第27話 復……活!!



 (シュリンガー!?)



 衝撃でした。

 シュリンガーが自分の手足を斬り落とすだなんて……。

 彼がそんな行動に出るなんて想定外すぎました。



 (なんて事を――)



 これは……いくらなんでもあんまりです。

 こんなので離ればなれになるなんて笑い話にもなりません。




 (う……ごけ!)



 こんな間抜けな終わり方。認められません! ちょっとしたすれ違いと、私のドジでこうなっちゃっただけじゃないですか!!



 (う……ごけーーーーーーーーーーー!!)



 私なら治せる! 私なら癒せる!! まだ……間に合うんです!!



「急げ! 手遅れになるぞ!?」

「いいんですか副隊長!? 隊長の指示に反してこんな勝手……」

「気にするな!! 全責任は俺が負う。俺にはこいつらを見捨てるなんぞ出来ん!!」



 数人の足音と共に、そんな話し声が聞こえてくる。

 シュリンガーの覚悟がみんなにも伝わったみたいです。



 (早く……私は何の問題もないから……シュリンガーを……)



 せめて、応急手当だけはして欲しいと、私は願う。

 生きてさえいればいくらでも私が癒せる。だから――お願い。




「――男の方は出血多量! ただちに処置し、死なせるな! カルシア様の方はどうだ!?」

「少々お待ちください!! ――失礼します、カルシア様」




 そう言ってを抱き上げる名も知らぬ誰か。

 女の人の声だ。聞いたことがあるような……ないような……。



「……あれ?」



 その名も知らぬ誰かは違和感を覚えたのか。間抜けな声をあげる。ええ、そうですよ! 処置する必要なんてないんですよ! だからあなたもシュリンガーの治療に回ってください!!



「どうした!? カルシア様の状態は!?」

「いえ……あの……もう少し時間をください」



 そう言って名も知らぬ誰かは私の体にぺたぺたと触れてくる。

 腕、足、首の付け根。そういった場所に触れ、私の健康状態を確認している。



「これは――なるほど。カルシア様、意識はありますか?」



 (ありますけどそれを伝える手段がないんですよ!!)


 今も必死に自身の体を癒している真っ最中だが、一向に体が動いてくれない。もう十分に癒されているはずなのに……。



「意識があるのならばそのままお聞きください、カルシア様。自身に治癒魔法をかけ続けていらっしゃいますよね? それを一旦止めてください」



 (一刻も早く自分の体を治し、動かくちゃいけないいこの状況でそんな事できるわけないじゃないですか!?)


 当然、無視して自身への治癒を継続して行う。

 だが――


「今、カルシア様の体は過剰に免疫力が循環している状態なんです。どんな傷を負ったのかは分かりませんがもう完全に完治しているんですよ!! それなのに免疫力を限界まで高めてしまっているせいでそれが逆に害になっているんです。その害すらも治癒魔法は治そうとしてしまって、体に負担がかかって身動きが取れないというのがカルシア様の状態なんです! だから――」

「――ったぁ!!!」



 どこか聞き覚えがある女の人の言葉を途中で遮り、私は自分への治癒を即刻辞めて起き上がります。しかし――



「「痛ぁっ!?(ゴチーンッ)」」



 名も知らぬ女の人の頭と私の頭がぶつかり、一瞬お星さまが見えました。

 よ、よく考えたらそりゃそうなりますよね……。私を介抱? してくれてたんですからそりゃすぐ近くに居るわけで、いきなり起き上がったりなんかしたらぶつかるのも当然ですよね……。



「あいたたた……すみません」


 私は素直に謝ります。


「いえいえ。ご無事で何よりです。それよりも――」



 そう言って金髪ロングの少女はシュリンガーが居る方向を指さす。うーん、やはりどこかで会った気がするんですが、思い出せません。白いローブを深々とかぶっていてハッキリと顔も見えないから当然かもですけど……。その身なりから私と同じ白魔導士だというのは分かりますが、それ以上は分かりません。



 ――って今はそんな事どうでもいいです!!



 少女の指さす方向には幾人かの兵士がシュリンガーを取り囲んでおり、お世辞にも手際が良いとは言えない応急処置を施そうとしていた。

 更にはその内の幾人かがこちらを口をポカンと開けながら見ており――私はイラっときた。



「あーーーーーー!! もう! どいてください!! ほら、どいて!!」



 私は立ち上がるやいなや、シュリンガーの周りの兵士さんたちをどかせてすぐにシュリンガーの状態を見ます。

 


 結果。


 (なんて……荒っぽい処置なんですか!?)


