第248話 異世界の地下迷宮


「よう、みんな待たせたな。それじゃ、早速行こうか?」


 三日後。カイエは約束通りに冒険者ギルドで八人に合流する。異世界に戻ってから宿屋で寝たから、睡眠時間は十分だった。


 人目のない帝都の郊外まで移動してから、多人数飛行マストラベル地下迷宮ダンジョンに向かった。


 音速を超える移動速度に、今回もレイナは涙目だったが。アルメラは最初こそ驚いていたが、途中から恍惚とした表情で、ハーハーと興奮する始末だった。


「もし、この速度で落ちたら……肉片も残らないわよね!」


 飛んでいる最中にこんな事を言うものだから、『暁の光』のメンバーたちは想像してしまい。真っ青な顔で一言もしゃべらなくなった。


 帝都から徒歩で二日の距離にある地下迷宮ダンジョンは、『スタンベルトの迷宮』と呼ばれる中難易度ミドルクラス地下迷宮ダンジョンで。地上部分には如何にも遺跡という感じの太い石柱が並ぶ建物になっていた。


「俺たちはこの地下迷宮ダンジョンを攻略済みだから道案内をしよう。カイエならわざわざ第一階層から順番に攻略する必要も無いだろう? 十五階層までならショートカットできるが、どうする?」


 アランの申し出に、カイエはニヤリと笑う。


「いや、折角だからさ……一階層から攻略するよ。とりあえず、みんなには悪いけど。暫くは一人でやらせて貰って良いか?」


「ああ、それは構わないが」


 アランは少し意外そうな顔をして、レイナたちも特に異論も挟まずに同意する。ログナとアルメラはカイエが何を始めるのかと期待した顔で見ている――この場合、二人の方が正解だった。


「じゃあ……始めるか」


 そう言うなり、カイエは多人数飛行マストラベルを発動したまま地下迷宮ダンジョンに突入する。


「ちょ……キャーッ! 壁にぶつかるぅぅぅ!」


「レイナ、心配するなよ。そんなヘマはしないからさ」


 さして広くもない迷宮の回廊を高速で駆け抜けながら、出現する怪物モンスターを次々に蹂躙していく――


 カイエが地下迷宮ダンジョンに来たのは、世界を創造した者たちの遺物である地下迷宮ダンジョンから、彼らの情報を得る事が目的の一つだが。情報についてはそれほど期待してはおらず、異世界の地下迷宮ダンジョン自体の調査と、単純に攻略したいという気持ちの方が主目的メインだった。


 アランたちに出会う前から、カイエこの世界の怪物モンスターと何度も戦って実力を測っていた。しかし、地下迷宮ダンジョン怪物モンスターは、外の怪物モンスターとは根本的に異なる。姿形が同じだとしても――地下迷宮の主ダンジョンマスターが創り出した偽物フェイクなのだから。


 カイエには相手の魔力が見えるから、それだけで大よその強さを把握する事が出来る。しかし魔力だけが強さの全てではないし、探知系の魔法を使っても完璧に測れる訳ではない。だから実際に戦って確かめる必要がある。元の世界で同難易度と言われる地下迷宮ダンジョンとの比較や、階層ごとの強さの変化など……そこから、この世界の地下迷宮ダンジョンについて類推しようとしているのだ。


 オーバーキルになると、正確な実力が解らないから。剣は魔力を付与しただけの普通の鉄製のモノを使い、魔法も中位以下に限定する。それでも余り時間を掛けるつもりはなかったので、剣は念動力テレキネシス系の魔法で二十本ほど同時に操り、攻撃魔法も怪物モンスターの数に合わせて連射した。宝箱のトラップは他の八人を結界で保護した上で、敢えて全部発動させた。


 勿論、地下迷宮ダンジョンには他の冒険者たちがいたが。カイエは複数の探知系魔法を使って彼らを巻き添えにしないように回避して、回避不可能なときは瞬間移動でパスする――そして三十分も掛からずに、カイエたちは十五階層に到達した。


