最初で最後の思い(戸惑い、箱根から)

有野利風

第1話 Trigger(きっかけ)

これは、僕が人生の中で、最初で最後に人を好きになったという思い。それと同時に現代の医療技術では治らない感染症になってしまった相手と共に生きる最初で最後の恋愛になるとはこの時、僕は思ってもみなかった。魂で結びついていたことを感じ取れた瞬間だった。


山田といった箱根で起きたあの衝撃な事実のカミングアウトを目の当たりにし、今悲しくて苦しくて、毎日地獄のような状況である。それとともに涙が枯れることのない日々を過ごしている。ただ、現実を受け止め二人そろって仲良く生きていく姿を映し出したストリーである。


 僕、酒井拾膳と山田優也がバリ島から、一緒に帰国して早くも三か月が経っていた。残暑が少しずつ和らいでくる頃だった。ふいに、山田から僕宛にメールが送信されてきた。


山田「酒井さん、バリ島から一緒に帰国して早くも三か月ですね。今まで、いろいろと酒井さんにお世話になったので、ご迷惑でなければ、今度は俺が、酒井さんをご招待したところがあるんですが、お付き合いいただけますか。日程は、酒井さんに合わせますので、いかがでしょうか。」


といった内容のメールであった。


僕は、正直うれしかった。ここまで山田が僕のことを慕い思っていているのと、僕がいろいろと面倒を見て世話をしたことに感謝してくれていると思うと、なんだかうれしく感じた。僕は山田に見返りを求めていないが、人の好意をきちんと受け止めてくれたという事実がうれしかった。今、現代のこの世の中には恩を仇で返すような時代であるが、まだこんなにも純粋で無垢な青年がいるとは、僕は感動していた。


僕と山田の出会いの始まりは、ハノイ行きのフライトの時に偶然に出会って以来、なんだか縁があるようで、すごく気の合う仲になっていた。


前回、山田と一緒に行った際に、バリ島でバリ島の占い師バリアンから僕と山田の縁の所以を聞いていたので、余計にそのような親近感を感じた。僕は、早速、山田からのメールへ返信をした。


僕「山田君、連絡ありがとうございます。元気にしていますか。山田君から、あらかじめ日時を指定してただくと助かります。よろしくです。」


山田「了解しました。後程、改めて連絡しますね。」

と、山田からはすぐに返信があった。


なんだか僕は、とても楽しみになった。山田から誘ってくるとは、珍しいこともあるものだと思った。大抵、今までは僕にくっついてきている感じだったからだ。


今日の僕のランチタイムは、こんな具合に終わった。それと僕は、山田からのメールの文面でなんだか山田が緊張しているようなインスピレーションを受けた。


僕は、山田から感じ取ったインスピレーションが少々気になったが、僕は、日々、仕事のタスクに追われていたため、山田からの日程の連絡待ちとした。その夜、21時過ぎに山田から携帯電話へ着信があった。


山田「酒井さん、こんばんは。お疲れ様です。今時間は大丈夫ですか。」


僕「丁度、お風呂から上がったところだから大丈夫ですよ。今日はメールでお誘いをいただきありがとうございます。」


山田「いえいえ、いつも酒井さんにくっついて出かけていたので、今回は俺がエスコートとナビゲートして誘ってみました。」


僕「ありがとうございます。山田君も成長しましたね。山田君のその成長には、うれしい限りですよ。山田君のその気持ちを僕はうれしく思います。ありがとう。」


山田「日程の連絡でお電話したんですけど、来週の火曜日、水曜日の2日間ってお休み取れますか。」


僕「大丈夫ですよ。来週の火曜日、水曜日は丁度、休みにしようと思っていたんで良かったですよ。」


山田「お休み予定で何か用事とかは大丈夫ですか。」


僕「週に2日ぐらいはスケジュールをオフにして休み取っているので、たまたま次の火曜日と水曜日が、その休日だったってことだけですよ。気にしなくて大丈夫ですよ。思いっきり僕を連れまわしてくださいね。」


山田「あぁ、良かった。俺、休みを取っていただけなければどうしようかっと、ちょっと不安だったんですよね、実のことろ。社会人と学生って時間の調整って違いますからね。でも、今回、酒井さんが調整していたき、本当に良かったです。俺、うれしいです。」


