第12話 やりたいことをやろう
「こほん。さて、紹介が遅れたな。こいつは魔王様の側近であり、俺の世話役のダラムだ。見た目通りムサイ男だが我慢してくれ」
「うぃっす。よろしくお願いしやすぜ! 姉御(あねご)!!」
俺の紹介に気を悪くした様子もなく気やすげに手を上げるダラム。裏表のない、いい奴ではある。
「は、はじめまして。ダラム……さん?」
初対面だというのに気やすい対応のダラムにどう対応していいのか分からないのか。カルシアはぎこちなさげだ。
「ダラムと呼び捨てにしてくれて結構ですぜ姉御。ダラムさんとか、むずがゆいったらありゃしねぇ」
本当に痒いわけでもあるまいに、大げさに背中やあちこちを掻くしぐさを見せるダラム。相変わらず愉快な奴だ。
「は、はぁ……あの、それよりも……なんですか? 姉御って? 私にはカルシアと言う名前があるのですが……」
「ん? あー、そうっすね。すいやせん。カルシアの姉御」
「いや、責めてるとかじゃなくてなんで姉御なのかなぁって……」
「んん? なんでってそりゃあだってカルシアの姉御は坊ちゃんのこれでしょう? なら姉御と呼ぶのが筋じゃないすか」
小指を突き立てながらダラムはそんな事を言う。
「なっ――ち、違いますよ! 何言ってるんですかもう!!」
「はっはっは、今更隠すことはないでしょう。あんだけ情熱的に乳繰り合っておいて恋人じゃねぇとか言われても説得力ねぇですぜ?」
「ちちくっ――何を言っているんですかあなたは!? というかあなた、魔人でしょう!? 魔人が人間を姉御なんて呼ぶなんておかしくないですか!?」
そう、ダラムは魔人だ。まぁ、魔王様の側近なのだからそれが当然だろう。俺が特別なだけだ。
「おいおい、このダラム様がそんなみみっちい事を言うとでも思ってんのかい? ニンゲンだからどうだの魔人だからどうだのなんて小せぇんだよ。魔人も人間も関係ねぇ。悪い奴は悪い。良いヤツは良い酒が飲めて最高。それだけでいいだろうが」
「は、はぁ……」
ダラムは魔王様とは違う意味でニンゲンを敵視していない希少な人物だ。
彼はニンゲンを嫌っていないし、好いてもいない。ただ、相手の本質だけを見ているのだ。それが彼の好みに合えば頼まれずとも構ってくるし、彼の好みに合わなければ相手にもされない。そういう意味ではカルシアは合格も合格。大合格というやつだな。姉御と呼ぶくらいカルシアの事を気に入ったらしい。
「まぁこいつが特別なだけだ。普通ならニンゲンってだけで忌み嫌うやつがほとんどだしな」
「ガッハハハハッ、そりゃまぁ坊ちゃんの世話役に選ばれるくらいですからねぇ。ニンゲンが嫌いだのなんだのと言ってたら世話役も何もあったもんじゃないでしょう?」
違いない。
「さて、まぁ挨拶はそれくらいでいいだろう。行くぞカルシア。あれだけ俺に言ったからには力を貸してもらうぞ? 役に立たなかったら承知しないぞ」
「そうですね。急がなきゃいけないんでした。任せてください! 直接の戦闘ではお役に立てないと思いますがサポートの魔術でシュリンガーをバックアップしますよ!!」
「ほぅ。まぁ道すがらお前にどういう事が出来るのか聞かせてもらおう」
白魔術には攻撃手段がないに等しいが、その代わりあらゆる回復、防御、補助の手段があると聞く。こんなのでもカルシアは優秀な白魔術師だそうだし、それなりに期待させてもらうとしよう。
「それで? お前はどうする?」
俺は、そう言ってダラムの方を見る。
先ほどから和やかに話していたが、そもそもダラムは魔王様を助けに行こうとする俺を止めに来たという立場だ。
「見なかったことにするか……それとも――」
――俺の前に立ちふさがるか?