 確かに止血処理などは大切だが、本当にそれだけしか行われていないという状態だ。切断された腕や足もそのままで、冷却処置すらされていない。


 治癒魔法といえども、腐ってしまった部分を繋げることはできません。いえ、厳密に言えば可能です。しかし、繋げた部分に神経が通う事はないですし、むしろ体全体に悪影響が出るので繋げる意味がありません。

 だからこそこういうのは切断後の処置こそが最も重要なのに……ああああああもう!!



「カルシア……様? お体は大丈夫なのですか? それに、その男は一体……」

「うるさいですよこの下手くそ!!」

「ひぃっ!」


 私は空気を読まずに話しかけてくる男の胸倉をつかんで怒鳴る。


「え? え? え?」



 突然の事に混乱を隠せないらしい兵士さん。しかし、私の知った事じゃありません。



「今すぐにシュリンガーの切断された手足を綺麗な状態で冷却処置してください!! 後、ここでは十分な処置ができないのでシュリンガーの体を運ぶ準備も!! それとお城の中に清潔な部屋はありますか!? あればすぐにでも使えるように打診してください!! ないなら作ってくださいほら早く!!!」

「えと……しょ、少々お待ちください。そんなに一気に言われましても……それにこの男は……」



 ……イラッ――


 本格的にイラついてきました!! 今がどんなに切迫した状況なのかなんで分からないんでしょうか!? 今は一秒だって惜しいんですよぉぉぉぉ!!


「だから――」


 その時だった。


「畏まりました、カルシア様。あなたの指示通りに致します。ですので、カルシア様はその方の治療に戻っていただけますか? 私たちよりもカルシア様の方が適任かと思いますので。副隊長さんもそれでよろしいですか?」


 そう言って口を挟んできたのは私を介抱? してくれていた金髪の少女でした。


「はい! お願いします!!」



 そう言って私は副隊長さんを掴むのをやめ、シュリンガーの治療に戻った。まずは切断された血管の血行を回復して重要な組織を重点的に死なせないようにして――

 慎重に、しかし迅速にシュリンガーの治療を進める。



「それでは副隊長さん。カルシア様の言った通り、まずは各部の冷却処理をお願いします。清潔な袋でもあれば分けて入れて城の冷凍室へと保管してください。何か冷やすものがあれば冷やしながら持って行って頂けると助かります。私は城の治療室の準備と、彼を運び出す担架の準備をしてきます。そうですね……20分ほどあれば準備出来ると思うのでそれくらいに5人ほど派遣して貰ってもよろしいですか?」

「いや、しかしティナ殿。この男が誰かも分からぬというのに……。まずはこの男の素性を洗ってからだな――」

「そんな事を言っていたら手遅れになってしまいますよ? それに、カルシア様があそこまで必死なのです。ならば、力を貸さないわけにはいかないでしょう? それとも、副隊長さんも隊長さんと同じように責任やら問題やらを気にするのですか? 私たちがカルシア様にどれだけ大恩があるか……忘れてしまったのですか?」

「ぐぬぬ……」 


 そうして副隊長はカルシアを横目でちらりと見て――



「――ああもう! 分かった分かった! やればいいんでしょうやればぁ! さすがにあの隊長殿と一緒にされるのは嫌ですからねぇ。それにティナ殿の言う通り、俺も、俺の部下もカルシア様に助けてもらった事があるしなぁ。恩を仇で返すわけにもいかんし……やれやれだ」


 副隊長は肩をすくめ、白旗を上げる。そして――



「聞いたかお前ら!! コルカ! お前、確か冷却魔法が使えたよな!? それ使って冷却処置ってーのをしろ! ティナ殿! 我らにはその手の医療知識はないからコルカに付いてどの程度冷やせばよいか指示してくれ! それと、治療室の準備は出来んが担架を運ぶ程度は我らにも出来るからそれは任せてくれ」

「分かりました。それにしても……ふふっ、意外と隊長さんは反面教師として優れていたのかもしれませんね?」

「まったく……あの隊長殿に振り回されてる俺からしたらそれで済ませるなって話ですよ」



 副隊長は力なく笑い、



「さぁ! 行くぞお前ら! いつもとは違うがこれも一つの戦いだ! カルシア様への恩を返せるまたとない機会だ。一分一秒も無駄にせず行くぞぉ!!」

「「おう!!」」



 兵士たちとカルシアの戦いが始まる。

 一人の男を救う――そんな戦いが。

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