第6話 勝ち残った部隊。それは――
「――これで二
「――アメリカ隊と津島寺隊。勝ち残りを賭けた両
「――それ以外にも二
その敗残兵たちの姿を、別のサイコドローンのカメラで観ながら。
「――そんな状況や状態でいたずらに流浪しても、体力を消耗するだけでなく、空腹も早める。どのみち、このグループ対戦での勝利は絶望的。戦果すらも挙げられまい。ここはもう、敵
「――そうですね。早期決着の短期決戦が前提の
「――どちらもその気はなさそうだな」
「――漁夫の利を得ようと」
――敗残兵たちも考えているのが、丸わかりなので。
「――確かに、組織的な統制が取れている二
そこまで言った
「――ん? 待てよ」
あることに気づき、特別顧問教員に視線を向ける。
「――そういえば、アメリカ隊が捕虜にしたドイツ隊の
「――補給物資を受けたあと、正式に投降し、演習場から退場しました。正式な捕虜として、
「――正式に投降? 正式な捕虜?」
質問した方はさらに疑問が深まる。
「――はい。
うなずいた
「――演習場に留まっている間の隊員たちは、降伏や降参を宣言しない限り、正式な投降兵として扱われません。演習開始前の
「……な、なるほど……」
「……では、この事象をどう解釈すればいい? 軍事的に考えて」
尋ねられた
「――前線への補給物資輸送ミスと、捕虜にした投降兵の後送として解釈するのが妥当かと思います」
よどみなく答える。
「――どちらも
「――はい。
断言した
「――なので、今後のアメリカ隊は、敵
「――なるほど。捕縛直後に正式な捕虜にしなかったのは、敵の補給物資を
「……で、いいのか?」
「――はい。
だが、
「――特に、敵を捕虜にした行為は、敵を倒すことよりも大きな加点です。いくら戦争とはいえ、人を殺すのは、人道に反する、最もな行為ですから――」
断言した
『――――――――』
息をのむ二人の監察官の記憶中枢から、一八年前の過去が掘り起こされる。
国防軍創設の際にも述べた、その言葉を。
当時は甘い考えだと思って、両者は受け入れられなかったが……。
「……だが、もし敵軍が我が国に侵攻したら、そんな綺麗事など――」
今でも受け入れられない一教員が、堪らずに口を挟むが、
「――言っても言わなくても変わりはありません。その事実と真実に」
これも断言する。
厳然たる態度で。
否定や反論はいっさい許さないとしか喩えようがなかった。
『……………………』
(……
内心でつぶやく武野寺
動乱終結まで共有していた、あの頃の
『……………………』
自身の意思とは無関係に。
(……カッちゃん……)
多田寺
今まで見たことない親友の様子に。
だからこそ見逃してしまったのである。
アメリカ隊と津島寺隊が初めて接敵した瞬間を。
それも正面から。
「――っ!」
長剣の切っ先が届くほどの至近距離で。
どちらも斥候として動いていたので、可能な限り気配を殺していたのだが、それが災いした。
双方ともに。
高密度の茂みで視界が大きく遮られていたのも、無視できない要因であった。
『……………………』
色とディティールの異なる野戦用戦闘服を、互いの男女は無言で視認する。
――はず、なのに……
「……
……の名が、
「そんなバカなァッ?!」
そのように記憶操作処置をしたはずの担当教員だった。
「――ないでおいの名を知っちょる?」
両の拳を固めただけの無手で。
硬氣功をまとわせたにも関わらず
。
「……なんて
むろん、驚きも
特に、ジャブに等しいはずの順突きのそれは、通常のストレートや逆突きよりも上回っていた。
身体構造上、ありえない威力である。
「……よりによって、この
アメリカ隊の
「……できれば佐味寺隊と
「――期待はおおむね甘いものよ」
「――ほう。言うようになったではないか、
こちらも偉そうに応ずる。
「――だが案ずるな。だからこそ
いつもの調子を取り戻した
「――はいはい、凄い凄い」
そっけない口調で受け流した。
「――おはんら遅れんなっ!」
背後に控えている自
「――げっ!
(――でも、人数は六人のようです――)
同様に
(――残りの二人は?)
(――わからニャいニャ――)
それに答えた
(――
珍しいことに。
地の利があるここでは、迫りりつつある敵
――のでは、
(――構うなっ! 目の前の敵にだけ集中しろっ! 別動隊はないっ!)
