第294話 帰還の挨拶


 リゼリアは何度も消滅する寸前から、苦痛と屈辱を伴う強制的な再生を繰り返す――しかし、これくらいの事でリゼリアが罪を償う気になるとは、カイエも思っていなかった。


 そのままの意味で、リゼリアには肉体的にも精神的にも徹底的に教えてやる必要がある……自分のやった事は、決して許される事ではないと。


 しかし、リゼリアはタフで――ローズだけに手を汚させる訳にはいかないと、途中からカイエが交代して、十何度目かのリゼリアの肉体の再生を終える。


 さすがのリゼリアも、大人しくなってきたが……まだ反逆的な目をしているし。カイエ自身も、このまま終わらせるつもりなどなかった。


「まあ、とりあえず……今日のところは、終わりにしてやるよ。また来るからさ……リゼリアは、それまでこの結界の中で反省していろよ」


 そう言ってカイエはローズを連れて、結界から出ると――ついでとばかりに、リゼリアの使徒たちを別の結界の中に閉じ込める。


「こいつらは……このまま放置すると死ぬからな。ほら……これで問題ないよな?」


 カイエは収納庫ストレージから大量の水と保存食を取り出すと、使徒たちを捕らえた結界の中に頬り込む。


「さてと……一般市民は外に出してやるからさ。この城に閉じ込められたくない奴は付いて来いよ」


 未だ呆然としている市民たちに声を掛けると。カイエはリゼリアを放置して、広間を出て行こうとする。


「待て……カイエ! 貴様は……我をこのまま結界に閉じ込めておくつもりか?」


 憎しみを込めて睨むリゼリアに――カイエは残酷な笑みを浮かべる。


「ああ、そうだけど……リゼリア、一応言っておくけどさ。おまえが本来の力を取り戻せば、その結界を破る事が出来るからな。だけどさ……そんな事をしたら、制約を破ったおまえは、他の神の化身と魔神たちに始末されるよな?」


 あえて放置して、一つだけ抜け道を用意しておく――リゼリアがプライドのために本来の力を取り戻して、神の化身と魔神たちに殺される道を選ぶか。それとも死から逃れれるために、幽閉され続けるという屈辱の選択をするか……


(いや……本当のところ。リゼリアが力を取り戻したって……俺の結界は破れないんだげさ)


 カイエがリゼリアを閉じ込めた結界は特別製で――外側と内側の二枚の結界の間に『混沌の魔力』を展開していた。リゼリアが本来の力を取り戻して内側の結界を破れば……『混沌の魔力』が彼女を飲み込んでしまう。


 リゼリアが魔力を完全に取り戻した状態で『混沌の魔力』に飲み込まれば――次に復活出来るのは、少なくとも数百年後になる。


(まあ……俺としても、リゼリアを殺す事が目的じゃないからな。この女には……責任を取らせてやらないと)


 リゼリアが殺した魔族たちが甦る事は決してない――だからといって、たとえリザリアの精神体を滅ぼしたとしても、誰も得るモノはない。


 だから……せめて、リゼリアに徹底的に後悔させて。殺された魔族たちに対する償いをさせる……まずはリゼリアが魔族狩りを止めると言うまで、カイエは解放する気などなかった。


 カイエは言葉通りに一般市民と、地下室に閉じ込められていた魔族たちを解放すると――イゼリアの居城全体を、新たに展開した結界で包み込む。

 

 これでカイエが解除するか、結界に注ぎ込んだ魔力が尽きるまで……リゼリアの城は外部と分断される事になった。


「あとは……外に残っているリゼリアの部下たちを捕獲するか」


 今も魔族を捕らえるために――中立地帯で活動している使徒がいる可能性があるから。カイエは元の世界に戻る前に、そこまでは終わらせるつもりだった。


 リゼリアを放置したのまま、みんなと一緒に夕食を食べるために帰るつもりはさすがになかったが――とりあえずの問題は解決したから、状況報告も兼ねて戻る事にしたのだ


「なあ、ローズ……あとの事は、俺に任せてくれよ。あいつ・・・の事も……俺が絶対に救って見せるからさ」


 六本腕の異形と化した魔族も――カイエは眠らせたまま収納庫ストレージに入れて、リゼリアの城から連れ出していた。


「うん……最後まで自分で出来ないのは悔しいけど。みんなとの約束もあるし……私はカイエを信じてるから、私の分までお願いするね!」


 ログナとアルメラは状況がイマイチ解っていなかったが――神の化身であるリゼリアを延々と殺し続ける場面を、目の前で目撃した興奮が未だ冷めやらぬという感じで。その目は……完全に逝ってしまっていた。


「ハハハ……ここまでやるかって感じだな!」


「私……もう、駄目。いつ死んでも良いわ……」


「おまえらさあ……使い物にならないなら、放置するからな」


 今の状態でも、ログナとアルメラが殺される事はないだろう――カイエは本当に二人を置き去りにして、リゼリアの使徒を探しに中立地帯へと向かう事にする。


「俺がここに戻って来るのは……六日後か七日後ってところだからさ。おまえらも、まだ付き合う気があるならさ……それまで情報収集でもしておいてくれよ」


 カイエは情報に対する報酬として金貨たっぷり詰まった袋を投げると――地下牢に捕らわれていた魔族たちを連れて、多人数飛行マストラベルで多重加速ブーストで音速を超える速度まで加速した。


※ ※ ※ ※


 魔族たちの悲鳴を無視して――カイエとローズは中立地帯までやって来ると。気絶している彼らを解放して、リゼリアの使徒たちの捜索を始める。


 それから日が暮れるまでと、次の日の午前中を使って探索を終えると――カイエとローズは、ディスティの居城に転移する。


 ディスティに簡単な状況報告と、アルベルトの情報に関する礼を伝えると……カイエは異形の魔族をディスティに預けた。


「俺が帰って来るまで、そいつの事を頼むよ」


「うん、任された……カイエ、早く帰って来て」


「いや、おまえのところにはまた来るけどさ……俺たちが帰る場所は、自分たちの家だからな」


 カイエは揶揄からかうように笑う。


「もう、カイエのいけず……ローズは、意地悪言わないよね?」


 ディスティの真摯な瞳に――ローズは申し訳なさそうな顔をする。


「ごめんね、ディスティ……私がこっちに来るのは当分先かな? でも、その代わりに私の親友が……もう一人のカイエの奥さんが来るから。ディスティも仲良くしてね」


 カイエと一緒にこちらのに来る順番を、仲間たちと取り決めているから……ローズが次に来るのは、こちらの時間軸では随分先の事だ。


「もう一人の奥さん……」


 ディスティは複雑な表情を浮かべるが――ローズにニッコリと微笑んで深く頷く。


「うん、解った……ローズがそう言うなら、生意気な人じゃなければ仲良くする」


「それは大丈夫よ……じゃあ、ディスティ。よろしくね!」


 最後に、ヴェロニカと『暁の光』のメンバーのところにも挨拶に行って――当然ながら、レイナたちがいる地下迷宮ダンジョンにも潜った。


 そして、一通り挨拶を終えると――カイエとローズは、元の世界に戻って行った。


 カイエとしては五日ほど、ローズとしては暫くの間は……こちらの世界から離れる事になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る