第14話 ウィレ海軍連合艦隊、出撃


 ウィレ・ティルヴィアには四つの軍が存在する。


 一つ目に、モルト軍侵攻部隊と苛烈な防衛戦を展開しているウィレ陸軍。開戦まで正確無比な攻撃能力を有し、ウィレ・ティルヴィアの切り札とされた空軍。惑星軌道上までを席巻する宇宙艦隊を持っていたものの、開戦直後にモルト軍のグラスレーヴェンによって撃破され、現在は惑星内にまで後退を余儀なくされている宇宙軍。


 最後に海軍は水の惑星ウィレ・ティルヴィアの守護者として、まさにウィレ・ティルヴィア最後の切り札とみなされている。


 大陸歴2718年1月15日早朝。


 海の天候は目まぐるしく変わっていく。この日、東西大陸間にある最大の海洋、中央大洋の西大陸寄りの海域は分厚い雲が垂れこめ、時に暴風雨が吹きすさぶ荒れ模様だった。


 その嵐潮を裂いて、進む艦影があった。


 全長500メルを超える鋼鉄の巨体。世界どころか宇宙最大の50サンメル(=センチメートル)4連装主砲を艦の前後に計4基備えている。高さが50メルもある高層ビル並みの艦橋周辺を全自動対空防衛システムなどが取り囲んでいる。さらに後部デッキには夥しい数のミサイルサイロを備えている。

 旧時代であれば、この一隻さえあれば、一国を滅ぼすなど造作もなかっただろう。


 惑星ウィレ・ティルヴィアの国力の結晶。軍事、造船、電子、航空などのあらゆる技術の粋を結集した"象徴"。

 それが、この戦争の始まる5年前に就役したウィレ級戦艦だった。その一番艦アーシェスタインは、大型空母4隻を率いるウィレ・ティルヴィア第一主力艦隊の旗艦役を担っている。

 西大陸西沖は波高く風も強い。にも関わらず、艦体は微動だにしていない。

 まさに海上の要塞であった。

 その艦橋には、西大陸奪還の指揮を取る一人の提督が在る。


「提督。準備が整いました」


 艦隊幕僚の言葉にうなずいた、ウィレ・ティルヴィア海軍総司令官のメルニフ・ファーネルはマイクを寄越すように示した。士官が差し出したそれを握りしめると、ウィレ・ティルヴィア軍最大の戦力を配下に置く提督は重々しく口を開いた。


「メルニフ・ファーネルである。陸、空、海の勇士たちに告ぐ。我々は今、2世紀ぶりの戦争に身を投じている」


 メルニフの言葉はどこかぶっきら棒で、飾り気もない。しかし、その言葉が紡がれるたびに、上陸を待つ陸軍兵が、荒波に耐える海兵が、上空で機上の人となった航空兵が傾注した。


「ウィレ・ティルヴィア最高議会は我々に命じた。失われた国土を奪還せよと。諸君の前には未だ見ぬ数々の試練が待ち受けている。宇宙から降り立った侵略者、そして鋼鉄の兵士が待ち受けているのだ」


 既に揚陸部隊の一部からは、対岸の稜線をうごめく人影が見えている。彼らが初めて見る、モルト軍のグラスレーヴェンだ。


「だが、諸君に告げる。恐れてはならない。我々は何も失ってはいない。西大陸は今、モルト軍によって盗まれているだけだ。元の持ち主である我々の手で、西大陸を取り戻そう」


 波浪と暴風の轟音をかき消すような歓声が上がった。メルニフ・ファーネルが帽子を取り、振り上げた。


「ウィレ・ティルヴィアの海と大地と空を取り戻すために戦おう。私は常に諸君の先頭にある。全艦隊、砲撃を開始せよ! ウィレ・ティルヴィア万歳!」


 駆逐艦、護衛艦、巡洋艦、そして戦艦の後部デッキに取り付けられた夥しいサイロ・ハッチが開く。そこから、夜空を突き、次々と弾道弾が撃ち上げられる。


 次いでアーシェスタインの主砲が高々と天を突き、轟発した。


 発砲の爆風に、海が一瞬凪いだ。


 その隙間の向こう、海の果てに至るまでを、鋼鉄の艦の列が埋め尽くしている。


 ウィレ・ティルヴィア軍の総力を挙げた西大陸奪還作戦の幕が上がった。


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