第1話 自由奔放娘

琉生るい視点~


 藍子は3姉妹の末っ子。

一番上の姉とは一回りも離れている。二番目の姉とは6歳離れている。

藍子が産まれた時には、お母さんが3人いるような環境だった。


 そんな環境の中で、藍子は当然のように甘やかされ、自由奔放に過ごしてきた。小さい頃は、新しい洋服を着て登校しても、泥だらけで帰宅したり、時には鉄棒でスカートまわりをしたら切れたと言ってスカートをビリビリにして帰宅したり。


 とにかくやんちゃな、野生児のような、男の子のような毎日を送っていた。幸い、末っ子には、洋服は余るほどある。藍子の家庭は、二番目も三番目も上からのおさがりの服ではなく新しく買ってもらえる家だったのだが、藍子は自分のものとして買ってもらったものもすぐに汚してしまう為、必然的に一番目のものも二番目のものも藍子のものになっていたからだ。


 毎日、元気に遊びまわり、その有り余る元気っぷりで、いつだって成績は体育だけが全学年を通して一番良かった。


 勉強は苦手。机を前に座っていることがとにかく苦手だったから、当然机上の教科の成績は壊滅的だった。学年が上がるたびに「一度、病院で検査を受けてもらって来てください」と発達障害を心配されるのだが、そのたびに検査では何も問題がないと言われ続けていた。


 落ち着きがないのは、単に外で遊びたいから。

勉強に集中できないのは、自分が遊びたい遊具を誰かに取られてしまうのが嫌だったから。


わがままの典型的な性格なだけだった。


 それでも家族は藍子を可愛がり、自由奔放な生活はゆるぎないものとなっていた。僕は、藍子の幼馴染。いつだって、藍子に泣かされ、からかわれていたが、なぜか一緒にいると安心できる存在だったから、気がつくといつも一緒にいた。


 藍子のことを恋愛感情で見ることは一度もなかった。だから、年頃になり、ふたりとも恋人が出来ても、ヤキモチを妬くどころか、お互い応援し合っていた。


 中学に入り、そんな藍子の環境が少しずつ変わっていった時も僕は藍子から離れることは考えられなかった。


 まず最初に藍子の環境が変わったのが、一番上の姉の結婚だった。藍子が中学に入って間もなく、一番上の姉は結婚して、家を出た。旦那さんの海外赴任が決まっていたので、一緒に海外に行ってしまったのだ。


 その頃から、二番目の姉は体調が優れず、入退院を繰り返すようになっていた。そのせいで、お母さんは二番目の姉につきっきりになることが多くなった。


 それまで自由奔放だった藍子は、家事を一手に引き受けることになってしまったのだ。それでも、基本、優しい奴で、誰かのために自分が動くことは当たり前だと思う性格だったおかげで、慣れない家事もみるみるコツを掴んで、小学生の頃のやんちゃな野生児は、どんどん影を潜めていった。


 藍子のお父さんは、仕事人間で、とにかく家に長時間いることがない人だったが、どんなに遅くなっても自宅で夕飯を食べる、どんなに早く出勤でも朝食は自宅で食べる人だった。だから、藍子は試験前だろうが体調不良だろうが、お父さんの時間に合わせて食事の支度をしていた。


 藍子のお母さんは、料亭の調理場で長いこと働いていたので、とにかく料理が上手だった。その料理を食べ慣れていたから、お父さんは最初、藍子の料理を一口食べては「作り直せ」を繰り返していた。そのたび藍子は必死に作り直しを繰り返した。


 しかし、お父さんが藍子の料理を食べてくれるようになるまでには、そう時間はかからなかった。藍子はお母さんが帰宅するたびにレシピを聞き、時間があれば一緒に料理を作りながらコツを掴んでいったのだ。


 藍子が家庭を切り盛りするようになってから2年後。二番目の姉は他界した。それを機にお母さんはふさぎ込むようになり、しまいには寝込むようになっていった。藍子は家事に加え、お母さんの看病も加わってしまったのだ。


藍子、中学3年生。受験の年のことだった。


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