第280話 そんな筈ないだろ?


 カイエとローズは言葉通りに、『暁の光』のメンバーが戦い易いように怪物モンスターの数を調整しながら――第十八階層の攻略を続けた。


 二人の指摘を意識しながら、アランたちは自分の動きを直していく。最初は慣れない事をやるので戸惑いを見せていたが、流石は金等級ゴールドクラスの冒険者というところか、戦いを重ねる度に動きが自然になっていった。


 カイエとローズも彼らの動きが良くなるに従い、怪物モンスターを調整する数を減らして行き。半日も経つと、まだ完璧とは言い難いが、数を調整する必要はなくなった。


「ここからは……俺たちも楽しませて貰うか」


「うん、カイエ……それじゃ、私たちも普通に参加させて貰うわよ」


 二人は武器を持ち換えて、カイエお手製の鋼の剣で戦った。飛行フライ加速ブーストを封印し、他の魔法も中位までしか使わなかった。

 ここまで制限すると、『暁の光』にパワーで劣りそうなものだが――そこはカイエとローズだから、勿論そんな事はなく。遊撃役として『暁の光』をリードしながら、地下迷宮ダンジョンを攻略して行った。。


 そして、階層ボス――五つ首の竜ティアマト戦もカイエとローズは鋼の剣で参加して、彼らは無難に階層ボスを倒す事が出来た。


「おまえたちだけだと……ちょっと苦労しそうだな。だけど一回戦ったから、十分対策は練れるだろう?」


「そうね……その、ありがとうカイエ。次は私たちだけで、ボスを倒せるように頑張るわ」


 ちょっと恥ずかしそうに礼を言うレイナと、その様子を生暖かい目で見ているトール。アランたちも、それぞれカイエとローズに礼を言って、今日のところは地下迷宮ダンジョンから日上げる事にした。


※ ※ ※ ※


 その日の夜はビクトリノの街中に繰り出して、『暁の光』のメンバーと外食するつもりだったが。急遽、今夜もディスティの居城に行く事にした――地下迷宮ダンジョン潜っている間に、ディスティから伝言メッセージで連絡があったからだ。


 もはや日課となっている模擬戦を、ヴェロニカの城の訓練場で行った後――転移魔法でディスティの城に戻って来て、昨日と同じメンバーで食卓を囲む。


 さすがに二日目だから、アランたちも少しは慣れたようだが……広間のような広大な空間で豪華な食事をする雰囲気に馴染めないようで、相変わらず居心地が悪そうな顔をしていた。


「それで……ディスティ。何か情報が掴めたって話だよな?」


 居心地の悪さにもめげずにレイナまで参戦した『あーん!』合戦が一通り終わった後――カイエは蒸留酒ブランディのグラスを空けて切り出した。


「うん……面白い情報が手に入った。大陸の西にあるブレストリア法国という国だけど……その国を支配してるのが『曇天の神の化身』アルベルト・ロンダルキアだという事が解った」


 ディスティの言葉に、カイエは面白がるように笑う。


「へえー……あの・・アルベルトが国を支配してるだって?」


 まず最初に説明が必要だが――神の化身と魔神たちは、誰がどの国を支配しているなど全てを把握している訳ではない。自分と直接関わらない相手など興味がないからだ。


 それくらい神の化身と魔神たちは傲慢であり、ディスティもその例に漏れず。自分のところに仕掛けて来る事もない彼方の国の事情など、カイエに情報収集を依頼されるまで全く知らなかった。


 そして、『曇天の神の化身』アルベルト・ロンダルキアがブレストリア法国を支配している事にカイエとディスティが注目した理由は――


「絶対に嘘だろ……誰にも興味がないあいつが、国なんて支配する筈がないよな」


「うん……私もそう思う。だから……ブレストリア法国は怪しい」


 二人が知っている『曇天の神の化身』は――国を造るような性格ではないのだ。良く言えば孤高。悪く言えば――


「何だよ……カイエ。アルベルトの奴の話をしてるのか……」


 ヴェロニカがカイエのグラスに蒸留酒ブランディを並々と注ぎながら、犬歯を剥き出しにして笑う。


「あいつは……自分の剣を極める事にしか興味がない変人だからな」


「おい、ヴェロニカ……おまえがそんな事を言うのかよ?」


 グラスを一気に空けて、揶揄からかうように笑うカイエに――


「俺とアルベルトを一緒にするなって。俺はカイエみたいな強い奴に勝ちてえって思ってるけど……あいつは違うだろ。自分の剣を極める事以外に興味がないんだからさ」


 ヴェロニカが言う事は的を射ている――『曇天の神の化身』アルベルト・ロンダルキアは、自分以外の誰にも興味がないのだ。


 そんなアルベルトが……国を支配しているなど。普通に考えればあり得ない。


「ディスティ……ブレストリア法国は、おまえたちのゲームに参加してるのか?」


「うん……普通に参加して、周りの国と対等に渡り合ってるみたい」


 神の化身と魔神たちは互いに制約を掛けて、ゲームのように戦いを続ているが――ゲームの駒として参加しているのは『権能』を与えられた者たちだから。ブレストリア法国の駒も『権能』持ちか、それに対抗できる力を持っている事になる。


「だったら、決まりだな……少なくともブレストリア法国の奴らは、何かの手段でアルベルトから『権能』を貰ったか。『権能』がなくても『権能』持ちと戦えるって事だろ……ディスティは、なかなか面白い情報を持って来たな」


「うん……カイエ、もっと褒めて!」


 ディスティの金色の瞳の要求に応えて、カイエは頭を撫でてやると。


「えっと……カイエ。私も今日は頑張ったんだから……」


 対抗心を燃やしたレイナが上目遣いに見てくる。


「そういう話なら……カイエ、俺だって今日の鍛錬は頑張ったんだからな」


 ヴェロニカまで参戦してくるが――


「ああ……レイナもヴェロニカも褒めてやるけどさ。おまえたちは自分のために強くなろうとしてるんじゃないのか?」


 カイエは意地の悪い笑みを浮かべて立ち上がると……ここまで状況を見守っていたローズの方へと近づいていく。


「カイエ……大体状況は解ったけど、もう良いの?」


「ああ、ローズ……待たせて悪かったな」


「ううん……そんな事ないよ」


 優しく微笑むローズを腕に抱いて、カイエは唇を重ねると――


「とりあえず……明日、ブレストリア法国に行って来るよ。そういう事で……俺とローズは帰るからさ」


 唖然とする彼ら彼女たちを残して――カイエとローズは二人だけの場所へと転移で消えた。

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