第247話 激しさの後の微睡


 その日の午前中、黒鉄くろがねの塔のカイエの寝室で――五人は一緒に過ごした。

 白いシーツが敷かれたキングサイズのベッドの上で、カイエは前後左右からローズたちに抱きつかれて、ゆったりとした時間を過ごす。

 四人に密着されるのはいつもの事だが……一つだけいつもと違うのは。五人全員が一糸纏わぬ姿だという事だった。


「カイエ……今私、物凄く幸せよ!」


 ローズがカイエの右腕に身体を絡ませると、


「そうだな……とても満ち足りた気分だ」


 エストは左腕に絡ませて、うっとりとした顔をする。


「カイエ、あんた……夕べは何で帰って来なかったの? カイエのくせに、生意気よ!」


 アリスは拗ねた顔で、カイエの背中に色々な部分を密着させる。


「ああ、悪かったよ……でもさ、みんな一晩くらいで大袈裟だよな」


「そういう問題じゃないよ……ホントはずっと、カイエとイチャイチャして居たいんだから」


 エマはカイエの胸に抱きつきながら、上目遣いで頬を膨らませる。


「そうだな……俺もみんなと一緒に、ゆっくり過ごしたいから。これからは、夕飯の時間には帰る事にするよ」


 カイエが優しい笑みを浮かべると、


「うん……約束だからね」


 エマは満面の笑みを返す。


「ところで、カイエ……向こうの世界で、まさかフラグは立ててないわよね?」


 アリスは横からカイエの顔を覗き込む。


「いや、悪い。浮気をするつもりなんてないけど、フラグは立ったかな」


「「「「……え!」」」」


 四人は一斉に腕に力を込めて、カイエを睨んだ。


「いや、俺には嫁が四人と、愛人もいるって伝えたから。たぶん一人は大丈夫だと思うけどな」


「ちょっと待って! 『一人は』とか言ったけど……いったい何人にフラグを立てたのよ?」


 アリスがジト目を向けると。


「俺が認識してるのは、二人だな。大丈夫じゃない方は、身体目当てだって公言してるけどさ。勿論、俺は誘いに乗る気なんてないから」


 カイエは平然と言うが――こんな話を聞いて面白い筈もなく。四人が不満そうな顔をする。


「なあ、ローズ、エスト、アリス、エスト……」


 カイエは真顔で、四人の顔を順に見つめる。


「俺は絶対に……おまえたちを裏切ったりしないからな」


 ローズたちも本心では、信じてくれている事は解っているが。カイエは言葉にして想いを伝える。


「私だって……カイエの人の絡み方なら、ある程度は仕方ないと思うけど……」


「ああ。もう少し……何とかならないものか?」


「結局、カイエが無防備に振る舞うから、フラグが立つと思うんだけど……それがカイエなのよね?」


「うーん……私だってカイエを信じてるけどさ。モヤモヤするのは、どうしようもないよ!」


 信じているけど、納得は出来ない――カイエの周りに他の女の影がチラつくだけで、彼女たちは嫌な気分にはなるのだ。


「みんな、悪いな……おまえたちが嫌な想いをしないように、出来るだけ気をつけるからさ。とりあえず、勘弁してくれよ」


 カイエにとって未知の場所である異世界で、色々と情報を集める必要があるのだから。出会う相手に壁など作っていたら、上手く進むモノも進まなくなる。


「もう……解ったわよ! 今は・・私たちじゃ手出し出来ないから。泥棒猫の対処はカイエに任せるわ……今は・・ね!」


 ローズはそう言って、他の三人と目配せすると――不敵な笑みを浮かべる。


「そうだな……今のうちだけの話だ」


「そうね。どうせ、長くは続かないんだから……カイエ、泥棒猫に変な情なんか掛けないでよ?」


「うん。そうだよね……カイエ、もう少しだげ待っててね!」


 四人の発言に――彼女たちが何をしようとしているのか、カイエには想像がついたが。裏で動いている者・・・・・・・・を含めて、彼女たちの想いは解っていたので。文句をいう事も止める事もしなかった。


「へえー……おまえたちも、面白そうな事をしてるみたいだな。まあ、期待させて貰うよ……そろそろ、あいつら・・・・が待ち草臥れてるだろうから、行こうか?」


 カイエの言葉に四人は頷くと――それぞれが服を着て、黒鉄くろがねの塔のダイニングキッチンへと向かう。


 すでに時間は正午に差し掛かっており。ようやく姿を現した五人に……ロザリーが涙目で訴える。


「ロザリーちゃんは……物凄く疎外感を感じてたんですの!」


 朝から五人が、あんな事やこんな事をしている間。ずっと待ち惚けを食らっていたゴスロリ幼女の素直な告白に、カイエは頭を撫でる。


「ああ、ロザリー。悪かったよ……でもさ、ゴメンな。これたけは譲れないんだい」


 最も大切な存在である四人との時間だけは、優先せざるを得ない。


「僕だって、それは解っているげど……でも、今からは僕たちの事も構ってくれるよね?」


 困った顔をしているメリッサを、カイエは優しく抱きしめるが――誰も文句は言わなかった。


 ローズもエストもアリスもエマも……もう自分たちはカイエを十分独占したのだからと、彼女たちを優しく見守る。


 そして、この日の昼食は――エストが腕を振るう傍らで、カイエはずっとロザリーとメリッサの傍にいた。


 二人にも寂しい思いはさせたくないと……ローズたちはそう思っていたのだ。

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