後日談
After1 一年後
思っていたよりも、後日談を早々に書きたくなったので。とりあえず、連載中に戻しました。書きたいキャラを書く感じで、どれくらい続くか解りませんが。よろしくお願いします。
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一年後――
中央大陸の南西部。コーネリア帝国軍は国境線を越えて、南方に隣接するサルビア公国へと進軍していた。
重装騎兵五千騎を従えるのは、自ら白い軍馬を駆る第二皇女オリビエ・コーネリア――青い甲冑を纏い、赤みを帯びた金髪を風に靡かせて。『鋼鉄姫』と呼ばれるオリビエは、
「魔術士による一斉攻撃で正門を破壊した後、全軍で砦に突入する。魔族に尻尾を振るサルビアの弱兵など、我らの剣で血の海に沈めてやれ!」
オリビエの凛々しい声が響き渡り、五千の騎兵は平原を駆け抜ける。対するサルビア公国軍は
砦が中位魔法の射程距離に入ると、詠唱を終えた魔術騎兵が一斉に魔法を放つ。
巨大な光の壁が突如として出現して、全ての魔法を防いでしまう。
光の壁はドームのように砦全体を包み込んでおり。帝国軍がこのまま進軍すれば、光の壁に衝突する。
「全軍、左右に分かれて展開! 光の壁の外側から砦を包囲しろ!」
全く想定していなかった事態だが、『鋼鉄姫』の騎兵たちは隊列を乱す事なく。奇麗に二手に分かれて、光の壁から数メートルの距離を迂回する。
「これは……どういう事だ?」
光の壁は砦からの弓による攻撃も防いでおり。サルビア公国軍ではなく、第三者による介入の可能性が高い――オリビエは冷静に考えながら、壁際に白い軍馬を走らせて突破口を探す。
「砦一つを丸ごと包み込む大規模結界など、あり得ない……幻術と組み合わせているのか? ならば……」
オリビエは詠唱短縮で魔法を放つ。氷属性の中位魔法『
「だから、無駄だって……おまえたちの魔法じゃ、俺の結界は破れないよ」
上からの声に、オリビエが反射的に視線を動かすと――空の上に、黒髪の少年が
少しだけ前髪が長くて、漆黒の瞳の十代後半の少年。襟の広いシャツに
「結界を咄嗟に回避したのは、褒めてやるよ。まあ、あのまま衝突しても、無傷で済むような仕掛けはしていたけどさ」
「貴様は……何者だ?」
オリビエは軍馬を止めて、黒髪の少年を睨み付ける。部下たちも主の意図を理解し、騎兵は武器を弩に持ち替えて、魔術士は声を落として秘かに魔法の詠唱を始めた。
「そんなに慌てるなよ、オリビエ・コーネリア……俺はカイエ・ラクシエルだ」
五千対一という戦力差を無視して、黒髪の少年――カイエは面白がるように笑う。
「おまえが
「解ったような口を……不可侵条約など知った事か!」
オリビエは舌打ちして、カイエを睨み付ける――この時点で、彼女はカイエが何者なのか理解していなかった。
「積年の恨みを忘れ、魔族に尻尾を振るサルビアの腰抜けどもに……制裁を加えて、何が悪い!」
オリビエは視線で、部下たちに攻撃を命じるが――彼らはカイエを見上げたまま凍り付いていた。
「「「ま、まさか……本物の『混沌の魔神』なのか……」」」
人族と魔族の争いを終わらせるために、カイエたちは一年以上に渡って世界中を飛び回り。
コーネリア帝国の皇女であるオリビエも、カイエの名前は当然知っているが――コーネリア帝国を条約に加盟させたのは、賢者エストであり。カイエと面識はないから、目の前の少年が『混沌の魔神』の名前を名乗っても、聞き流していたのだ。
「貴様らまで……腑抜けどもが! 『混沌の魔神』など眉唾に決まっている!」