 ここまで色々と試した結果……予想していた事だが、少なくともこの地下迷宮ダンジョンは、元の世界の典型的な中難易度ミドルクラス地下迷宮ダンジョンと大差がないことが解った。怪物モンスタートラップの種類や強度まで、既視感を覚えるほど似通っている。


(まあ、たかが中難易度ミドルクラスの十五階層までだし。ここから先に期待するかな)


 大差がないと言っても、地下迷宮ダンジョンは個々に特徴があるものだし。せめて攻略する面白さという面だけでも、少しは期待したいところだったが……


「カ、カイエ、あんたねえ……何を無茶苦茶やってくれてるのよ!」


 レイナだけではなく、『暁の光』のメンバー全員がグッタリとしていた。さすがに悪い事をしたなと思っていると。


「何言ってるのよ、ハーフエルフのお嬢ちゃん……最高だったじゃない!」


 興奮冷めやらぬという感じのアルメラと、素知らぬ顔でニタニタ笑っているログナ――こいつらに関しては放置して構わないなと、カイエは苦笑する。


「この地下迷宮ダンジョンは全部で二十階層とか言ってたよな? 残りも同じような感じで攻略しても良いんだけど……レイナたちと攻撃役を交代してみるか? おまえたちの地下迷宮ダンジョンでの戦い方に、ちょっと興味あるんだよね」」


 最後まで何もさせないで付き合わせるだけじゃ、悪いと思ったのが半分と。地下迷宮ダンジョンという限定された空間における彼らの対応能力を知りたい気持ちが半分――万が一、何か不測な事態が起きたときに、確実に生き残らせるためにだ。

 さらに付け加えれば、実力が解ってる『暁の光』のメンバーの戦いぶりという別の角度から、この地下迷宮ダンジョンを測ろうという思惑もあった。


「良いわよ……カイエに、私たちの力を見せてあげるわ」


 高速移動の恐怖から復活したレイナが、勝気な笑みを浮かべる。


緑竜フォレストドラゴンのときは、カイエに助けて貰ったけど……『暁の光』の実力はあんなものじゃないって、証明してあげるわ」


 カイエだけじゃなく、ログナとアルメラも自分たちよりも格上だと解っていたが。素直に負けを認めるほどレイナは殊勝な性格ではない。


「そうだな……名誉挽回と行こうか!」


 アランも気合を入れるが。


「アラン、あんた……発言が後ろ向きなのよね? うちのリーダーなんだから、もっと自信を持ちなさいよ!」


 仲間想いのレイナは決して貶そうというのではなく、生真面目過ぎるアランの気負いを解そうとしているのだ。


「ああ、レイナ。解っている……みんな、俺たちの力をカイエに見せてやろう!」


 『暁の光』は――リーダーであるアランの下、信頼という絆で結ばれた金等級ゴールドレベルに相応しい実力のパーティーだった。第一盾役メインタンクのガイナと、攻防一帯の主力であるアラン、そして近距離中距離を使い分けるレイナの三人が所謂いわゆる前衛を務める。


「……電撃の鎖チェインライトニング!」


 玄室の扉を開けるなり、出現したアイアンゴーレムにギルが先制の中位魔法を放つと、正面からアランとガイナ、レイナが横に回り込んで攻撃を仕掛ける。その間、トールは後方からの襲撃を警戒し、ノーラは支援魔法と回復魔法が必要なタイミングに備える。


 敵の探知と罠の解除、遊撃がトールの役割だが、レイナも探知の補助サブは受け持っており。ノーラが回復魔法と後衛の盾役を担当するが、トールも薬草での回復で補助をする。攻撃魔法もギルがメインだが、魔法中心で攻撃するときはノーラとレイナも加わる……ほとんどのメンバーが複数の役割を臨機応変に使い分けながら、しっかりと連携していた。


「もう魔法は必要ないな……ノーラ、支援魔法は温存しておいてくれ」


 前衛後衛に分かれたときは、後衛の指揮をギルが担当する。自分たちの力を見せるなどと言っていたが、彼らは決して力んではおらず、普段通りに戦っており――


「へえー……レイナ・・・たちも、結構やるじゃないの」


 アルメラも『お嬢ちゃん』などと呼ばなくなるくらいは、その戦いぶりに感心していた。


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