第30話 after story


「帰ったぞー」

「あ、お帰りなさいシュリンガー! お仕事お疲れ様」



 一仕事終えた俺ことシュリンガーを迎えるピンク色の長い髪をたなびかせながらぴょんぴょんと跳ねる女性。カルシアだ。

 以前短かった髪はこの数年で伸び、その顔つきも少女から女のものへと変化した。他にも外見だけはすくすくと成長しているカルシアだが、中身だけは出会った頃のままだ。






「っておい!? まだ安静にしてなきゃダメだろ!?」

「えーーー? もう大丈夫だよ~。お仕事の方にも戻りたいくらいなんだから」

「まだ安静にしてなきゃダメだろ。お前の体は俺の物でもあるんだから無茶するな」

「またそんな事言って……。そんなので私がいう事聞くと思ったら大間違いなんだからね?」



 などと言いつつ、顔を赤らめて大人しくなるカルシア。



「シュリアは?」

「ぐっすり寝てる。見てみてこの寝顔! 可愛いでしょ~?」

「ああ、そうだな」



 ベッドですやすやと寝ている赤ん坊、シュリア。その頭をそっと撫でる。

 

「ただいまだ、シュリア。元気にしていたか?」

「zzz……zzz……」


 シュリアにもただいまの挨拶をする。、


 シュリア・エレクト。

 先日生まれた俺とカルシアの子。女の子だ。



「本当に……よく寝ている」

「ふふっ。どっかの誰かさんと寝顔と違って見ているだけで癒されるでしょう?」

「そうだな。お前のアホみたいな寝顔は見ていてもイラつくだけだが、シュリアの寝顔は見ていて不快じゃないな」

「私の寝顔そんなふうに見てたの!?」

「冗談だ。お前の寝顔はなんというか……あれだ。色々考えるのが馬鹿らしくなる寝顔だな」

「それって褒めてるの!?」

「当然だ。俺がどれだけお前に夢中なのか。また一から説明してやろうか?」

「……ずるい」

「ん? 何がだ?」

「ひーみーつー! まったく……困ったお父さんですよねー。シュリアはこんな男に引っかからないようにしなきゃですよー」




 カルシアが話をそこで打ち切り、シュリアへと語りかける。

 ふむ……。



「おいシュリアよ。お前は確かに可愛い我が子だ。だが……俺からカルシアを奪うというなら容赦はせんぞ?」

「お願いだから子供と張り合わないで!? そんなシュリンガー見たくないから!!」

「な……もう俺の顔など見たくもないと言う……のか……」

「そういう意味じゃないよ!?」



 などといつものようなやり取りが交わされる。



 現在、俺とカルシアはデヒュールヒーズ城の城下に街を興し、そこで暮らし……理想の為に戦っている。


 俺たちが目指すもの、それはカルシアの言っていた平和な世界だ。

 それは人間族だけの平和ではない。魔人族だけの平和でもない。人間族、魔人族、この両者が手と手をとりあえるような世界を目指している。


 俺たちが戦っているのは他でもない。争いを望むような人間、魔族。そして人間を食い物にする魔物だ。

 敵は多く、険しい道を選んでいるなという自覚はある。だが、これは亡き魔王様も望んでいた夢だ。諦めたくはない。


 それに、あながち無茶な理想でもなくなってきている。



 掲げたこの理想に共感したものが種族問わず、続々とこのデヒュールヒーズ城下に集まってきているのだ。

 もちろん最初からすべてうまく行ったわけではない。他の勢力の介入によって内から崩壊しかけたことすらもあった。



 だが、そんな城下も今では魔人と人間が共に平和に暮らしている。共存出来ているのだ。


 もっとも、それはこの城下限定での話だ。いまだに魔人と人間との争いは後を尽きない。





「この子が成人するまでに平和な世界を作りたいものだな」

「でしょ? だったら私もお仕事に復帰させてよ! もうジッとしてられないんだから!」

「それとこれとは話が別だ。シュリアを一人にするのも不安だしな」

「むぅ。そう言われたら反論できないじゃない」


 

 カルシアが不承不承ながら頷いてくれる。

 


「でも、今日はたくさん付き合ってもらうんだからね? 最近忙しい忙しいってロクに帰ってこないんだから」


 そう言ってカルシアはドキっとするような笑みを浮かべる。


「ああ。だが無理は……」

「しりませーん! 女の子にはしゃぎたい時があるんでーす」

「お前はいつもはしゃいでいるだろうに……ふっ」



 自然と――笑みが浮かぶ。


 カルシアが隣に居れば……彼女が隣に居れば俺は笑える。


 彼女が……俺たちの子供がいつまでも笑っていられるような世界を創ろう。

 カルシアと一緒に……創るんだ。


 そう、俺は心に誓うのだった。


 Fin

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暗黒騎士と白魔術師 @smallwolf

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