そういう意味を込めてダラムを見据える。
するとダラムはニヤニヤと笑い、
「さぁて、どうしやしょうかねぇ。見なかったことにするか……当初の予定通り坊ちゃんを行かせないようにするか……いやぁ、困った困った。どうするかねぇ」
と、困っているようにはとても見えない様子でこちらの様子をうかがっている。
「め――」
面倒だ。俺たちは行くぞ。邪魔するならそうしろ――と、俺が言う前に、
「え? 何を言ってるんですかダラムさ――ダラム! あなたも一緒に連れて行くに決まっているでしょう!! 力になってもらいますからね?」
などとカルシアは抜かした。
「いやいやカルシアの姉御。そんな無理言われても困りますぜ。俺は魔王様の命を受けて、坊ちゃんを止めるためにここまで来たんですぜ? それなのになーんで坊ちゃんをとめるどころか一緒に行くことになるんすか」
「そんなの私は知りません。そもそも、あなたは魔王様とやらの命令だったら何でも従うんですか? なら、私が命令してあげますよ! 私とシュリンガーに同行して魔王さんを助けに行きなさい!!」
「いや、なんで俺がカルシアの姉御の命令聞かなきゃならんのです!?」
「姉御だからですよ!! 私を姉御と呼ぶんなら命令の一つや二つ黙って聞きなさい!」
「んなむちゃくちゃな!?」
おぉ、あのダラムが完全に受け手に回っている。なかなか見られない光景だ。
「そもそもですねぇ! あなたもシュリンガーも頭が固いんですよ!! 命令だの使命だのがどうしたっていうんですか!? そんなのほっぽってやらなきゃいけない事だって時にはあるでしょう!? ダラムさんだって魔王さんを大事に想ってるんでしょう? 助けたいんでしょう? なら、助けに行きましょうよ! それでいいじゃないですか!?」
「簡単に言ってくれねぇ」
頭をぽりぽりかきながらダラムがそう呟く。
「当然ですよ。だって、こんなのすっごく簡単な事なんですから」
当たり前だと言わんばかりに胸を張って答えるカルシア。ほんとに……こいつはごちゃごちゃ考えずに幸せそうというかなんというか……。色々考えているこっちが馬鹿らしくなってしまう。
「くっくっくっくっく」
「「??」」
そんなカルシアを見て、顔を俯かせるダラム。落ち込んでいるように一瞬見えたが違う。肩を小刻みに震わせながらダラムは――
「くっくっくっくっく。だーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
笑っていた。
「ぶわはははははははは。はーーーっはっはっはっはっはっは。ひ、ひーーーーー。ひぎいっ。ふは。ぶわはははははははははははははは!」
笑っていた。
「いひ、いひひひひひひひひひひひひひひひひひ。ふは、かは……はは……あはっはっはっは。やべ、腹いて……あっはははははははははは」
笑っていた。
「って笑いすぎじゃないですか!? そんなにおかしい事言いました私!?」
もはや笑いすぎて呼吸すらできずに苦しんでいるダラムにカルシアがツッコム。
「あはっ。息……息が……あはっは……ふぅ……ふぅ……ふはっ……はぁ、はぁ」
返事すらできず、必死に空気を求めるダラム。もうこいつ置いていってしまおうか……。
などと思ったが、次第に息を整えはじめるダラム。
「はぁーーーー、いやー笑った笑った。わりぃなカルシアの姉御。姉御があんまりにも真っすぐなんで思わず笑っちまったよ」
「性根がぐにゃぐにゃ曲がってるよりはマシだと思います」
「ちがいねぇ」
参ったというようにダラムは自らの額をペシンと叩く。
「さて……それじゃあ行きやすか!!」
「そうですね! それじゃあちゃちゃっと魔王さんを助けて世界もさくっと平和にしちゃいましょう!!」
「ハハッ、ちゃちゃっとですかい」
「えぇ、ちゃちゃっとです。それくらいの気構えの方が案外うまく行くものですよ」
「さっすがカルシアの姉御は言う事が違うねぇ。どうです? 色々終わったら一杯いきませんか?」
「いいですねー」
いつの間にか意気投合しているカルシアとダラム。カルシアの話術? でいつの間にかダラムも協力してくれることになったらしい。なんで?
「はぁ……まったく」
むちゃくちゃなやり取りに頭が痛くなってくる。
「ふふっ」
だけど……どこかおかしくて笑ってしまう。
「案外――なんとかなるかもなぁ」
最初は悲観的だったのに、今ではそう思えてしまう。カルシアの能天気さにあてられたのか……まぁ、悪い気分じゃないからいいか。
そんな馬鹿みたいな事を考えながら、俺たちは魔王様の住まう魔王城へと歩を進めた。
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