第6話 ワタシヲミテ


「――逃げられた」


 暗黒騎士という人と白魔術師カルシアを取り逃した。

 久しぶりに使う大規模死霊魔術。やっぱりこういう系統の魔術が私には合う。

 とはいえ、このまま死体たちに追いかけさせても徒労に終わるだけだろう。私は術式を解除する。



「「「うぼぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」



 土に帰っていく死体たち。

 愛しい愛しい私の人形たち。

 だけど――本当に愛しいモノは私のテのナカにアる。 

 


「カルシア……」

「マスター……可愛い寝顔」



 私の膝の上で幸せそうに眠っている私のマスター。勇者・桜木(さくらぎ)敬(けい)。



「ふふっ、やわらかいほっぺ……食べちゃいたいくらい」



 そのやわらかなほっぺたをむにむにつついてもマスターは目を覚まさない。

 とても……とても幸せそうな寝顔。だけど――



「カルシア……」



 ――ソノクチカラデルオンナノナマエはワタシのジャナイ――



 ダカラコソ……ユルセナイ……



「マスター……わたし、なんでもするよ? 道具のように扱われてもマスターに一生ついていく。マスターに必要として欲しいの。あの女の代わりにだってなってあげる」



 私はマスターの道具。

 あの女の代替品。

 だからこそ――あの女が――カルシア・バーベバンズが憎い。



「あの女を殺したら……マスターは私を見てくれるよね?」



 問いかけに答えはない。



「私を傷つけて?

   痛めつけて?

   そして愛して?


 私はマスターに使われる為に生まれてきたんだから」




「『その魔力量は使えるな。喜べ。お前に生きる意味を与えてやる。お前は――俺に使われるために生まれてきたんだ。世界を救うこの俺……勇者の為に、お前の全てを捧げろ』」




 生きる意味を見出せなかった私にマスターは意味を与えてくれた。

 使ってもらえるのが嬉しい。

 私の存在が誰かの――マスターの役に立つ。

 それが嬉しくて、幸福で、たまらない。

 でも……いや、だからかな? もっともっとと欲が出てしまう。

 代替品としての愛じゃない。ホンモノの愛が欲しい。

 私ならあの女よりうまくできる。マスターを幸せに出来る。

 だから――


「あの女を殺したら私を愛してくれるよね? マスター♪」



 私はマスターの愛を手に入れるため――カルシア・バーベバンズを殺す。


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