虹色の扉は誰かの心を開いてくれる~そして優しさもくれるんだ
あいる
第1話 ✾✾✾虹の思い出✾✾✾
仕事の帰り道のことである。
通り道に小さな喫茶店がある。その店の前には赤いベンチが置いてあってたまに座って道行く人を眺めたり空を見上げていたりするおばあさんが座っている。
週に何日開けてるのか分からないし目立たない小さなお店だった。
そしてほとんどの日は「CLOSE」と書いた札が掛けられている不思議なお店だった。
初めて挨拶を交わしたのは1年ほど前の事だった。
通り過ぎようとした時に突然声を掛けられた。
「ほら虹よ」
言われるままに空を見上げると綺麗な虹がかかっていた。
「綺麗ですね」
「さっき雨が降ってたからね、もしかしたらと思ってみてたんですよ」
誘われるままにベンチに腰掛けて虹が少しづつ薄らぎ消えて行く様を言葉も交わさず眺めていた。
他界したご主人が開いたこのお店を引き継ぎひっそりと営業を続けているそうだ。
店先に座っていない時は多分店内にお客様がいる時だろう。
ある日いつもの時間に店の前を通る私に待ち構えたように声を掛けてきた。
「待ってたのよ、ちょっと店に入ってきて」
家に帰っても待ってる人もいないのだし誘われるまま店内に入った。
カウンター席に座ると、安田さんは大きな額を抱えて私の席の前に置いた。
「あなたにこの絵を貰って欲しいの」
古めかしい額に入れられたその絵は、湖畔に佇む小さな家の美しい絵だった。
絵の価値など分からないが
何か優しい気持ちになれる絵だった。
「こんな高価そうなものなんて貰えませんよ」
私はそう言って返事をした。
「あら、そうなの…でもこれは貰ってもらわないと困るのよ」
安田さんの話によると、亡くなったご主人が残したこの絵を一緒に虹を君と見た人に渡して欲しいと言っていたそうだ、そしてこの絵は幸運をもたらすとも
「あの日一緒に虹を見たあなたに貰って欲しいの、主人の思いでもあるけど、私の望みでもあるのだから」
「幸運をもたらす?それは私にと言うことですか?」
「それだけでなくてこの世界もと言っていたわ」
にわかに信じ難い話だったが、安田さんの真剣な瞳の輝きを見てその絵を受け取取ることに決めた。
その事を伝えるとおばあさんは優しく微笑んだ。
その日は美味しいミルクティーを飲んで店を後にした。
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