オリビエは決して馬鹿ではなく、むしろ頭脳明晰な指揮官だが――自分の見たモノしか信じない性格であり。己の信念のためなら、相手が誰であろうと一歩も引くつもりなどなかった。
オリビエが詠唱を始めると――多重魔法陣が頭上に出現する。今度は詠唱を短縮できない上位魔法を、カイエに向けて発動しようとしていた。
「オリビエ殿下……お止めください!」
部下の制止を無視して、オリビエは詠唱を続ける。渦巻く雷雲が上空に出現すると……不可避の稲妻がカイエを貫いた。
「ねえ……相手がカイエじゃなかったら、大変な事になってたわよ」
いつの間にか、赤い髪の少女が、笑顔で光の剣をオリビエの喉元に突きつけていた――ローズはニッコリと笑っているが、目だけは笑っていない。
「そうだよね……ねえ、カイエ。こんな事をしたんだから、少しくらいは暴れても良いよね?」
金色の大剣を手にする銀髪で小麦色の肌の少女――エマはそう言うが、すでに千人以上の兵士の意識を奪っていた。
「エマ、そういう事は先に確認しないとな。だけど……私も止める気はないよ」
金髪碧眼の知的美人――エストは残りの四千人を魔法で拘束しており。
「あんたたちねえ……私のやる事が無いじゃない」
妖艶な笑みを浮かべる黒髪の少女――アリスは、オリビエの背後から耳元に息を吹き掛ける。
「おまえらさ……俺のために怒ってくれたのは嬉しいけどさ。さすがに、ちょっとやり過ぎだって」
稲妻に貫かれた筈のカイエは――服すら無傷のまま、苦笑しながら地上に降りて来る。
そんなカイエに、四人の美少女はオリビエを放置して駆け寄ると――いきなり前後左右から抱きついて、濃密なピンク色の空間を出現させた。
「き、貴様ら……」
プライドをズタズタにされたオリビエは、肩を震わせながら腰の剣に手を伸ばす。
「カイエ様たちを貴様呼ばわりとか……おまえは何様のつもりですの?」
六人目の声――翠色のポニーテールのゴスロリ幼女は、殺意を具現化したような紫色の鎧を纏う二体の
「オリビエ・コーネリア……君は魔族に恨みがあるみたいだけど。魔族という種族に対して恨みを懐くのも、魔族に味方する人族を傷つけるのも、僕は違うと思うよ」
そして、最後に現れた藍色の艶やかな髪と赤い目の魔族のギリギリ美少女は――オリビエに憎悪の視線を向けられても、全く気にしていなかった。
「なあ、オリビエ。おまえの事情は知ってるし、復讐するなら好きにしろって思うけどさ……相手を間違えるなよ」
まるで夜の帝王のようにローズたちを
「おまえの兄貴を殺したのが魔族だからって、魔族全部が敵だとか……短絡思考過ぎるただろ」
「……貴様に、何が解る!」
オリビエは剣を抜き放って、憎悪を剥き出しにするが――カイエは漆黒の瞳で、その全てを正面から受け止めた。
「当然だ。おまえの気持ちなんて、俺に解る筈がないだろ……だけどさ、おまえが本当に復讐したい相手と会わせてやることは出来るよ」
こいつは何を言っているのか……大きく目を見開くオリビエに、カイエは告げる。
「元魔王軍の魔将ギャスレイ・バクストン。そいつが、おまえの兄貴を殺した奴だろ? 俺は居場所を知ってるんだけどさ……オリビエ、どうするよ?」
オリビエはカイエの顔を食い入るように見るが――その視線を、頬を膨らませたエマが遮る。
「おい、エマ……どうしたんだよ?」
「だって……このまま放置してたら、カイエはまたフラグを立てるでしょ!」
「あのなあ……そんな状況じゃないだろ?」
カイエは呆れた顔をするが……
「そんな事ないわよ……だって、カイエはカイエだから!」
ローズの言葉に、他の五人は深く頷いた。
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