第279話 ダメ出し


 それからカイエたちは第十八階層――『暁の光』が攻略中の階層に移動する。


「それじゃ、始めるか……最初は、俺たちは手出ししないからさ。おまえたちの戦い方をローズに見せてやってくれよ」


 『暁の光』の実力を確かめるために、レイナたちだけで怪物モンスターと戦う事にする。


 今回出現した怪物モンスターは、八体の死霊の騎士デスナイト――四本腕の大型のスケルトンに見えるが、上位のアンデッドであり。魔法耐性がある上に、金属鎧の重装備で凶悪な武器まで持っている。


「『爆列ブラスト火球ファイヤーボール』!」


 ギルがお決まりの上級魔法で先制攻撃を加えるが。ダメージは通ったが、流石の魔法耐性で一体も仕留める事は出来なかった。


「みんな、突っ込むなよ!」


「「「解ってる(ぜ)(わ)!!!」」」


 アランとガイナが玄室の入り口に陣取る――これで接敵するのは二対二となり、数の不利は消える。すかさずノーラが、矢継ぎ早に支援魔法を発動した。


「アラン、ガイナ。上は開けておいてよ!」


 レイナは弓に持ち替えると。アランとガイナの頭上の隙間から、妖精銀ミスリルの矢で死霊の騎士デスナイトを狙う。


「俺も行くぜ……『電撃の鎖チェインライトニング』!」


 ギルも中位魔法を連発し――ノーラが何度か回復魔法を使ったが、『暁の光』は無難に死霊の騎士デスナイトを殲滅した。


「なあ、ローズ。こいつらも結構上手く連携が取れてるだろ?」


 戦いを終えたアランたちを眺めながら、カイエは意味ありげな笑みを浮かべる。


「そうね。アランの判断も適格で、他のみんなも彼を信頼しながらフォローもしてるから……大きな失敗はしないと思うわよ」


 連携の重要さは、ローズも良く解っている――勇者パーティーも初めから強かった訳ではなく、戦いの中で試行錯誤をしながら最強のパーティーになったのだ。


 そんなローズから見れば――『暁の光』には色々と思うところがある。しかし、そこまで・・・・求められるような状況にないのだから、ローズは彼らのやり方に口出しするつもりはなかったのだが……


「ローズ。遠慮なんかしないで、ダメ出ししてやれよ。こいつらだって、もっと強くなりたいって思ってるからさ……なあ、そうだろ?」


 カイエの問い掛けに――『暁の光』のメンバーが一斉に頷く。


「当たり前じゃない……私たちだって、もっともっと強くなるつもりだから!」


「だったら……まずは、レイナだな」


 揶揄からかうように笑うカイエに、レイナはゴクリと唾を飲み込む。


「おまえは前よりも周りを良く見るようになったけどさ。『暁の光』のメンバー構成を考えれば、状況に応じて盾役としても機能出来るようにならないとな。さっきみたいに狭さを利用して戦っているときに、後ろから敵が来たら対処が難しいだろう?」


