第8話 寸劇
「ぐすっ、さて、ヴァレンをどうするかさっそく考えるとしましょうか!!」
白魔術師は泣きやむと、鼻をすすりながらそう提案してきた。
「それはいいが……おい白魔術師。まだ鼻水垂れてるけどそれはいいのか?」
「う、うるさいですねぇ!! 乙女の顔をそんなじろじろ見ないでくださいイヤらしい!!」
白魔術師は後ろを向いてまた何かで顔を拭く。そして「よし!」と言うとともに再びこちらに向き直る。
「大体不公平ですよ!! 私の顔ばかりジロジロみられるなんておかしいと思います! ほら、シュリンガーもその顔を見せてください!! それで公平です!!」
ビシィっと人差し指を突きつけてそんな事を言う白魔術師。
対して、俺は――
「――はぁ。そんな事出来るわけないだろ? あの死体どもがいつ、どこから襲ってくるのか分からないんだ。またいきなり地面から現れでもしたらどうすんだよ? 不意打ちされたらどうするんだよ? そういう万が一がある限り、俺はこの鎧を外さない」
「別に鎧を脱げだなんて言ってないじゃないですか!! 兜を外してくださいって私は言ってるんですよ!!」
「いや、この鎧と兜って実はワンセットなんだよ。兜を外すには鎧も外さないといけない」
「なんですかその鎧!? 不便な事この上ないじゃないですか!?」
「いや、これでも一応伝説レベルの鎧なんだぞ?」
「そんな事聞いてないですよ!!! ……あれ? 待ってくださいシュリンガー。不意打ちされるときの事を考えて鎧は着たままなんですよね? だったら、不意打ちを事前に察知できていればいいんですか?」
「? ああ、まぁそういう事になるな」
俺だって好き好んで鎧を着続けている訳ではない。鎧を着たままでは思いっきりくつろぐことも出来ないので、脱いでも問題ない状況であれば脱ぎたいとは思う。
……というか、この鎧を完全に使いこなすまではずっと鎧を着たままの生活を強いられていたのだが……。
この[ロアの鎧]も[ヴィネの魔剣]と同じく、宿主に寄生しようとする機能がある。そうして寄生して、宿主の精神を侵そうとしてくるのだ。あの頃の俺の場合、精神を持っていかれることはなかったが、寄生の方まではコントロールできなかった。結果――俺はしばらく鎧を外すことも出来ず、泣く泣く鎧を着けたままの生活を強いられていた。
「今では俺の意思で脱着可能だけどあの頃はある意味地獄だったなぁ……。食えるものがかなり制限されてたのが一番きつかったっけ」
「何の話ですか?」
「いや、すまん。こっちの話。それで? 何の話をしてたんだっけか?」
「カルシアちゃんが可愛いという話ですか?」
「そうそうカルシアちゃんが可愛いという話だった訳がないだろが殴るぞアホ魔術師」
「やりました! またシュリンガーに名前を呼んでもらえました! ばんざーい」
「お前ホントにそれでいいのか!?」
アホ魔術師と呼ばれた事など気にせず、名前を呼ばれた事で大はしゃぎするカルシ……白魔術師。そこは普通怒るとこだろ……。
「さー、シュリンガー。その調子で鎧も兜もパパーっと取っ払っちゃいましょう!」
「いや、だから何があるか分からないから脱がないって言ってるだろ……」
ダメだ。もう頭が痛くなってきた。目の前の奴が話を聞かな過ぎて……。
などと頭を抱えていたら耳を疑うような事を言い出した。
「ですからー。言ってるじゃないですか! 私はこう見えても白魔術師なんですよ! 死者達が出た時も、生気とは違うおぞましい気を感じることができました。むしろ生気よりも特徴的な気だったので近づいてきたらすぐにわかりますよ!!」
……
…………
……………………
……………………………………
…………………………………………………………は?
「っていう事は何か? 敵が近づいてきてもすぐ分かんの?」
「? ええ、まぁ。言ってませんでしたっけ?」
「聞いてねえなぁ」
「……そう言えばまだ話してなかった気もしますね。そういう訳なので周辺の警戒は私に任せてくれても大丈夫ですよ?」
「そかそか。頼りになるなー。よー、カルシア。ちょい来てくれ」
「……ぶったりしません?」
「あっはっはっは、何言ってるんだ? そんなことするわけがないだろう?」
「それならまぁ」
とことことカルシアが近づいてくる。
そんなカルシアの肩に手を置く――ように見せかけてその耳を引っ張って近づける。
「いたっ、いたた!!」
などとカルシアは慌てているがもう遅い。
俺は思いっきり息を吸い込み、カルシアの耳元で――
「それを早く言えよ! このダメ魔術師がああああああああああ!!」
「ぴぎゃああああああああああ!!」
思いっきり叫んでやった。
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