第5話 各兵科の役割や存在意義が問われる今回の兵科合同陸上演習
「――落ち着いたようです。この
小型カメラが搭載されたサイコドローンのそれに
演習場の上空各所に浮遊散開している、そのひとつである。
高度一○○メートル付近には、
サイコドローンはその力によって浮遊しながら、下方で実施している兵科合同陸上演習の模様を
ただ、その力は微弱なので、kg《キログラム》はある
当然、機動
それでも、今回の兵科合同陸上演習において、演習参加生徒たちの動向を把握する監視カメラ装置として採用したのは、それでの運用なら支障はないと判断されたからである。一週間前の職員会議において。
とはいえ、やはり試作段階なので、それだけで演習の状況を把握するには、監察する監察官や教員たちにとっては心許なかった。演習に参加する生徒たちに、あらかじめエスパーダを装着させてから指定の演習開始地点に
そして、今回の演習は軍事機密に属する行為なので、武術トーナメントと異なり、一般の公開はアスネでも禁止されている。その漏洩を防止するための措置として、陸上防衛高等学校の演習運営担当者たちは、
それと並行して、
その苦労は、国防強化に追われる他の部署となんら変わりがなかった。
「――しかし、この状況下でよく思い切った行動ができたものだなァ。身分も性別も雑多な部隊構成だというに」
監察官の一人、
演習場に敷かれた監視網の一角から、その模様をながめ終えた後。
「――まったくだ。いくら採点的に長期戦を避けたい焦りがあるとはいえ、あまりにも大胆すぎる。事前の記憶操作によって、対戦|する
もう一人の監察官、
「――それでも、あの
「――そんな初期状況では、目と耳をふさがれた状態よりもきつい。もしオレ――いや、小官が
「――だからこそ動けたのですよ。アメリカ隊は」
特別顧問教員たる小野寺
「――どういうことだ?」
提示された
「――動くに動けないのは、どの
それに答えた
「――今回の兵科合同陸上演習のコンセプトは、『限界まで整えた戦闘条件の平等性と均一化』です。それは演習参加生徒もご存じの上に、そこまで記憶操作していません」
「――そうだ。だが、裏を返せば、それしか情報がないという意味なんだぞ。それだけでは、あまりにも不充分――」
「――ではありません」
「――むしろ、これ以上は望めないほどの確実性の高い情報です。それだけでも」
「――どういう意味だ?」
今度は
「――動くに動けないのは、どの
「――それを念頭に、自
――あえてそこで切った
「……丸、わかり……」
盲点を突かれた表情で。
「――そうか。そういうことかっ!」
どちらも得心まじりであった。
「……ど、どういうことなのでしょうか?」
今まで三者のやり取りを聞いていた男性教員の一人が、首を傾げながらも
「――どの
「――そんな状態で攻撃を受けたらひとたまりもない。だからまずはその鎮静化を計る。普通はな」
「――だが、それは容易ではない。仮に成功したとしても、それまでに時間がかかる」
「――しかし、アメリカ隊はどの
「――正確には、その
『――自
二人の監察官はその
奇しくも、声をハモらせて。
「――そのように判断したその歩兵科隊員は、一番近い敵
「――そんな状態で攻撃を受けたらひとたまりもない敵
「――そして、アメリカ隊の標的にされた敵
「――早斬りによって、瞬時にな」
「――しかも、その
「――壊乱状態の自
「――
「――結果、序盤としては、これ以上は考えられない戦果を挙げた」
『――まさに、
二人の監察官も阿吽の呼吸で交互と同時に述べる。
両者とも驚愕と感銘を受けた表情と口調だが、それ以上に驚愕と感銘を受けたのは、
「……………………」
賞賛した対象と賞賛した当人に対して。
言葉ではとても表現が不可能なので、無言で立ち尽くすしかなかった。
『……………………』
他の教員たちも
「――ですが、開始と同時に行動した
その沈黙を破るように、特別顧問教員たる
「――どこの部隊だっ!?」
振り返った
「――この
そう言って
回してもらった
「……これは……」
驚愕のつぶやきをこぼす。
自分の意思を無視して。
「――まさかアメリカ隊以外にも、アメリカ隊のように、ドイツ隊状態の部隊を壊滅させた部隊がいたのかっ!?」