そのためにトールが後方の警戒をしていたのだが――結局、縦役がいなければ押し負けてしまう。


「勿論、レイナの攻撃スタイルを根本的に変えるって意味じゃなくてさ――攻めるだけじゃなくて、耐える戦い方も覚えろって事だよ」


 カイエは収納庫ストレージからレイナと同じタイプの細身の剣を取り出すと。


「なあ、ローズ。俺を攻撃してみてくれよ」


「うん、解った」


 カイエの意図を理解したローズが、光の剣で次々と斬撃を繰り出すが――カイエはパリーだけで全部防いでしまう。


「重装備じゃなくたって、防御に徹すれば壁役は出来るんだからさ。今回みたいに数が多いときでも、おまえが盾役になれれば、戦い方のバリエーションだって増えるだろ。」


「うん……私もやってみるわ!」


 カイエが自分の事をしっかりと見てくれていた――それが嬉しくて、レイナはカイエの言った事を一生懸命に実践しようと思う。


「次はアランとガイナだけど……ローズ、お前の意見を聞かせてやれよ」


「うん、解ったわ……アランは自分が何とかしようと、頑張り過ぎてると思う。もっと仲間とのバランスを考えて戦った方が良いと思うわ。

 ガイナはレイナとは逆で、自分が盾役タンクだって決めつけ過ぎかな。自分の役割を果たすのは重要だけど、そのせいで攻撃の幅を狭めていると思う」


 一度戦いを見ただけで――ローズは二人の欠点をズバリと指摘した。


「二人の戦い方も、実践して見せた方が良いかな?」


「いや、それよりもさ……ローズ。アランには、もっと言うべきことがあるだろ?」


 カイエの言葉に、ローズはちょっと困った顔をする。


「いきなり、私にこんな事を言われると。アランは気を悪くすると思うけど……アランの戦い方は、身体能力に頼り過ぎていると思うわ。そのせいで動きが雑になるのよ」


「ちょっと、待ってくれ……つまり、俺は戦いの基本が出来ていないって事か?」


 長髪の戦士は困惑気味だが、怒ってはいない。

「これは、すぐに再現できるから……アランの戦い方は、普段はこんな感じでしょ?」


 ローズは完璧にアランの動きを真似て見せる。


「この動きだと、そんなに問題ないんだけど……攻撃を畳み掛けるときに、強引になるのよね。こんな感じで……」


 ローズが加速すると――確かに動作が雑になった。基本的な動作を無視して、力とスピードに任せて剣を振るっている感じだ。


「型を崩すのが絶対にダメとは言わないけど。相手が格上だったら、その隙を突かれるわよ……アラン、試してみる?」


「いや、ローズさん……良く解った。いずれにしても……俺は熱くなり過ぎるって事だな」


 アランは素直に反省する――これが、生真面目なアランの長所だ。


「まあ、逆に言えば。身体能力だけでも、それなりに戦えているんだからさ。アランが自分をコントロール出来たら、もっと強くなれるって事だよ」


 カイエのフォローに、アランは深く頷く。


「ああ……そうだな。もっと動作を意識してみよう」


「さてと。次はギルだな……」


 カイエは意地の悪い顔をする。


「ギルは……先制攻撃がワンパターンだし、その後も自分の好きな魔法を適当に使ってるだろ? 独断専行するところもおまえの欠点だし。もっと状況を考えて行動しろよな」


 ダメ出しされまくりで――ギルはガクリと肩を落とす。


「おまえの魔法自体は悪くないんだからさ。仲間と連携する事を前提に、自分の強みを生かす方向で考えろよ。でないと……おまえのせいで『暁の光』が全滅する事だってあり得るからな」


 肉体派魔術士のギルが無茶をするのは、仲間たちのためだが。ギルの行動のせいでパーティーが危険に晒されるのも、また事実だった。


 それと、上位魔法を簡単に操れるくらいにはギルは優秀な魔術士だから。自分の好みだけで魔法を選択している現状でも、十分に戦えているのだが……


「なあ、ギル。おまえが状況に合わせて魔法を使い分けて、みんなと上手く連携すれば……『暁の光』はもっと強くなれる筈なんだよ」


 全部おまえ次第だと、カイエに期待するような言葉を掛けられて――ギルは拳を握り締めて、瞳に炎を宿す。


「そうか……そうだよな! カイエ師匠……俺は絶対に、もっと上手くやれるようになってみせるぜ!」


 偉大な魔法の使い手である(とギルが思っている)カイエを、ギルは本気で尊敬しているから。期待された事が、嬉しくて溜まらないのだ。


 ホント、単純な奴だよな――カイエは苦笑するが、それ以上文句は言わなかった。


「あとはノーラとトールだな……ノーラのやり方は基本的には間違ってないと思うよ。あとは、もっと自分に出来る事があるって理解するべきだな。出来る事が増えれば、行動の幅が広がるからさ。最後はトールだけど……おまえは、ときどき手を抜く癖を直した方が良いからな」


 自覚してるんだろうと、カイエはジト目を向けるが――トールはニッコリ笑って舌を出す。


「うーん……どうだろう。でも、カイエ……余裕があるのは良い事だよね?」


「余裕と手抜きは別だからな……まあ、良いけど。これから、その違いを理解させてやるからさ」


 カイエは面白がるような笑みを浮かべる――トールは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。


「それじゃ……俺とローズがフォローするから、みんなは今言った事を実戦で試してみろよ。怪物モンスターの数は俺たちが調整するし、慣れないせいで上手く行かなくても……どうにでもしてやるからさ」

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