第2話 Coincidence(偶然)

翌朝、いつものように仕事のタスクをこなす日々が始まる。日々のタスクをこなすだけでは、なんだか時間に流されているだけのように感じる。ちなみに僕は自由業だから、一般の社会人よりは、割とフレックスのような感覚で仕事ができている。僕なりにいまの環境は恵まれた方だと思っている。


今日は、終日渋谷で次回の講演会の打ち合わせが入っている。渋谷で待ち合わせの際によく利用するいつものカフェへ向かう。半蔵門線の渋谷駅で下車し、人込みの中をかき分けながら、ぼくは、そのままA5番出口へと向かう。そうすると目の前がマークシティである。マークシティにある渋谷のいつものカフェで、事前に打ち合わせの資料に目を通し、ノートPCでスケジュールのチェックをしていた。


そうしたところ、なんだか聞き覚えのある声が、「酒井さん」と僕の名前を呼んでいる気がした。


カフェの僕が座っている席の前に人が立った。僕は、その人を見上げた。と、びっくりしたのだが、山田が僕の目の前に立っていた。


僕「山田君、どうしたの?」


山田「今日、俺も渋谷で大学の友達と待ち合わせをしていたんですけど、その友達が急に都合が悪くなり、ドタキャンされちゃったんですよね。それでもってマークシティを一人でぶらぶらしていたら、酒井さんを見つけちゃって感じですよ。」


僕「そうですか。それはまた偶然ですね。僕も今日はこの後、渋谷で次回の仕事の打ち合わせなんですよね。その前の準備で、このカフェで資料に目を通していたんですよ。そうしたらなんだか、僕の名前を呼ばれた感じがして、見上げると山田君がそこに立っていたってことですよ。」


山田「なんだか運命を感じちゃいまる。」山田は目をキラキラさせながら、僕にそう伝えてきた。


僕「昨日は、電話をいただきありがとうございますね。箱根へ行くの楽しみですよ。箱根でたくさん温泉入りましょうね。温泉三昧ですよ。実はね、山田君、僕のパワースポットとしても箱根は気が合っているんですよ。」


山田「そうなんですね。酒井さんが楽しみにしているって言ってくれるだけで、俺、超うれしいです。」


と、山田は、はにかみながら僕に言った。僕はいつも身に着けているシャンパンゴールドの腕時計を目にした。時間は、10時30分だった。


僕「この後、山田君はどうするんですか。」


山田「そうだな。俺、渋谷をぶらぶらって感じですね。」


僕「それじゃ、今日は、僕の仕事の打ち合わせがこの渋谷で最後だから、僕の打ち合わせが終わるまで、渋谷にいますか?」


山田「もちろんです。酒井さんを待っていますよ。」


僕「それじゃ、おそらく14時ぐらいには終わるので15時に、ハチ公前で待ち合わせしますか。ケーキでも食べに行きましょう。」


山田「了解です。俺、絶対待っていますね。おいしいケーキ食べたいです。」


山田のこの無邪気な表情が、僕には直球すぎてしまう。その若さからくる直球な感情が僕はうらやましい感情と同時に好きだという感情が沸いた。



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