第33話 獄炎・黄金の闘い
炎により赤く染まったグラスレーヴェンが白刃を構え、猛火を割って飛び出す。キルギバートは一直線に、怪物らの隊長機へ襲い掛かった。
「でやあぁっ!」
袈裟懸けに白刃を振り落とす。敵の隊長機は脚部と背部のブースターを噴射し、滑るように避けてみせた。
敵の搭乗員が叫んだ。相変わらず通信機は混線している。
「どけぇーッ!」
『プロンプトは生きている!』
「プロンプトだと……!?」
敵兵の言葉のすぐ後に機銃が発射される。
「それはもともと、こちらのものだ!」
キルギバートは言いながら、トリガーを引いた。左手に持っている猛獣と、肩口の機銃が吼えながら砲弾を吐き出す。
「腕を狙われては、射線も開けないだろうッ!」
目の前の機体は回転鋸を持っていない。腕の機銃さえ封じて、絶え間なく動き回れば接近戦に持ち込める。それならはグラスレーヴェンに分がある。
『ちっ!?』
「この距離なら無事ではすまないだろうッ!」
ディーゼを引き抜き、敵の深紅の装甲に押し付けようとトリガーに指をかけた瞬間―。
『―テメェ、無視すんな!!』
『リック!?』
一瞬、ほんの一瞬の隙を突き、もう一機の隊員機がキルギバートの横合いに回っていた。
「しまった―」
声は続かない。コクピットの中に鉄を削る音が響き渡った。ジャン、という甲高い不快な金属音の後、コクピットには「左腕破断」の文字が表示されていた。
ディーゼを持った左手は鉄板と内部ワイヤーケーブルの束だけでぶら下がっている。人間で言えば、皮と筋一つで腕が繋がっているところだ。
キルギバートはディーゼを投げ捨て、白刃を構えた。四機に包囲されている。
「……ならば!」
キルギバートは機体を前へと突進させた。ジストとキルギバートの機体が衝突する。
『ぐっ、何をする気だ?』
「こうするん、だぁッ!」
ジストの機体に組み付いたキルギバートはヴェルティアを、先ほどへこませたジスト機の腕に叩きつけた。刃が食い込み、腕の中ほどで止まる。
こうなればジスト機は刀によりかんぬきを差されたようになって動けない。
『ち、振り払ってやるッ!』
ジストは、組み付くグラスレーヴェンをアーミー最大の長所で撃退するべく操縦桿を握り締めた。
だが、キルギバートはアーミーに組み付いたのを確認して笑みを浮かべた。
「待っていたぞ……!」
呟きとも、笑い声ともつかぬ、その言葉と共に指が動く。現れたのはコントロールスティックの赤いスイッチだった。モルティ・レーテの起動スイッチだった。
「手を貸せ!」
キルギバートが叫ぶ。
「グラスレーヴェン!」
<<汝に軍神の加護を>>
血を吐くような叫びと共に、キルギバートは歯をかみ締める。
その瞬間、背部のバックパックにあるブースターへと新型燃料が供給され、機構内で圧縮された燃料が内部で爆発し、それが燃焼ゲートから炎熱となって噴射される。
『何だと!』
「退かないというなら、退かせてやるまでだ!」
加速の効果はすぐに現れる。地面に足をめり込ませるようにして立っていたジスト機は足下のアスファルトを抉りながら、グラスレーヴェンに押されて動き始めた。コントロールグリップに全体重を掛け、キルギバートは吼える。吼えながら、超重量の敵機を路地の彼方へ押し出していく。
キルギバートが目を見開いた。かんぬきを掛けた化け物の胴体、その襟元に小さな金属板が見えた。
「ッ!? 見えた!!」
押しに張り出した機体の右腕を握らせ、首元に叩き込む。
「コクピットはそこかァーッ!!」
ジスト機のコクピットのモニターにひびが入り、スパークが彼を切り刻む。
『がはッ!? ……こいつ、ッ!』
カザトとファリアも、射線上にジストがいてはどうすることもできない。その二機の間に別のグラスレーヴェンが割り込んだ。
「こっちを、忘れるなぁっ!」
「ブラッド!?」
ブラッドが注意を反らしたファリア機へと襲い掛かった。ヴェルティアで踏み込みファリアが持っていた長砲身の火器を一刀両断し、さらに爆発した火器の炎を抜けて肉薄した。
「行けぇ、隊長ーーーッ!」
「すまん、ブラッド!」
キルギバートは叫び、ジスト機の塞がった腕に重刀を差すと、腰に差しておいた予備のディーゼでファリア機の背後を撃った。
『きゃあぁっ!?』
被弾の衝撃と正面から攻撃には耐えられても、パイロットは耐えられない。
『ファリアさんッ!』
「よそ見をすると危ないですよッ!!」
カザト機にクロスが組み付く。それを振り払おうと向き直ったその背後を、キルギバート機が掠め飛んだ。
『しまったッ!?』
ジストはキルギバートによってビルに押し付けられていた。キルギバートは呻くように唸り、さらにスイッチを押し込んだ。
爆発的な光の奔流がグラスレーヴェンの背部から放たれる。加速圧は、すでに計測機器の限界値すれすれまで掛かっている。それでもキルギバートは加速をやめない。
カジノの壁が割れた。機体がめり込み、地上階が崩落する。
地下へと落ちていく。
粉々になった瓦礫を押し流すように、金貨が滝のように降り注いだ。
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