第8話 Together(一緒に)
僕と山田はそんな会話をしながら、ランチのビーフィシチューを楽しんでいた。僕たちの座った席から、芦ノ湖を眺めると太陽の光が湖面を照らし、きらきらと輝き、まるでステンドグラスのようだった。
僕「昔から芦ノ湖は言い伝えってありますからね。信仰深いスポットですね。いい気を感じちゃいます。空気が澄んでいるというかなんだか神々しく感じちゃいます。これもまた富士山のパワーなんでしょうかね。」
山田「酒井さん、このランチのビーフシチュー、おいしいですよね。」
僕「結構いけるよね。このビーフシチューはアタリって感じです。」
山田「というよりは、料理も確かにおいしいんですけど、酒井さんと一緒に食べているから、さらにおいしいのかもしれないですね。」
僕「僕の体内から湧き出るエナジーがエッセンスに一癖付け加えているって感じでしょうかね。」
山田「まさにその通りですよ。」
僕は一瞬、ドキッとした。なんだか、うれしいような気恥しいような何とも言えない気持ちになった。確かに山田と一緒にいると心安らぐ気持ちになる。これって、いったい何の気持ちなんだろうか。僕は一人考えていた。山田へ僕の気持ちを悟られたのか、山田は僕にこう言った。
山田「酒井さん、今、俺のこと考えていたでしょう。俺はいつも酒井さんのくっつき虫ですから、ずっと一緒にいますよ。心配しないでください。」
僕は山田のその言葉、気持ちにすごくうれしさを感じた。嬉しさというよりは心の奥からこみ上げる気持ちだった。それと同時になんだか悲しい気持ちも湧き上がってきた。その感情はいったいなんだろうか。
僕「山田君にそう言ってもらえると、本当にうれしい限りですね。僕にとっては、山田君は弟のような存在ですから。」
山田「弟ですか。酒井さんにとって俺の存在って。」
山田の顔を見ているとなんだか少し寂しそうな、がっかりしたような印象を受けた。
僕「それ程、山田君は僕にとって身近な存在だってことですよ。」
山田「そうですか。俺、酒井さんがそう思ってくれると超うれしいんですけど。」
僕と山田はレストランを出ると、車で箱根園の駐車場へと移動した。箱根園駐車場には、観光客を乗せたバスも数台停車していた。オフシーズンのため観光客は思ったほどはいなかった。というか日本人の観光客はほとんどいない。
山田「酒井さん、芦ノ湖の水際まで行ってみませんか。」
僕「いいですね。この時期の湖ってなんだかいいですもんね。空気が澄んでいて涼しい感じがしますしね。山々の少し色づいた紅葉と湖の青さのコントラストが何とも言えないですね。」
山田「そうですね。この青空と湖の青さと紅葉のコントラストですね。そういえば、酒井さんにとって箱根って、パワースポットって言われていましたよね。エナジーというかパワーを何か感じます?」
僕「そうですね。箱根の山に入ってくると、なんだか落ち着くというかバリ島と同じ感覚になるんですよね。」
山田「そうなんですね。この後は、ここから歩いて九頭龍神社と白龍神社へ行ってみましょう。まずはこれが、俺の企画したミステリーツアーの始まりですよ。」
僕は、山田が僕のために企画してくれたってことに対してすごくうれしく思った。今回、山田から箱根のミステリーツアーへ誘われたわけだが、なんだか山田が僕の心の中にぐいぐいと入り込んでくるような気がし始めていた。山田のその気持ちは、僕にとってはすごく心地よいものだった。
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