判断を迫られた
(――そんニャこと言われたって……)
しかし、
「っ!!」
――間さえなく、猫さながらな瞬発力で、その場から飛び去る。
勢いよく断ち切ってくれた迷いを、手にしていた
青白色の斬撃が、直前まで
そのまま叩きつけた地面が爆発し、土塊が四散する。
二本に両断された
迷ってなければ、
皮肉なことに。
集中を欠いていたからこそ、背後からの気配と奇襲に気づけたのだ。
「――ニャにが別動隊はニャイニャッ!! しっかりいたじゃニャいかァッ!!」
奇襲を受けた
奇襲に失敗したその敵隊員の野戦用戦闘服が、ついに自
――つまり、」
「――別の敵ニャッ!!」
――しか考えられなかった。
ただ、なぜ一人だけなのかまでは、いくら考えてもわかるわけがなかったので、その敵隊員が、津島寺
「――クソッ! 躱すんじゃねェッ!!」
とはいえ、個人としての戦闘力が高いのは、間半髪の差で躱した鋭い唐竹の斬撃と、そのまま地面に叩きつけてできた人間大のクレーターで明らかである。
「――このオンニャもあのオトコとお
その痕を見た
「……勝てるかニャ。この武器で……」
そんな状況下で難敵と遭遇した
交戦の意思を捨てずに
工兵科の
平崎院隊と佐味寺隊が遺棄した
斬撃の防御が容易な打撃武器でもあるので、剣との相性は決して悪くないが、
「――なんだっ?! その武器はっ!?」
その武器を視認した途端、
「ニャにゃ?」
相手の
ふたたび恐怖を喚起される
しかし、その
「~~なにが『限界まで整えた条件の平等性と均一化』だぁァ~ッ!」
「~~そんな武器ィ、こっちは最初から用意されてなかったぞォ~ッ!」
それも災害レベルの。
「~~アイツといい、あのヤロウといい、どいつもこいつもふざけやがってェッ!」
狂犬のように唸る海音寺
そして、それらの記憶が脳内でスパークした瞬間、
「――ぶっ殺してやるゥッ!!」
丹念に塗りつぶされた憎悪の感情で。
「――オトコどもは皆殺しだァッ!! この世から一人残らず消して――」
――やることなど不可能なセリフを、だが最後まで吐き尽くせぬまま、
その直前、頭部を一瞬、上下に揺さぶって。
――否、揺さぶられたのである。
『早斬り二連――
ただし、林立する森の中では、それが邪魔になるので、
ゆえに、
それを受けた時点で。
ゆえに、クレーターから這い上がる気配は微塵もなかった。、
早斬り対策は、
「――はやく行ってっ!」
森の奥から急かされた
一刻の猶予もない事態なのは、
手首のスナップだけで繰り出せる斬撃術なので、腰を落としての構えは元より、立ち止まらなくても使えるのだ。
「――急がないと」
だが、思いもかけぬ事態が、そんな
白兵戦に移行したアメリカ隊と津島寺隊は、激しい攻防を繰り広げていた。
それに先立ち、アメリカ隊は、
だが、平崎院隊の時と異なり、遮蔽物の多いの森林の中では、命中しにくかった。加えて、取り回しと命中精度の悪い
――結局、半包囲の陣形から斉射したアメリカ隊の人数は、
平崎院隊の時よりも三分の二に落ちた斉射密度である。
様々な悪条件の中で開始した半包囲斉射だが、それでも、突進する敵
しかし、一人だけまったく怯まず、平然と突進し続ける敵隊員がいた。
津島寺隊の
単身になっても、
敵
最初からそれしかなかった。
――ので、
「――吾輩が狙いかァッ!?」
蓬莱院
「――グはぁァッ!」
囮はあえなく敵の餌食にまんまとされた。
「ウソでしょ?!」
敵
「もし、吾輩が
突然、
「――
半包囲の一角を担っていたその隊員に、
その間、
「――なんで倒れないのよォッ?!」
だが、それ以上の現状把握は、
眼前で起きた現状の異変に、対応と対処を迫られて。
「……う、ウソでしょ……」
敵
顔面を両腕で
立ち尽くしているのではなく。
受けた弾数は一ダースを越えたのに、まるで効いてないのである。
それどころか、一歩一歩、ゆっくりだが確実に相手との距離を詰める。
「……まさか、
「――るには早いわっ! まだっ!」
折れる寸前だった
「……じゃ、なかった……」
……事実に、
「……いくらなんでも、脆弱すぎでしょ……」
今度は茫然となるが、よく見たら、
そして、それが終わると、
(――なるほど――)
なぜ半包囲する前の敵
演習開始から現在にいたるまでの詳細な経緯も知るが、今は――
(――この津島寺隊という
事実伝達の優先度が一番高い情報を、
(――OK、
(――わかったニャッ!)
