第320話 カイエとエマ
少し時間を遡って、エマが初めて異世界を訪れたとき――ディスティとヴェロニカや『暁の光』のメンバー、ログナとアルメラとの邂逅を終えた後。カイエとエマは二人で、新しい
「カイエと二人だけで
「そうだな……俺がエマと二人きりってパターン自体が少ないからな」
勇者パーティーの妹ポジションだったエマは、他の誰かと一緒に行動する事が多い。エマ一人だと頼りないだとか、そんな事は決してないのだが……人懐っこいエマは一緒に行動する事が好きなのだ。
「だけど……私だって、カイエと二人きりの時間も欲しいんだから。カイエもそれくらい……解ってよね!」
小麦色の肌の健康少女は恥ずかしそうに頬を染めた後、思いきり舌を出す。
「ああ……エマの気持ちは解ってるって。だからさ……今回はおまえのやりたい事を、全部叶えてやるからさ」
二時間ほど経って、再び姿を現わしたカイエは、エマをお姫様抱っこしていた。
「カ、カイエ、ちょっと……恥ずかしいよ……」
そう言いながらも、頬を染めるエマはうっとりと満ち足りた顔をしており――偶然居合わせた冒険者たちはジト目を向けて来るが。カイエとエマは他人の反応など全く気にしなかった。
二人が挑むのは
「じゃあ、カイエ……行くよ!」
エマの掛け声とともに、二人は
一時間後。第八階層を突き進むカイエとエマは、全長五メートルの
エマが手にする聖剣ヴェルサンドラは、カイエによって魔改造を施されており。エマが魔力を込める度に、ローズの神剣アルブレナのように金色の光を放ちまくっていた。
「ねえ、カイエ! ヴェルサンドラがピカーッて光って格好良ね!」
「いや、俺としては、そういう意図で手を加えた訳じゃいんだけどさ。まあ、目立つのが不味いときは、エマなら自分で調整出来るだろう?」
強い光を放つようになったのは、ヴェルサンドラの魔力伝導率と増幅力を向上させた事による副産物だが。本人が喜んでいるなら構わないかと、カイエとエマはさらにニ十分ほど
「ね、ねえ、ちょっと……結構、ヤバイいんじゃない!」
「解ってるって! とにかく、全力で逃げるぞ!」
声と共に前方から迫って来るのは、五人の冒険者と――彼らを追う
人族の戦士が男女一人ずつと、盗賊が一人。あとはエルフの魔術士が二人。そして彼らを追っているのは
「カイエ、ちょっと行って来るね」
エマには彼らを見捨てるという選択肢はなく。冒険者たちが回廊を駆け抜けていった直後、金色の光を放つ聖剣ヴェルサンドラで、
エマならそうすると解っていたし。フォローする必要もないから、カイエは何もせずに佇んでいると。
「俺たちの獲物を……ナニ横取りしてんだよ?」
たった今まで逃走していた男戦士が戻って来て――無謀にもエマにメンチを切る。
「てめえら……俺たち
刀のような片刃の剣を手にする戦士は、凄みながらエマに迫ろうとするが――その前に、女戦士に後頭部を思いっきり叩かれる。
「……い、痛えだろう! セナ、何しやがる!」
「バーランド……ふざけるんじゃないわよ! 私たちの命の恩人に、どの口が喧嘩を売ってるのよ!」
明るい茶色のポニーテル。バスタードソードを手にする女戦士は、男戦士の頭を強引に下げさせて、自分も深々と頭を下げる。
「おまえらさ……別にそこまでする必要はないけど。その男がウザい事をまだ言うなら、俺も黙っていないけどな」
カイエはいきなりエマを抱き抱えて、銀色の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「え……ちょ、ちょっと、カイエ……いきなり、何をするの?」
文句を言いながらも、エマは嬉しそうだ。
「いや、エマの事を褒めてやろうと思ってね」
冒険者たちの存在など忘れたかのように。エマを押し倒す勢いのカイエと、それを嬉しそうに受け入れるエマ――微妙な顔をしている『銀色の翼』の面々の目の前から、二人の姿は突然消える。
※ ※ ※ ※
そして一時間後――認識阻害と結界を併用した空間から、カイエとエマが出て来ると。いきなり出現した二人に、『銀色の翼』のメンバーは唖然とする。
「て、てめえら……今までどこに居たんだよ? まさか、
「ば、馬鹿バーランド! あんたは何を言うつもりよ!」
実はバーランドが想像している事は正解なのだが――堂々とセクハラ発言をしようとするバーランドのデリカシーの無さが、セナの逆鱗に触れる。
「お、おい、セナ……ちょっと、待てって!」
セナにボコボコにされるバーランド。二人のエルフの魔術士も容赦がなかった。
「バーランドはセナに殺されて当然!」
「殺すとか、ミルク……さすがに駄目でしょ。半殺しで止めておきなさい」
後で判明するが、二人はミルクとクルミという冗談みたいな名前の双子で――まあ、今は関係のない話だ。
「何だよ。おまえら、結構余裕だな……
「いや、その……」
セナは
「私たち、もう魔法が尽きてて……図々しいお願いだとは解ってるんだけど。
何重もの意味で恥ずかしい発言だと、セナも自覚していたが――背に腹は代えられない状況なのだ。カイエたちが再び現れるまで動けなかったのも、下手に動いて
下層から戻って来る他のパーティーが通り掛かれば、
「ふーん、そういう事か……」
カイエは意地の悪い顔をするが――『銀色の翼』の状況など想像がついていたし、セナの判断が正しい事も解っていた。
だから、何だかんだ言いながらも初めから助けてやるつもりだったし。エマの意見は……聞くまでもないかと、いきなり転移魔法を発動する。
「え……いったい、何が起きたの?」
「嘘だろ、おい……」
突然、
「面倒だから、運んでやったけど……次からは自分たちで何とかしろよな」
カイエはそう言うと。バーランドの頭を強引に下げさせて何度も礼を言うセナたちを尻目に、
「やっぱり、カイエは優しいよね……そういうところも大好きだよ」
エマは嬉しそうにカイエに密着する――
それから二人は、
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