続いて同サイコドローンに
「――なんという名の部隊だっ!?」
こちらも思わず身を乗り出して。
「――津島寺隊です」
「――と言っても、壊滅ではなく、壊乱ですが。津島寺隊に襲われた
「――壊乱?」
「――はい」
オウム返しで確認を求められた
「――開始直後に行動を開始したのはアメリカ隊と同じですが、その
『分散っ?!』
二人の監察官は驚きの声を上げる。
これも、奇しくも同時に。
「バカなっ?! なぜそのような指示をっ!?」
「――戦力の分散など、各個撃破の恰好の餌食でしかないぞっ! なのに、なぜ……」
「――おそらく、早斬り対策でしょう」
落ち着きのない二人の監察官の疑問に。
「――一ヶ所に集結したままの状態で早斬りの奇襲を受けたら瞬時に壊滅してしまいますからね。現にドイツ隊もそれで壊滅しました。津島寺|隊の
「……なるほど。本来は愚策でしかない戦力を分散させれば、一網打尽にされる心配はないからな」
「――だが、それは同時に、津島寺|隊の中に、早斬りが使える隊員が存在しない事実を意味する」
「……ど、どうしてそれがお
さきほど
「――今、言った通り、戦力の分散は、通常は愚策でしかない行為。もし早斬りの使い手が自部隊内に一人でもいれば、アメリカ隊と似た行動を取るはず。それが最善なのは、アメリカ隊が挙げた戦果が証明している」
「――開始直後に命令を下せるほどの沈着な
「――にも関わらずそれを実行に移さなかった――いや、移せなかった。それが何よりの証左だ」
「――だから次善策を採らざるをえなかった。自部隊の戦力分散と|並行しての|、
サイコドローンの搭載カメラを通して。
「――完全に壊乱しました。奇襲を受けた
そのサイコドローンに
「――当然の結果だな。奇襲を受けた部隊の
「――奇襲で半減した残りの隊員たちが散り散りとなってはな。こうなっては再集結も不可能だろう。奇襲を受けた
二人の監察官はそっけない口調で断定する。
「……ですが、戦力の分散なら、奇襲をかけた津島寺隊も……」
教員の一人が三度うかがうを立てる。
「――確かに、津島寺隊も戦力を分散した。だが、それは統率の取れた部隊のそれだ。その証拠に、敵
「――やはり、戦力の分散は愚策であることを知悉していたんだ。だから頃合いを見て戦力の再集結をうながし、自身も迷わず撤退した」
「――早斬りで一網打尽にされる状況が過ぎ去る頃のな」
「――津島寺隊の
「――追跡する敵
二人の監察官はその模様を
「――見事な采配と行動力だ。津島寺隊の
「――ああ。アメリカ隊よりも荒っぽい命令と従わせ方だったが、それだけに動揺や混乱を鎮めさせる効果があった」
「――恐らく、意図的にな」
「――兵科やタイプは違えど、アメリカ隊の
「――戦果はアメリカ隊に及ばないがな」
「――それでも十分な戦果だ。アメリカ隊の戦果が高すぎるだけで、この相対評価は参考にならない。絶対評価するなら、どちらも水準をはるかに上回っている」
だが そのあと、今度は興ざめの表情と口調に再度一転させて続ける。
「――それに引き換え、奇襲を受けたあの
「……海音寺隊です。海音寺
武野寺
「――ああ。この前の武術トーナメントで三位だったあの女性士族か。表彰式を無断欠席した、あの」
「――そういえば、優勝候補の双璧を担うその片割れだと、開催直前の下馬評では謳われていたらしい」
「――もうひとつの片割れは、たしか、平崎院という、華族の子女だったな」
「……その女子生徒も、
事実を確認し合う二人の監察官に、その旨と捕捉を述べたのも武野寺
「――現在、平崎院隊の
そちらにカメラを向けているサイコドローンに
「――状況の『対処』より『把握』を優先したわけか。アメリカ隊や津島寺隊と違って」
「――あれほどの混乱と動揺ぶりだ。この距離でも充分にその気配を察知できたはず」
「――それでも動かなかったのは、やはり状況の『把握』を優先した結果か」
「――海音寺隊の
「――それでも、判断を誤ったことに変わりはないな。もし早斬りでの奇襲を受けたら、ドイツ隊のように壊滅されていたこともな。その情報は、記憶操作によって、どの部隊も等しく保有しているというのに」
「――運が良かったな。状況の『対処』を優先した二部隊の標的にされなくて」
「――海音寺隊の
