第32話 妹と姉
エリイの泣き声は、彼女の居場所を思う存分知らしめたらしい。
ものの数分でカザトやファリアやリックが駆けつけてきた。ジストだけは「泣く子のお守りだけはもうやらねえ」と言ってどこかへと去って行った。
エリイが泣き止むまで、仲間たちはただ傍にいてくれた。
それからどれほど時間が経ったのか、日が傾くまでたっぷり泣いたエリイはべしょべしょになったタオルをゲラルツに突き返そうとした。「いらねえ」と拒否されたのでとりあえずそれを握りしめておいた。
「エリイちゃん。帰りましょ? こんなところにいたら風邪を引いちゃうわ」
優しく言うファリアに、エリイは頷きかけたがすぐに膝を抱えた。
「エリイちゃん? どうしたんだよ」
リックがしゃがみ込んでエリイの顔を覗き込んだ。ふい、と目を横に逸らした。先ほどまでの頑なさとは違う何かが彼女を地面に縛り付けている。
「みんなは……」
エリイがぽつりと呟くように言った。
「がっかりしなかったんですか?」
エリイの言葉にゲラルツ以外の全員が目を丸くした。
「わたし、普通の人間じゃないのに。ずっとそれを隠してた……っすよ。普通の人間として振る舞っていたけど、ちゃんとアーミーを造るためだけに生み出されただけで――」
「そんなの関係ない」
真っ先に声を上げたのはカザトだった。
「エリイちゃんはエリイちゃんだ」
目をまん丸にするエリイに対して、リックが気の抜けたように座り込んだ。
「カザト、お前、いっつも美味しい所ばかり取っていくなよぉ。オレにも言わせろよぉ。オレが言いたかった台詞だよぉ、それ」
「あ、ごめん……」
なんとも腑抜けたやり取りを交わす二人から、さらにファリアが進み出た。膝を折って、エリイの前にしゃがみ込んだ。
「カザト君の言うとおりよ。あなたがどうやって生まれたのかなんて関係ないわ。エリイちゃんはエリイちゃんでしょう?」
丸く見開かれた目から、ぽろぽろと涙を零すエリイの頭へとファリアは手を伸ばした。そうして、その髪を撫でながら静かに微笑んだ。
「エリイちゃんはどうしたいの」
「わたし、わたし……」
嗚咽混じりのエリイの声が暮れゆく営内に響いた。
「みんなと、一緒に」
「うん、うん」
「みんなと一緒にいたいです……!」
「エリイちゃんがもしよければ、だけど」
少しの間の沈黙があり、ファリアは口を開いた。
「私の家に来ない?」
「……え?」
「もし、本当に居場所がないと思っているのなら。もし、どこにいればいいのかわからないのなら……私の家に来てほしいの」
エリイだけでなく、カザトらも目を丸く見開いた。ファリアはエリイの手を取った。
「私の妹になってくれないかしら、エリイちゃん」
爆発したように、エリイは泣いた。
そしてこの日、ファリア・フィアティスにひとりの妹ができたのだった。
「さて、皆の衆」
招集令が下ったのはそれからほどなくしてのことだった。
ジスト以下、ラインアット隊はアン・ポーピンズの下に参集した。
「モルトランツを落とす算段がつきそうだ」
「本当、ですか」
前のめりのカザトに対してアンは僅かに口元を歪めて笑った。
「あたしゃ嘘は言わない主義だ」
「が、成功するかどうかは俺たちの手に懸かっている」
「そういうことだアーヴィン。際どい手口を使う事になる。それでもいいね」
「御託は俺たちの好むところじゃない。どうするか聞かせてくれ」
アン・ポーピンズはにやりと笑った。
「モルト軍の腹を内側から食い破るのさ」
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