第37話小章 顛末:帰還ならず


 その後――。


 シレン・ヴァンデ・ラシンは西大陸北部へ撤退した。その道中でふたりの兄の戦死の報に触れた彼は、生まれて初めて人前で慟哭した。

 ゲオルク・ラシンが遠く離れた月の惑星モルトでふたりの息子の戦死を知らされたのはベルクトハーツ陥落の翌日の事だった。しかし、彼が息子の死に何を思ったのかはどの記録にも残されていない。それから三日後、ゲオルクはシレンに家督を譲り、隠居することとなる。


 モルト・アースヴィッツ元首グローフス・ブロンヴィッツはラシン家に対して弔意を示し、シレン・ラシンを大佐へと昇進させ、正式に相続権を認めた。また戦死したオルク・ラシン、ライヴェ・ラシンの両名は首都アースヴィッツにて国葬をもって弔われた。


 そして、東大陸を失ったモルト軍に対して四度目となる大攻勢が開始されたのは、ベルクトハーツ陥落の翌日の事だった。ウルウェ・ウォルト・キルギバートら機動戦隊の兵士たちを乗せたシャトルが西大陸へと帰還したのはその最中のことだった。

 だが、この機が着陸したのはウィレ・ティルヴィア軍の勢力圏内であり、帰還した兵士たちは大規模な攻勢の只中へと放り込まれることとなった。


 銃撃戦と砲火の中、キルギバートたちは脱出した。

 だが、直後の彼らの消息は明らかでない。


 ただ一つ言えることは、彼らはまたも帰還できなかったのである。



 ベルクトハーツ攻防戦・東大陸の戦い編


 了


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