二人の監察官は肩をすくめて酷評する。
「~~~~~~~~っ!」
それに対して、その二人の女子生徒を内心で高く評価していた武野寺
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
その
「……カッちゃん……」
多田寺
「……これが各部隊の現状と状態か……」
「――いや、待て。あと一部隊の動向を、
「――そうだった。すっかり失念していた。開始直後の状況の激変ぶりに、つい……」
「――で、どの部隊なんだ?」
「――佐味寺隊です」
答えた
「――佐味寺隊も、海音寺隊の
「――行く当てもなく、ぞろぞろとか」
つけ加えた
「――平崎院隊のように、奇襲に対する警戒も警戒心もなく、部隊の統制も幼稚園児の引率レベル。とりあえず、動いておけとしか考えてないのだろう。浅慮のかぎりだ」
「――こちらも早斬りの奇襲を受けたら壊滅は必至だな。演習開始地点から動き始めたのも、早斬りで一網打尽にされる危険な時間帯が過ぎたあとだ。完全にタイミングがずれている」
「――こちらも運が良かったな」
「――いえ、逆ですね」
「――どうしてだ?」
「――佐味寺隊が見つけたからです」
「――敵部隊をかっ!?」
「――いえ。市街地をです」
「……市街地?」
首を傾げる
「――正確には、演習用に設置した模擬市街地です。なので、民間人は一人もいませし、面積も一軒家しかありません」
その説明に、
「――だが、そんなものを設置してどうする? 今回の演習にどんな影響が――」
「……ある」
「……それも、絶大にな……」
それも、声を震わせて。
「……小野寺特別顧問教員。もしかして、その模擬市街地には……」
「――はい。民間人もいなければ、市街の建物もありませんが、それ以外なら一通り揃えてあります」
淡々と答えた
「……なんてヤツだ……」
「……だから演習に参加する生徒たちを断食させたのか……」
「――ええ。空腹の状態にさせませんと、採点の効果がありませんから」
「――どういうことだ、小野寺?」
「――おい、まだ気づかないのか。
「――その状態の軍隊が市街地に入ったらなにをするかを」
「……あ……」
慄然をともなって。
「……どうやら、敵は対戦グループ内の部隊だけではないな」
「……ある意味、敵部隊よりもやっかいだ」
「……対処を間違えれば、採点に大きく響くな。初動で挙げたアメリカ隊の戦果よりも」
「――そういう採点法なのだろう」
「……はい。その通りです」
多田寺
「……なんて意地の悪い罠だ……」
「……だが、過去の戦史を振り返っても、その事態は日常茶飯事といっても過言ではなかった。一周目時代でもな」
「……まったくだ、なんて……」
『……現実的で理にかなった
二人の監察官は声を揃えてつぶやく。
驚愕と戦慄に、それは満ちていた。
「――あれ?」
撤収準備に入ったアメリカ隊の中で、どの
「――クンたんがいないニャ」
いつの間にか自分の彼氏が姿を消したことに。
壊滅したドイツ隊の演習開始地点から。
「――ホントだ」
壊滅させた張本人も続いて気づく。
「……しまった。吾輩としたことが……」
撤収指揮を執っていた蓬莱院
「……空腹ごときで全隊員の動向を見落としてしまうとは……」
集結した隊員が、全員ではないことを確認して。
「……こないな時に、どこへいったんや。あのドックフードジャンカーは……」
――そこへ、
「――あの方向に、犬飼さんの気配を――」
「――よし、全員で行くぞ。ただし、各自ある程度の距離を置いてな」
「……ここは?」
先行していた
その中央にそびえ立つ小山を認めて。
小山なので、高さは青年男子の平均身長よりも二倍しかないが、その色は地面と同じ土色ではない。
――どころか、土ですらない。
地味だが異なる色彩で細かく区切られており、その形状もどれも直方体ばかりで、サイズも大小さまざまである。
木箱、ダンボール、プラスチック容器……
「……なにかの物資?」
――が、文字通りの意味で山積みになっている状態を、
その
「――なにをしているのですか?」
その後姿の
「――あ、ゆうワン」
その声で振り向き、嬉しそうに声を上げた
中年のコソ泥みたいな塗りたくった口ひげで。
「――ゆうワンも食べるワン。美味しいワン」
「受け取るなァッ!!」
