第23話 俺の勝ちだ

 キルギバートとカザト。因縁の戦いはいつ終わるとも知れず続いている。彼らは全く互角に渡り合い、ついに数十合あまり打ち渡っていたが、決着の気配はない。

 キルギバートは切り結びながら猛然と打ち込む。カザト機の装甲を削ったのも一度や二度ではない。一撃ごとに斬撃の重さは増している。アーミーという兵器の持てる力が、馴染んでくる。それなのに赤い怪物たちを仕留められない。


 キルギバートが回転鋸を振り上げた。そこへカザトが合わせてくる。


 キルギバートは上段から振り下ろし、カザトは下段から斬り上げる。


「!!」


 ベルクトハーツで見た景色だ。

 あの時は、キルギバートが敗れた。

 だが――。


「同じ手は喰わない」


 キルギバートは機を頭ごと体当たりさせ、鍔迫り合いに持ち込む。こうすればカザトを援護する狙撃手も撃てはしない。


「どうだ!!」


 ふと、赤い怪物の眼が黒く輝いた。何かとキルギバートが目を見開いたその時。視界が白く塗りつぶされた。投光器サーチライトだ。


「目潰しとは、やるな……!」


 キルギバートは間合いを取るべく、鍔迫り合いを解いた。そこへカザト機の両腕が火を噴く。それを腕、全身の装甲で弾きながら、灰色の怪物は構え直すべく回転鋸を握り直す。その手首に、鋼索が巻き付いた。


「こんなもの……!!」


 切り落としてやる。


 回転鋸を振り上げる。もう片方の手に、鋼索が巻き付いた。


「な、に……」


 狙撃手ファリアの機体が、すぐ後ろにいた。カザトが目をくらませている間に、間合いを詰めたのだ。動いている相手の狙撃が難しければ、距離を詰めて拘束すればいい。それを数瞬の判断でやってのけた。それも、何の言葉も必要とせずに。


 キルギバートの口の端が吊り上がった。


「やるようになったな……!」


 狙撃手ファリアへと振り返る。その足元にある長砲身が、蹴り上げられる。引鉄にかかった指が引かれ、轟発した砲弾はキルギバート機の持つ回転鋸を、その腕ごと粉々に撃ち砕いた。


『これで、終わりだ!!』


 カザトの叫びが聴こえた。


「いや、時間切れだ」


 キルギバートは後ろを振り返る。夜空に無数の光弾が撃ち上げられていた。

 目を凝らす。その光のたもとに、月から至った鋼鉄の巨人が雄々しく立っていた。


「俺の勝ちだ!! カザト!!」


 大陸歴2718年12月30日午後7時。

 モルト・アースヴィッツ軍は、ついにホーホゼに到達した。指揮を執るのはヨハネス・クラウス・グレーデン大将。グレーデン軍団は西大陸要衝である農耕地帯ホーホゼを再奪還した。


『閣下、間違いありません。灰色の機。あれこそ――』

「御苦労、ケッヘル」

『ウィレ・ティルヴィア軍に増援の気配あり。閣下、時間がありません』

「全機、聴け。戦友を助け、今夜このホーホゼで再び、ウィレ軍を蹴散らす」


 撃ち出した光弾は全て、鉄の豪雨となって因縁の赤い怪物たちに降り注ぐ。炎が立ち上り、辺りが真昼のような明るさに包まれる中、剣先を揃えたグラスレーヴェンの戦列が露わになる。グレーデンは腕を振り上げて咆哮した。


「突撃せよ!!」





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