第23話 フォール岬突破戦-3-


「あのチビ、こんな時に起動したって仕方ないだろ―!」


 リックが毒づく。その横にいたゲラルツ機がゆらりと前へ進んだ。


「おい、ゲラルツ―」

「いや、これでいい」


 ゲラルツ機が前に飛び出す。

 前方を塞ぐグラスレーヴェン3機の眼がそちらに向いた瞬間。


 カザト機の回転鋸が唸りを挙げた。


「これを、使えってことか!?」


 カザト機の照準が右手を切り飛ばされたグラスレーヴェンを捉える。今なら隙を突ける。


「そうか……そういうことか!」


 カザト機も前へと飛び出す。ゲラルツが左へ、そしてカザトが右へと回りこむ。


「ゲラルツ!!」

「―んだよ」


 右手を失ったグラスレーヴェンがこちらに気付いた。今度こそ迎撃すべく、擲弾筒をこちらに向けている。


「やるぞ、合わせられるか」

「……誰に言ってやがんだ? ああ?」


 カザト機が片腕のグラスレーヴェンの懐に飛び込む。


「っ、らぁーッ!」


 機体を回転させながら、両腕で保持した回転鋸を叩き込む。飛び退こう後退したその時、機体の推進機の唸り声が聴こえ、カザトは反射的にフットペダルを踏み込んだ。


「逃がすか!!」


 距離を詰める。グラスレーヴェンが擲弾筒を投げ捨て、白刃を抜く。その向こうでゲラルツがグラスレーヴェンの喉元に食らいつくのが、はっきりと見えた。


「ゲラルツ、合わせろ!」

「……命令、すんじゃねえ!!」


 カザトの視界に火花が散り、そして目の前が開ける。両断したグラスレーヴェンの傍らを飛び去ると同時、ゲラルツ機がすぐ横を掠めていく。グラスレーヴェンの背中が見えた。同じように、反対の敵機も両断されている。


 左手から、深紅のアーミーが踏み込むのが見えた。ジスト機だ。中央に残った一機に真っ向から切り込む。


「警戒を怠ったな。終わりだ」


 ジスト機に相対したグラスレーヴェンは頭頂部から股下までを断ち切られた。

 3機が散る。そして背後で、3機のグラスレーヴェンが桃色の炎を噴き上げながら四散した。


「ファリア、リック、やれ!」


 すでにリックは空中に躍り上がっている。ファリア機が長砲身を左腕に載せて狙いを定めている。


「照準―発射」


 ファリア機の撃ち出した徹甲弾が稜線をぶち抜いて、背後にいたグラスレーヴェンの胸から上を粉々に吹き飛ばした。地面のどの部分が軟目標かを、アーミーは瞬時に割り出している。


「次発装填―」

「大丈夫だぁファリアさん!」


 リックが踏み込む。上半身が粉々になったグラスレーヴェンに狙いを済ませて、その横っ腹に体当たりを食らわせると左腕を突き出す。


「こいつを喰らいな!!」


 肘から手首を覆う装甲が離脱され、そこから銀色の何かが撃ち出される。ゴガン、という凄まじい音がしてグラスレーヴェンが仰け反った。胴体の中央に鋼鉄の杭が突き刺さっている。


「お、当たった」


 ガウスト・アーミーが装備していた杭打器を改良したものだ。本来の前衛であるリック、そしてゲラルツの機だけが装備している。


「リック君、次!」

「うおっと!?」


 初の杭打器での戦果に呆然としていたリックは我に返った。だが、その視線の先で、とって返したゲラルツ機とカザト機が回転鋸でグラスレーヴェン2機を切って捨てる。

 ラインアット隊の4機が跳躍し、集落へと前進する。その足元で新たに4つの爆発が巻き起こった。

 7機のグラスレーヴェンをせん滅するまでにかかった時間は―。


「10秒、たった10秒」

「信じられない……」


 目を疑うリックとファリアに対して、カザトも目を白黒させている。あれほど苦戦を強いられてきたグラスレーヴェンによる対抗策を10秒で打ち破ったのだ。


「おい見てるか、エリイ・サムクロフト」


 数秒して、通信画面に満面の笑みを浮かべた少女の顔が映し出された。


『ばっちり。そろそろお呼びがかかると思ってました』


 ジストは顎髭をぼりぼりと掻きながら頷いた。


「追い出し喰らわすのはもう少しだけ待ってやる」


 ジスト機をはじめとする4機が集落へと着地する。頼みのグラスレーヴェンを失ったモルト兵たちが両手を挙げて建物から出てくるのが見えた。


到達点ゴールだ」


 ジストは煙草を取り出し、口にくわえた。


「フォール岬は俺たちのもんだぞ」


 ヒルシュ軍港の勝手口であるフォール岬は、たった4機のラインアット・アーミーによって、わずか30分で陥落した。


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