鋭い制止の声が、飛来したナイフさながらの鋭さで深く背中に突き刺さると、その手を止める。
「こっちまで退がれっ! 急げェッ!!」
「……あぶないところだった……」
頬の汗をぬぐった
これ以上はない大きさで。
「……もしかして……」
その様子を見て、
「……ニャにがあったんニャ?」
続いて到着した
「――あ、クンたんがいたっ!」
彼氏の姿を認めると、一旦は止めた足を動かして、一直線に駆け寄ろうとする。
「――待てっ!」
しかし、それは
水平に伸ばした腕で。
「……………………」
無言で
強面な分、それが際立つ。
「……わかっているな、
「……ああ。コレはワイの仕事や……」
「……ニャ、ニャにをするんニャ……」
不安になった
「――犬飼」
名を呼ばれた
距離を置いているが、それは意図的であった。
「……………………」
「ワオーンッ!」
眉間を撃たれた
意識は完全に喪失している。
だが、よりにもよって、味方の手で、有無を言わさずにそれを強制されられた行為に、
「ニャにをするんニャァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして、制止していた
「ニャんでクンたんを撃ったんニャァツ!? クンたんが
「――民需物資の略奪をだ」
続いて駆け寄ってきた
冷淡というには、苦しそうな響きを帯びた声で。
「――見ろ。この看板を」
「――市街地
――のゴシック文字で書かれたそれを、口に出して読む。
「……どういうことニャ?」
それでも理解できない
「――ここでやりおった犬飼の行為は、民間人の食糧物資を略奪したそれと同義なんや」
沈痛きわまりない表情で。
「――国防軍において、民間人に対する危害や略奪は重大な軍規違反。敵前逃亡と同様、問答無用で極刑に処せなアカンのや」
「――軍規に則って処断しないと、駐留軍に対する民間人の不信感が大きく募り、軍事行動は元より、政治的な意味においても、重大な支障をきたす。だから
「――もし
それも冷や汗まじりに。
その量も多かった。
それが、この事態の深刻さを、充分すぎるほどに物語っていた。
「……そ、そんニャ……」
「……ちょっと盗み食いしただけで、死刑ニャのか? 第二日本国の法律じゃそこまで厳しくニャいのに……」
「……戦時における軍隊の軍規は、平時の法律よりも優先される。平時では軽かった刑も、戦時では極端に重くなる場合があるのだ。むろん、適用の対象者は軍人だけだが、それは非戦闘員の
「……空腹状態で開始させたのは、この面においても試すためやったんか……」
こちらも愕然となる
「……というより、これが本命だな。
「……なんちゅう罠や。いくらなんでもエグずぎるで……」
「……まったくだ。いったい誰なんだ? こんな
それは小野寺
「……それでも、おかしいニャ」
しかし、それでも
「……いくら空腹でも、ドックグードにしか目がニャいクンたんが、それ以外に手をつけるニャんて……」
「はよ治せェッ!! その偏食ゥッ!! いつか死ぬでェッ!!」
しかし、その疑問はすぐに氷解した。
「――ドックフードです。犬飼さんが食べていたのは――」
糸目の視線だけでそれを調べていた
『…………………………………………………………………………………………………………』
一同は無言で立ち尽くす。
『…………………………………………………………………………………………………………』
演習用に設置した模擬市街地に、何とも言えない沈黙が降り立つ。
まだ本格的な秋の季節を迎えてないのに、冬の冷たい風が吹く。
だが、何を言いたいのかは、口に出さずとも、この場にいる一同はわかりきっていた。
(……なぜ
を。
「………………………?」
ただし、
きょとんとした表情で、一同をキョロキョロと見回しているそれが、額縁つきで証明していた。
(――
その一同のエスパーダに、
「――り、
それで我に返った清は、目が覚めた表情で応答する。
(――いかんイカン。吾輩としたことが……)
(――どうしたのよ? いったい――)
(――あとで説明する。それより、そっちこそどうした? 合流が遅いぞ――)
(――追いかけている途中で見つけたのよ。
その応答に、
(――まさか、物資が山積みの模擬市街地をかっ!?)