それを受け取った
ただし、それはアメリカ隊に限った話であり、アメリカ隊と交戦中の津島寺隊は、その事実を知らない上に、そのアメリカ隊に関する情報も少なく、その面において不利である。おまけに、
ちなみに、
だが、それを伝えても、対戦
しかも、
(――これで、背後の敵はなんとかなるわね――)
肩越しにそこの戦況を眺めやっていた
「――だったら、これならどうっ!」
叫んだ
(――油断はできないけど、とりあえず、再考はできそうね――)
そのように看取した
過誤が無いかを再確認するために。
津島寺隊も、アメリカ隊と同様、開始直後に行動を開始し、
(――六人だったのは、そんなことがあったからなのね――)
六名に減少した津島寺隊は、
(……大丈夫なの。無補給で……)
食い溜めの利く
そんな津島寺隊の経緯に、
(――うん、間違いはないわね――)
再確認を終えた
(――いけない。ひとつ間違えてた――)
――ことに気づく。
現在、この対戦グループで健在な
(――平崎院隊がまだ全滅してない――)
ことに。
とは言っても、平崎院隊の生き残りはその
(――いいわ。別に伝えなくても――)
支障はないと
「――そういう時は黙ってろ。嘘も方便。知らぬが仏だ――」
演習開始前日まで、蓬莱院
見聞
上から目線の尊大な態度であったが、説得力のあるその内容に、
その
(――いっこうに連絡が取れない。いったい、どうしたのよ――)
消息と安否が不明の
二丁で火力の倍化をはかった分、その消費も倍化したからである。
しかも、
「――やっと止んだどっ!」
二丁拳銃の火線を受け続けていた
相手に向かって、一直線に。
当然、白兵戦が苦手な
「――次ィッ!!」
崩れ落ちる
「――
だが、しょせんは時間稼ぎ。
むろん、その一撃だけで仕留められるとは、
(――ダメだわ。全然応答しない……)
何度も
(――それこそ最悪の事態だわ――)
それを防ぐには、ここで津島寺隊の
(――ある――)
――ことに気づく。
(――情報収集以外の用途でなら――)
だが、それを実行するには、色々と問題――
「――よしっ、次っ!」
――を、考える
「――ええっ?! もうっ!?」
予想より早く倒れてしまった
それもそのはずである。
両手を広げた状態で相手の殴打を受け続ければ。
しかも美氣功しか使ってなかった。
「――お願い、やめて、津島寺さん」
悲劇のヒロインよろしく、悲痛で悲壮な表情で訴えながら。
「――思い出して。わたしのことを」
むろん、事前に記憶操作された状態の
早い話、犬死である。
「なにやってるのよォッ!?」
その時の見聞
むろん、ダメージはない。
演習開始の二十四時間前から一口も飲食してない者とは思えない動きである。
「――くっ、来るゥッ!?」
対応を迫られた
「――もうどうにでもなれェッ!!」
色々と問題のある最後の手段を、なし崩し的、かつ、即座に実行した。
「――大丈夫ですかっ!」
「――ああ、大丈夫や」
「――アタイもニャ」
それに応じた
「――おまいのおかげや」
「――助かったニャ、
それぞれ礼を言う両者の足元には、今まで相手にしていた敵隊員の二人が、そろって地面に伏している。
背後から受けた
「――あとは敵
そう言って
「……でも、気配を感じません……」
「……敵
その事実に。
「……静まり返って不気味だニャ……」
木々と茂みに覆われた周囲を。
「――
「――今やっとるが、応答はあらへん。誰一人」
「――
「……故障してしまいました。
「――それで連絡が取れニャかったんニャ」
「――はい。『ローカルテロ事件』以来、なぜか故障しやすくなって。
「――どうりで
「――とりあえず、
そんな二人に、
むろん、二人は従った。
周囲を警戒しながらなのも。
だが、気配はまったく感じない。
それが、三人の警戒心を強く働かせる結果となり、歩行も用心深さで鈍らざるを得ない。
そして、ようやくそこにたどり着くと、
「……なんや、これ……」
目の前の惨状に、
「……みんな……」
「……全滅、ニャ……」
「……アカン。全員、意識があらへん」
「……津島寺隊の
四人の
だが、その姿はどこにも見当たらない。
気配も。
――と思いきや、
「――っ!」
感じ取った。
気配を感じ取ったその先に、
さすがにこれは狐なので、前述の内容で喩えるのは無理があるが。
『――っ!』
その左右に並んで。
最初は微弱だったが、徐々に強くなり、ついにはあからさまになる。
茂みをかき分ける物音が、こちらに向かって。
明らかに接近の気配である。
そして、その気配を立てていた張本人が、茂みの中から飛び出すように、その姿を晒す。
三人の眼前に。
「――おまいは……」
その姿を認めた
「……あの
だがそれは、津島寺隊の
『あの
「……やっと、見つけ、ました、わ……」
その声はとても弱々しく、息絶え絶えであった。
「……な、なんや、やる気か? そないな状態で……」
一度は満たしたはずの空腹に、ふたたび襲われたのた。
万全の
もはや、これ以上の継戦は困難である。
そこへ、現在位置が不明の津島寺隊の
その際、津島寺隊以外の敵
「……どっちにせよ、やるしかあらへんな……」
「……………………」
そして、隊員のすべてを失った平崎院隊の
「……降伏、しますわ……」
それを宣言した。
三人まで減少したアメリカ隊に対して、
その瞬間――
(――演習~ッ、終了~ッ!)
――を、告げる合図とサイレンが、演習場に鳴りわたった。
『……………………へ?』
三人は状況を呑み込めずに困惑する。
「……僕たち、まだ
「……それって……」
「……つまり……」
両者の表情に理解の色が浮かぶ。
ゆえに、最後まで気づかなかった。
歓喜に沸く三人の死角では、津島寺隊の
倒木の陰になっていたので、視覚では発見できない位置にあった。
意識が喪失している状態では、気配を感じ取れないのも、無理はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます