第2話 ✼✼✼謎に包まれて✼✼✼

 その日を境に店の扉が開かれることがなかった。


 お礼の品を渡そうと何度もその店を訪れたが、「CLOSE」と書かれた札が下ろされる事はなかった。

 仕方なくドアノブにメッセージを書いたカードと小さな包みを入れた袋を掛けてその店を離れた。


 しばらくするとその店に「テナント募集」の張り紙が貼られていた。

 管理会社の名前も書いてあったのでメモをして自宅に戻った。


 部屋の片隅に置かれた絵を眺めながら、メモに書いてある不動産会社に電話を掛けた。


「松原町の小学校に向かう道にテナント募集とかかれたお店がありますよね」と尋ねた、少々お待ち下さいと言われて待っていると「お待たせしました、あの店に興味を持たれたとお聞きしましたが、1度内覧されますか?」

「いえ、あの店の方が今どうなさっているかが聞きたくてお電話致しました」


 少し沈黙した後でその男性は返事をした。


「もう、何年も前にお店は営業を終えていますし、昨年引き継がれた奥様も亡くなられましたから決して間違いではありません、晩年は遠い町の施設に入られていましたから」


「私はつい1ヶ月まえにあの店に伺っているので間違いではないですか?」


 信じ難い返事を聞いて私は慌ててしまっていた。

 夏の終わりに見た虹を思い浮かべて夢をみていたのかと思った。


「とんでもないです、間違いでは決してないです。そして奥様が亡くなられる前に手紙を預かっています、この店のことを尋ねる女性が連絡してきたら渡して欲しいと、きっと貴方のことだと思います、もし良かったら明日にでもこちらに来て貰えませんか?お渡ししたいので」


 次の日の仕事帰りにその不動産会社に足を運んだ。


 思っていたほど大きくなくて事務員と2人で経営しているようだった。


「お待たせしました、昨日は失礼致しました」

 現れたのは白髪混じりの男性だった。


「こちらこそ、入居希望でもないのに突然ご連絡してすみませんでした」

「少しお待ち頂けますか」と席を立った男性の背中を見送った。

 事務員さんが出してくれた温かいお茶を飲みながら待っていると小さな赤い封筒をテーブルに置いた。


 その手紙はイギリス映画などでよく見る刻印された蝋で封印されていた。


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