(……え? なにそれ? 違うわよ――)
(――なんだ、違うのか。脅かすな、まったく――)
(……本当にどうしたのよ、いったい……)
(――で、なにを見つけたというのだ――)
深めた方は構わず
(――敵よ。敵
(――なんだ。敵
(……動揺してたのは
(――わかった。こちらもすぐそちらへ向かう――)
(――それまで敵
「……いったいどうなっているの?」
平崎院
「……わ、わからない……」
「……いきなり
「……あんな
それに応じた『
「……どうしたらいいのかしら……」
開始の合図が挙がってからずっとこの状態である。
平崎院隊は。
正四方に向いた状態の歩兵科隊員たちは、背後の非戦闘員たちを守りながら、周囲の様子を
そのあちこちで光弾や悲鳴が断続的に上がっているが、それ以上のことは霧の中である。
演習場に漂っていた朝霧が、すでに晴れているにも関わらず。
視界が物理的な意味で鮮明になっても、動くに動けないでいる。
「――補給物資もすでに受け取っているはずなのに、まだ動かないとは、あまりにも優柔が不断すぎる」
平崎院隊の様子を、茂みの隙間から窺っていた
「……でも、補給、物資、が、そんな、に、多く、ない、から……」
第一発見者の
「――だとしても、あまりにも消極的すぎる。時間が経過すればするほど減点して行く採点方式だというのに、いつまでも途方に暮れてどうする。たとえ漁夫の利を得る魂胆だとしても、こんな目立つ
敵状を説明する
切れ味が抜群の毒舌ぶりである。
アメリカ隊の主観だが、それでも客観的な評価に変わりはない。
「――やはり正解だったわね。ドイツ隊の輜重兵科
一点の曇りもない素直さで。
それも当然であろう。
想像も想定も不可能な事態に見舞われたアメリカ隊は、自
ただし、かろうじて、だが。
アメリカ隊ですらこの有様な以上、他
「――どうやら均等じゃなかったみたいよ」
平崎院隊の一人にテレハックした
むろん、それだけではない。
(――それでは、
だからこそ、
「――恐らく、歩兵科
「――誰だか知らないが、愚かな
(――戦略が成功する三条件のひとつ――『人の和』は
「――『地の利』もね。
もうひとつの三条件をつけ加えた
「――
「――ええ。たったいま終わった。|今から
すると、
「――ほう」
感嘆の声を、思わず漏らす。
「――いい出来だ、
めずらしく率直な賞賛を、
ただ、その地図は、紙面や画像みたいに、上空からの垂直視点で
これなら、二次元の地図よりも正確に自身の位置を把握することができる上、いちいち自身の現在位置を肉眼や脳内で確認する必要はない。『ながら見』など、
それぞれの個人で得たそれよりも。
「――よし。これを各隊員に送信。内容を把握次第、所定の位置につけ」
いずれにしても、アメリカ隊は、『地の利』を得るのに必須な要件――地形の情報を満たした。
演習開始地点から一歩も動かずに留まっている平崎院隊よりも、はるかに。
演習が開始する前、平等に与えらた対戦
もしいたら、この場に留まる理由も意味もない。
平崎院隊がいまだ演習開始地点で留まっている理由は、未知の領域である森林の中で、どこにいるのかもわからない対戦
――そして、戦略が成功する三条件の残りひとつ――『天の時』に至っては、完全にアメリカ隊が制していた。
演習開始の合図で即行に移せたか否かの時点で。
いまだ開始時点でとどまっている事象が、前述の仮定を含めて証明していた。
つまり、平崎院隊は、至近で潜んでいるアメリカ隊に対して、その存在をいまだ察知できないでいるだけでなく、戦略が成功する三条件――『地の利』、『天の時』、『人の和』のすべてが劣っているのである。
約束されたも当然の必勝を――
(――総員。
完全な事実にするため、
所定の位置につきつつある隊員たちに。
ガサッ
『っ!!』
近くではっきりと聴こえたその物音に、平崎院隊の全員が、全身に緊張を張りめぐらせる。
だが、その方角に身体ごと向けた総員の動きはとてもぎこちなかった。
過度の緊張がそれを強いていた。
絶対的な情報不足の上に、敵
とはいえ、情報収集活動を実施していれば、問題なく
「――ついに来たわね」
平崎院
