第33話 ベルクトハーツ決戦-西門決着-
白い機体がモルト語で何事かを叫び、カザトへと襲い掛かる。
「来る」
カザトは回転鋸を地面へと突き立て、両腕を突き出した。機関砲を斉射して動きを止めようと引鉄に指をかけた瞬間。
「やめろカザト!!」
「!!」
カザトは反射的に機の腕を下げて飛び退いた。それと同時に地面に僅かばかりの土塊が舞い、次いで砂埃が濛々と立ち上った。その中に、白い機体が立っている。
「速い、"白鷹"と同じだ……!」
「いや、それ以上だ」
ジストがカザトと敵の間に割って入る。その後ろからはぴったりと編隊を組んだ白いジャンツェンが降下してくる。彼らは包囲状態を作り上げたまま、戦闘を優位に進めるつもりだ。
カザト、ジストと対するヴィートは既に死兵と化している。
「元より時間が稼げればよい。打ち上げまでもてば――」
ヴィートは機体の中で呟いた。
「我らの勝利は――」
「ヴィート殿」
切迫したモルト語に対して、ヴィートは悠然とカザト、ジストと切り結びながら後方へと振り向いた。
「なにか」
「新たな敵影」
「新手か。数は」
「具体的には測りかねる。多いぞ」
「ふん、敵軍め。とどめを刺しにかかったか」
意識を取られた一瞬の間隙を突いて、
そこへ合わせて白刃を抜き、膝を着いて下から突いた。ジスト機の肩口に白刃がめり込んだ。ヴィートはすれ違いざまに後方へとすり抜け、上昇しようとする。
刹那、機体に凄まじい衝撃が走った。ヴィートは目を見張った。開けた視界の向こう側に長砲身を構えたアーミーが折り敷いて待ち受けていた。砲口からは白い煙が上がっている。
隊長機と前衛を勤めた僚機は掛かり役だ。本命は、あの狙撃手だったのだ。
「――ウィレにも、これほどの戦巧者がいるとは」
白い機体の足は膝から下を一弾で撃ち抜かれ、もぎ取られていた。
「――見事だ」
両足をもがれたヴィート機は構わずに上昇してみせた。次に地へと足をつけた時が最後だろう。流血するように肩からオイルを流す隊長機と、回転鋸を杖のようにして立ち上がる僚機がこちらを見上げている。
「……友輩よ」
その視線をまっすぐ、受けて立ちながらヴィートは再び、白刃を抜き連れた。
右腕に白刃を持ち、左腕に装甲を有すもの全てを撃ち伏せる猛禽を構える。
狙うは――。
「――来る」
カザトは空中に佇む足のないジャンツェンを見据えた。正面きっての最後の一撃を繰り出すつもりだ。逃げるわけにはいかない。後ろを見せれば仕留められる。自分ではなくとも、肩に被弾したジスト機では空中からの一撃を防ぐことはできない。
自分がやるしかない。
決意した瞬間、白い機体が背中から噴射炎を迸らせて急降下した。その左腕が閃光を放ち、空中から飛燕のように徹甲弾が降り注ぐ。
「く!」
カザトは機の腕を交差させるようにして頭部と操縦室を庇った。腕の装甲を徹甲弾が叩き、そして全ての砲弾を弾き返した。
腕を下げる。瞬間移動したかのように、敵はすでに目の前にある。カザトは腕を突き出した。そこに刃が突き抜ける。アーミーの左手から肘、腕の付け根を白刃が貫通する。
カザトは吼えた。
「レゾブレェッ!!」
<<起動、開始>>
カザトは回転鋸を抜いた。エリイが生み出した"レゾブレ"は戦闘の経験から導き出した最良の動作でその間隙を補う。白い機体を逃さないように左腕を締め、その頭部に頭突きをかまして粉々に撃ち砕いた。仰け反ったジャンツェンの勢いで刃が抜けた。怯むことなく白い機体は刃をさかしまにして構えている。
「カザト!?」
ジストの声。
迫る敵影に、戦場で見た悪鬼のような"銀髪碧眼の青年の牙を剥いた顔"が重なった。それに立ち向かうようにして機を前進させた。
「――ッ!!」
アーミーの足が旋回する。蹴り上げた一撃が白刃を受ける。
カザトの回転鋸の動作が追いついた。斬り上げた鋸の凶悪な一撃はジャンツェンの腰に突き立ち、そのまま空中で機体を頭頂部まで引き裂いた。
「見事、見事だ」
小さな爆発が連鎖し、白い機体の足先から頭までを埋め尽くす。空中で炎に包まれた機は墜落せず、推進剤を全て使い果たすかのように、弾かれたように空へと駆けあがっていく。
「さらば好敵、友輩よ」
声が聴こえた気がした。
白い機は空中で、あの桃色に似た閃光を投げかけると大爆発を起こして消滅した。
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