第一部最終章-宇宙の獅子-

序 月の神殿

 全天を巨大な窓の集合体で覆われた半球状の天蓋。それが、月面国家モルト・アースヴィッツの全ての宇宙都市を覆う「空」である。この中で二世紀に渡って、移民たちは荒涼とした月の大地を耕し、水で湿し、石と鉄をもって基盤を造り上げていった。

 このような半球の人工宇宙都市は月面に八つあり、ちょうど八曜紋状に配置し、それぞれが数百万の人口を抱える都市国家を形成している。農業、工業などを機械的に割り振られた都市の中で人々は一定の規則正しさの下で、一定の自由を保障されて生きている。


 その中で最大の規模を誇るのが八点の中央に君臨する首都アースヴィッツ。モルト語で"始祖の地"を意味する都市は人口二千万。複合的都市機能をすべて兼ね備え、さらには地上のみならず地下三層に渡って都市群を有している。

 月面国家モルト・アースヴィッツ。そして、その首都を宇宙に住まう人々はこう呼んでいる。「月の神殿」と。


 その月の神殿に帰還した戦士たちがいる。多くの戦士が新たな戦いに備える中、仰ぎ見られる者は遥か彼方を見据える。

 そして、月の神殿に向かう水の惑星の戦士たちがいる。ある者は迷いを振り捨てて進む道を選び、ある者はいまだ「英雄」と呼ばれる望みを叶えたことに惑い、立ち止まったままでいる。


 これまで何度もふたつの運命が交差し、数多の命を飲み込んで繰り広げられた惑星間戦争。その終局の物語である"宇宙戦争"が今、始まろうとしている。


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