第3話 喧嘩するほど仲がいい
「それでは和平作戦会議part1です!!」
「……………………」
次の日、夜になってからまたこの白魔術師は城にやってきた。
いやまぁ来るって言ってたけどさぁ……。
「シュリンガー!! ちゃんと聞いていますか?」
「ああ、聞いてるよ……というかまたお前一人か?」
先日と同じく白魔術師は一人だった。勇者は一緒に来ていないのかと尋ねてみる。
「……勇者様達は魔王の事を完全に敵と思ってらっしゃいます……もう少ししたらお話しようと思っているのですが……」
もう少ししたら……ねえ……。
落ち着いて話すのは難しいと思うけどなぁ。向こうから襲ってきたとはいえ、あの勇者の腕を一回斬りとばしちゃったし。そんな事をされた相手から仲良くしましょうと言われて仲良くできるだろうか? ……いや、無理だろ。そこんところ白魔導士は理解してるのだろうか?
「魔王さんは仲良くしたいと思ってるんですよね? 魔王さんなんですから配下の魔人さんたちにニンゲンと仲良くするように! って言ったら解決するんじゃないですか?」
「お前……」
「なんですか? あ、やっぱり名案だと思います? これで一気に解決しちゃいますね! さすが私ですね! 褒めてくれてもいいですよ?」
「ああ、お前、すげえよ……今度から能なし白魔術師って呼ぶことにするわ」
「それ絶対褒めてないですよね!?」
「おぉ、凄いな。それが分かるとは思ったより大した奴だ」
「嬉しくないんですけど!?」
とまぁおちょくるのはこの辺りにしておいてだ。
「あのなぁ……じゃあ逆に聞くがお前らニンゲンはそんな簡単に上のいう事を全員が聞くのか? 仮にニンゲンの王様が『これからは敵である魔人たちと仲良くするように』って命令したら全員ニコニコ笑顔で魔人と仲良くしようとでもすんのか?」
「しないですね。はぁ……そっかー。魔人たちも魔王に服従っていう訳じゃないんですねー。私、そんな事も知らなかったです。……そうだ! 私、魔王さんや魔人さんの事、何も知らないじゃないですか!! 教えてください!!」
「今更かよ……まぁいいけど……」
そうして俺は魔王様と魔人の関係について。そして俺の立ち位置について話した。
あとは魔人VSニンゲンの関係になった原因も話した、まぁ殆どが魔王様の受け売りだが。
…………
………………………………
……………………………………………………
「――なるほど。……なんか話を聞いてると私たち人間の方が悪いですね……勝手に邪魔者扱いして、その上こちらから攻撃をしかけるなんて……」
「まぁ自分とは違うものを忌避する気持ちは分からんでもないけどなー」
「とりあえず私たち人間の中にも仲良くしたいと思っている者が居ることを魔王さんに知ってほしいです!」
「まぁ俺が帰ったら伝えとくよ」
「じゃあ帰って下さい!」
「いや、なんかひどくね!? っていうか無理だよ! お前はともかく勇者はまだ魔王様の首を狙ってるんだろ? そんな奴を放置して帰れねえよ。お前らがこのまま回れ右して帰るのを確認しねぇと俺も帰れねえんだよ! だからお前らこそ帰れ!! 邪魔だ!!」
「女の子に向かってなんて事を言うんですか!? 謝罪を要求します!!」
「最初に言ったのはお前だろ! お前が謝らないなら俺も謝らない!!」
「ムカーーーッ。なんなんですかもーーーー! 私は邪魔とまでは言ってないじゃないですか! 素直に謝れない子供ですかあなたは!?」
「あんなの邪魔って言ってるようなもんだろ!? それにお前にだけはガキ扱いされたくねえよこの能天気魔術師がぁ!!」
「言いましたねこの根暗騎士!!」
「やんのかゴラァ!!」
…………
……………………
「……やめよう……これ以上はお互い傷つくだけだ……」
「……ですね……」
白魔術師との舌戦は
「さて……シュリンガー。話を続けましょう。さっきの話をまとめると、あなたは魔王を倒そうとしている私たちが魔王城からそこまで離れていないこの地に滞在しているからそれを放置して帰れない。という事でいいんですよね?」
「まぁ簡単に言えばそうだな」
「なら……勇者様に魔王討伐を諦めさせれば問題はなくなるという事ですよね?」
……ん?
「すまん。ちょっと耳にゴミが入ったみたいだ。もう一回言ってくれるか?」
「勇者様に魔王討伐を諦めさせれば問題はなくなるという事ですよね?」
……残念ながら聞き間違えではなかったらしい。
「いや、まぁ確かにそうすれば問題はなくなるが……」
「なら決まりですね!!」
えぇ……。
「いや落ち着いて考えてみろよ。あの魔王を倒すまで絶対に諦めない!! くらいに気合の入ってる勇者に魔王討伐を諦めてもらうとか……無理に決まってんだろ!?」
「ふふっ、シュリンガー。違いますよ。逆です」
優しく微笑む白魔術師。その笑顔にドキッとさせられた。
「私が……私たちが目指しているのは全ての人間と魔人が仲良くすることができる世界です。その実現のためには多くの人の意識を変えないといけません。魔人は悪しき存在じゃない。そういう風にみんなの意識を変えていかないといけないんです。それに比べたら勇者様一人の意見を変えるのなんて簡単に思えませんか?」
「……………………」
「それに勇者様だって望んでいるのは『平和な世界』なはずです。きっと、私たちの言葉に耳を傾けてくれると思います。それに、勇者様が『魔人は悪しき存在じゃない』と周りに喧伝してもらうことの意味は大きいでしょう。だから、どのみち勇者様の説得は必要不可欠なんです」
「……そうかよ」
意志は固いようだ。ならば止めるのは無粋だな。
「はい! では行ってきます!!」
「あ、待て!」
駆け出そうとする白魔術師を呼び止める俺。
「はい? どうかしましたか?」
クルリと振り返って不思議そうな顔をする白魔術師。
俺が呼び止めたんだから当然だな。さて、思わず呼び止めてしまったが……困ったな。
何かを伝えたい。
その想いだけが俺の心に確かにある。
「魔人とニンゲンが仲良くすることができる未来……か。楽しみにしてる
だから……その……だな」
「??」
「えと……だから……その……ま、まぁ頑張れよ。俺に手伝えることならなんでもやってやるからさ」
それだけ言うと俺は白魔術師に背中を向けて城の中へと帰る。
「まっかせてくださーーーい!!」
そんな元気な声が背後から聞こえてきた。まったく……思わず笑みがこぼれた。
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