第16話 軽い衝突



「それで? 勇者はどこで俺たちを待っている?」


 玉座の間を出た俺は適当な魔人を捕まえて聞いてみる。魔人の殆どは俺を嫌っているが、まぁここで嘘をつくようなことはないだろう。


「――ふんっ」


 魔人は答えず、その場を去ろうとする。

 やれやれ、嘘は確かにつかれなかったが無視されるとは……。我ながら人望がないものだ。いや、魔人に対する信頼がないのだから魔人望がないというべきなのか?



「おい、答えろ。お前が答えなかったせいで勇者がここに来たら、責任とれるのか?」


 そうして、俺はこういうやつらに最も効くであろう『責任』という言葉を口にする。


「――ちっ」


 どうやら効果覿面だったようで、魔人は舌打ちこそしたものの足を止めてくれた。

 そうしてこちらを見ないまま、


「……勇者はこの魔王城から北上三キロほど行った所にある村に居るらしいぜ。まぁ、勇者の襲撃によって廃村となっているがな」

「それは――クレタ村か?」

「ああ、そうだ」


 クレタ村はこの魔王城から最も近い魔人達の村だ。魔人の集落の中では結構栄えている村だったのだが……そうか。滅ぼされてしまったのか。


「教えてくれてありがとう。では、行ってくる」

「ケッ、さっさと行け。勇者の野郎と一緒にくたばってくれるようここで祈ってるぜ?」

「祈る? 神にでも祈るとでも言うのか? それともお星さまにでも祈るのか?」

「ハッ、抜かせよ」


 そんな軽口を交わし、その魔人との会話を打ち切る。

 もうここに用はない。行こう。

 そう、もう用はない。だというのに――


「なんなんですかその態度は!? シュリンガーはあなた達の為に死地に赴こうというのに……人として恥ずかしくないんですか!?」

「あ゛ぁ゛!? なんだお前!? 人間のくせに生意気言うじゃねぇか!?」

「人間かそうじゃないかなんてどうでもいいじゃないですか!! 話をそらさないでください!!」

「どうでもよくねぇよ! そもそもなんでここに人間が居るんだよ! 殺すぞ!?」

「やれるもんならやってみてくださいよ!! あなたみたいな恥知らずに負ける私じゃないんですからね!?」

「んだとぉ!?」



 なぜ、こいつは少し目を離しただけでトラブルを起こすのだろうか。



「はーい。ストップストップ。お互いそこまでにしような~」

「「あ゛?」」



 二人の争いを未然に止めるダラム。っていうかカルシア……『あ゛?』とか女が言うんじゃねぇよ……。確実にダラムやこの魔人の影響だな。



「えーっと……お前……。――ダメだ。名前忘れたけどお前。このお嬢さんは『カルシア』っていう人間だ。この意味がお前さんならわかるんじゃないか?」

「忘れてんじゃねえよクソが!! 俺の名前はブノオ……っと待て。『カルシア』だと? それって確か……」

「そうだブノオなんたら。この人間は勇者さんがお探しの人間だよ。傷つけたらお前さん――死ぬぜ?」



 勇者の要求には確かにカルシアの名前もあった。勇者にとってカルシアは大事であるらしく、傷つけないようにと言い含めた上でだ。ダラムの言う通り、そんなカルシアをこの魔人が傷つけでもすれば即条約違反。勇者がこの魔人を許すことはないだろう。そもそも勇者が許したとしても、勇者の怒りを恐れた同族たちにさらし首にされるだろうしな。



「ちっ――」


 舌打ちを残して魔人ブノオなんたらは俺たちの元から去る。


「待ちなさい! まだ話は――」

「ちょい待ってくだせぇカルシアの姉御。姉御はあんなのに構ってる暇ないでしょう? まずは勇者さんの方をなんとかしましょうや。話はそれからでも遅くはないと思いますぜ?」

「むむむむむむむむむむむむむむむ。………………仕方ありません! ですけどあの人! 後で百万発しばきます!!!」

「お、おぅ……。まぁ煮るなり焼くなり好きにしな」

「はい!!」



 カルシアも一応ではあるが矛を収める。まぁ、今は本当にそんな事をしている場合じゃないからな。



「終わったか? それじゃあ行くぞ」

「はい!」「がってんでさぁ!!」



 目指すは――クレタ村だ。

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