているのかもしれませんね。」


山田「その話には続きがあります。」


僕「それで、どんなはなしですか。」


山田「芦ノ湖が、まだ万字ケ池と呼ばれていたころにさかのぼるんですよ。」


僕「芦ノ湖って名称は、以前は違っていたんですね。」


山田「そうなんですよ。俺も今回ネットで調べて初めて知りましたよ。」


僕「知らない知識を学べるとうれしいですよね。」


山田「その通りですね。酒井さん、まだ続きがあるんですよ。」


僕「楽しみです。それでそれで。」


山田「奈良時代前には箱根の村では、若い娘を選んで芦ノ湖に棲む毒龍へ人身御供として差し出す習慣があったそうです。」


僕「そうなんですね。なんだか悲しいですよね。犠牲になった人のことやその家族のことを考えるとやり切れない思いがします。親がわが子をそういった村のためにとはいえ、人身御供として差し出すときの想いは、胸が張り裂けそうでしたでしょうね。親が身代わりになれればという気持ちだったんでしょうね。」


山田「そうですよ。俺もこの話を知った時には、なんだか悲しさが胸にこみあげてきました。いまではそんなことはないですが、当時は実際にそんなことがあったということならば、どれだけの悲しみをこの芦ノ湖は知っているんでしょうね。」


僕「昔は天変地異を収めるために、人身御供はよくありましたが、やはり悪しき習慣ですよね。人身御供をしたところで、災難を逃れることなどないんですからね。人柱もそうですよね。」


山田「その続きがありまして。たまたまその頃、箱根山で修行中の万巻上人が、そのことを知り、法力で毒龍を改心させたという伝説です。万巻上人が人身御供をやめるよう湖畔で経文を唱え、毒龍を改心させてということです。」


僕「そうなんですね。だから、この芦ノ湖湖畔には独特の雰囲気があるんですね。そういった言い伝えって、口承伝承だと言われても、実際はあながち事実であることが多いんですよね。」


山田「いまでもこの言い伝えが受け継がれているようで、湖水祭では人身御供に代えて赤飯を湖へお供えしているそうですよ。」


僕「そうなんですね。そういった伝承ってなんだか神秘的ですよね。パワースポットと言われる場所には、そういった口承伝承って結構ありますよね。」


山田「本当にその通りです。そういって伝説というか、言い伝えって本当にミステリアスですよね。俺、そういった神秘的な話は好きなんですよ。だから、今回、箱根にしちゃったんですよ。酒井さんと一緒に箱根へ来たかったんですよ。」


僕と山田は、九頭龍神社の敷地内にあるベンチへ座って話していた。そんな話をしている間中、僕と山田の周りを芦ノ湖湖畔から、先ほどとは違う温かみを含んだ秋の風が吹き込んできた。


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