その直後、こちらも待ってましたと言わんばかりの閃弾が、物音がした茂みの隙間から飛来する。
「――やはり敵
激しいが一方向の一砲口しか発砲されない
その
――の側背を、
『ヒャッハァーッ!!』
下品な雄叫びを上げて襲い掛かる。
佐味寺隊が。
『なァぁッ?!』
前方にしか注意を向けてなかった平崎院隊は、左右と背後の三方から繰り出して来た
非戦闘員である工兵科と輜重兵科と
「――しまったわっ!」
振り向いた
――前に撃ち倒された。
『打ち倒された』のではなく。
茂みからの狙撃によって、である。
平崎院隊の注意を引いていた一方向からの射撃が再開されたのだ。
だが、今度は一砲口だけではなかった。
その六倍の弾幕が、青白色の豪雨となって水平に降りかかって来たのである。
平崎院隊だけでなく、佐味寺隊にも。
『ナぁァっ?!』
当然、両
両
――結局、この無差別斉射攻撃からなんどか離脱を果たせたのは、
それ以外の隊員はすべて
「――撃ち方止めい」
その様子を茂みの隙間から窺っていた
「――OKOK。
絶賛の声を、その後につけ加えて隊員たちに送る。
「……ホントだわ、もう……」
両手で握っている
ただし、
「……『地の利』がある
所定の位置たる陣地に散開させていた隊員たちを、急遽
「――仕方ありませんよ、
佐味寺隊の気配を察知した
「――でも、そのおかげで予定よりも多くの戦果を挙げることができました。さすが
「――え? アタシ?」
「――だって、
「……め、命中精度よりも、連射性能を優先したからね。
自分の意思に関係なく。
よそ見をしたのも。
笑顔であふれた糸目の表情がとてもまぶしく、ついに直視できなくなったのである。
「――でも、あれほどの高密度な弾幕で斉射できたのは、
それでもなんとか褒め返すが、赤く染まった頬が元の色に戻る気配はない。
「――いずれにせよ、ドイツ隊の壊滅を越える戦果を挙げたのは確かだな。これで
周囲を警戒する四人の隊員たちも含めて、アメリカ隊の
「――ボクもそう思います。今の掃滅で周囲の気配が急速に少なくなったような気がします。開始直後の時よりも。なんとなく、半数以上が
「――これからどうするの?
「――とりあえず、ダース単位て掃滅できる機会が再来しないのは確かだな。それだけ激減したのなら」
「――それじゃ、変更前の戦術に戻した方がいいと思います。
「――うむ。
「――よし。それを基本方針に戦術を組み立てる。
「――はい」
「――クソッ!、なんでこうなるんだよォッ!?」
佐味寺
森林の中を全力で疾走しながら。
遁走とも言える。
「――こうなったのもすべてアイツのせいだァッ!」
自
演習が開始されたあと、佐味寺三兄弟は、兄弟共々、ひととおり空に向かって文句を言い終えると、不平と不満をこぼしながら歩き始めた。
戦略的な目的も意味も皆無な、行く当てのない進軍であった。
しかも、無警戒な上に隊列を成してなかったので、もしその状態で奇襲を受けたら、早斬りでなくても壊乱と壊滅は必至であった。
そういう意味ではこれも運が良かったと言える。
山積みになった物資をその先で発見したのも。
だが、それは悪い意味で運が良かった。
結局、運が悪かったのである。
空腹状態だった佐味寺隊の隊員たちは、最初に発見した
空腹を満たすべく、我先と争って。
それが、略奪行為に該当すると気づいた
なんのためらいもなく。
ハイエナやハゲタカさながらの醜悪さであった。
自
……結果、佐味寺隊の隊員は三名まで減少した。
残りはすべて
民需物資で腹を満たした佐味寺三兄弟は、ふたたび当てもなく歩き始めると、その先で平崎院隊を偶然発見する。こちらの存在に感づいてない様子に、佐味寺三兄弟は、奇襲を決断し、一方向に注視している敵
だが、その動向は、アメリカ隊の
「――アイツさえトチ狂わなければ、こんなことにならなかったっつうのによォッ! 全部アイツのせいだァッ!! これだから平民は使えねェぜェッ!!」
疾走中の
正面の敵
憎悪で歪んだ顔面にカウンターを叩き込まれて。
もんどりうった
「――ないばしちょっど? こいは?」
そのままずり落ちる
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます