第24話 揺さぶられるづける心



 ど……どうしましょう……この状況……。


 私……カルシア・バーベバンズはシュリンガーの背中におぶさられたまま、焦燥に駆られます。

 


「はぁ……はぁ……」



 私を担いだまま、シュリンガーは走っています。

 私を助けるため。私を救う為に走ってくれています。

 けど――



 (私、普通に無事なんですケドーーー!?)



 心の内で、そんな悲鳴をあげる私。

 声は出ない。意識だけはしっかりと保てていますが、そこまで肉体は回復しきっていないみたいで指一本動かせません。


 あの時、治癒魔術で出血を止めるまでは良かったんです。良かったんですけど――



 (タイミングが悪すぎなんですよーーーーー!!)


 

 実を言うと……意識自体はずっとあったのです。



 シュリンガー達が言っていた通り、あのまま出血が続いていたら私は死んでいたかもしれない。なので、余力を振り絞って治癒魔術を自分にかけて出血を止めたんですけど――



 (まさか、それと同時にシュリンガーがあんな事をするなんて思いもしませんでした……)



 そう、タイミングの悪いことに、私が出血を止めたタイミングはシュリンガーが私の体を打ったのと同時でした。


 なので、シュリンガーは自分の力で出血を止め、私を仮死状態にしたと勘違いしたままひたすら走っています。このまま放っておいても無事に私は目を覚ますのに、です。


 現在も私は自身に治癒魔法をかけ続けています。早く治れ~~、早く体を動かせるくらいに治れ~~とずーーっとかけ続けています。なのでこのまま放っておかれても勝手に治ります。


 (そもそも仮死状態になんかなってないんですよねぇ……)


 彼の治療に関する知識がどんなものなのかは知りませんが、そろそろ気づいてくれてもいいんじゃないですかね? ほら、カルシアさんの体は全然冷えてないですよー。心臓もドックンドックン動いてますよーーー。だから早く気づいてーーーー!



 などと、心の中で叫んだところで聞こえるわけもありません。


 (はぁ、どうしましょう……)



 正直、嬉しいです。

 シュリンガーは必死に、私を助けようと努力してくれています。

 私を助けようと、こうして頑張ってくれています。


 それが――愛しくてたまりません。


 叶うならば……彼を抱きしめ、愛をささやきたいです。



 (体が動けばそうするんですけどね……)



 結局、為すがままにされるしかないのだ。

 すごく真剣で、必死なシュリンガーに対して申し訳ないなあと思ってますけど、それを伝える手段がないのです。



 (言葉が出るうちに今から少し寝ますけど心配しないでくださいねーとか言うべきでしたかね? でもでも、こんなことになるなんて普通分からないじゃないですか! それに、不謹慎ではありますけどこうなったからこそシュリンガーが私の事を強く想ってくれていると分かったわけで……ああああああもう!!!)



 心の中で悶える。もし、今私に体を動かす力があれば、へにゃへにゃと笑いながら悶えていたことでしょう。



「待ってろ、カルシア!! 絶対に……助ける! 助けて……絶対に伝えるんだ! 俺の――想いを!!」



 (――ッ///////////)



 自らを鼓舞するつもりでワザと言っているのか、シュリンガーのそんなセリフを私はずーっと聞かされていました。



 (も、もう十分伝わってるから……やめぇ)



 そんなセリフを聞かされる度、彼を愛しいと想う気持ちが強くなります。

 シュリンガーの発言一つで、私の心は揺さぶられまくりです。もしかして、私ってすごくちょろいんでしょうか?



「はぁ……はぁ……カルシア……絶対に救ってやる! お前が居ない世界で俺が幸せになれると思うなよ!? お前が居ない世界で笑えると……思うなよぉぉぉぉぉ!!!」



 (アーーーーーーーーーーーーーもう! 好き好き好き好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!)


 冷静になりかけた私をシュリンガーはそんなセリフ一つで翻弄するんです。


 心の中で何十回も彼への愛を叫ぶ私。


 そうして、シュリンガーは走り続けています。私のために。



 デヒュールヒーズ城に着くまで、私の心臓はもってくれるんでしょうか!? このままだと爆発しちゃいそうなんですけどおおおおおお!!



 

 そうして、シュリンガーの知らぬ間、私の心は揺れに揺れまくっているのだった。

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