僕は、山田にそこまで思われていると、なんだかこっぱずかしくなってくる。ただ、山田のその気持ちは、僕にとって本当にうれしいものであった。山田ぐらいの年齢だったら、同年代の友達や彼女とかといっしょに遊びに行ったのが楽しいのではないかと、僕は思った。山田も今時のスマートなルックスだから、女の子にもてないはずはないと思うのだが、と僕は不思議に思っていた。


僕「山田君のお誘いを断るなんて、もったいないですからね。山田君も彼女とかと一緒に出かけるのがいいじゃないですか。そちらの方が絵になると思うですけどね。」と返信してみた。


山田「いえいえ、俺、彼女なんていないですよ。酒井さん一筋ですからね。なぁんてね。俺も酒井さんにそう言ってもらえると本当にうれしいんですよ。俺たちって相思相愛って感じじゃないですか。」

と、僕は、そんな山田の言葉を聞いてドキドキしてくる。


僕の言葉に山田のほのかに赤くはにかんだようすが電話越しに感じ取った。少年っぽい感情だが、何か芯の強さを感じるところが、山田の強みだと思う。


山田「そうそう、本題に入ってもいいでしょうか。」


僕「もちろんOKですよ。本題とやらを聞きましょうかね。」


山田「実は、今回酒井さんと一緒に行きたいところがあるんですよ。」


僕「どこですか。」


山田「箱根なんですよ。箱根のパワースポットである九頭龍神社ってあるのをご存じですか。」


僕「芦ノ湖の湖畔にあるって神社ですか。その神社って結構有名なパワースポットですよね。」


山田「そうなんですよ。そのエナジーを酒井さんと一緒に体感したいんですよ。俺が車を出しますので、ドライブしながら箱根まで行きましょうよ。後、その他の場所は、サプライズってことでいかがでしょうか。」


僕「マジですか。なんだかミステリーツアーっぽくて楽しそうですよね。なんだかワクワクしてきちゃいますよ。」


山田「今回は、まさに俺の企画のミステリーツアーですよ。どうですか。きっと楽しめますよ。」


そう一生懸命、僕へ話している山田の姿を携帯電話越しに感じ取ると、なんだか「若さ」っていいなと感じた。若さだけではなく山田の持っている人間性なのだろうか。その素直さを僕はなんだか感動している。人は年齢を重ねるごとにその純粋さを忘れていってしまう。


山田は、僕へまだまだ話し続ける。携帯電話越しに話し続ける。


僕は、なんだか恋人との付き合い始めたころのような会話だと思った。以前、そういえば付き合って間もない人と4時間、夜中、電話で話し続けたこともあったなと思い出した。その頃は、僕も若かったから、何でも無邪気に突っ走っていた感じがする。僕は、その姿を今は山田に重ねている。


山田「酒井さん、僕の日程で調整いただけるんですか。」


僕「そうですよ。大丈夫ですよ。」


山田「日程調整をして、後日、連絡をしますから、楽しみにしていてください。俺のエスコートを大成功させますから。」


僕「了解です。楽しみにしていますね。山田君の規格のミステリーツアーですね。」

と、僕と山田は、その日の電話を終了した。


僕は電話を切った後、なんだか寂しく思っていた。


電話を切った後、山田からメールが届いた。


山田「酒井さん、先ほどは、長い間、話せてうれしかったです。箱根で俺、酒井さんへお話したいことがあるんですよね。」といった内容のメールだった。


僕は、その山田からのメッセージを受け取りなんだか戸惑いを感じた。僕は幸せな気持ちのまま、高揚感と共にベッドへ入り、夢の世界へと誘われていった。

その夜、僕は久しぶりに夢をみた。いつもであれば朝起きれば、夢の内容などを忘れてしまうのだが、この日の夢は僕にとって特別な夢の内容だった。

その内容とは、僕と山田が箱根へ旅行し、山田から告白されるという夢だった。


実際、こんなことはあるのだろうかと不思議な夢ではあったが、僕はなにかリアルに思えた。昔から旅行の前には、必ずデジャブーを見るという傾向がる。今回の夢もまたいつものデジャブーなのだろうか。

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