第240話 爆弾発言
トールの行きつけの店である『踊る兎亭』で、カイエと『暁の光』のメンバーは夕食を取る事になったのだが――
「えー! 私たちが監視されていたの?」
食事が始まるなりトールが告げた台詞に、レイナはテーブルを叩いて立ち上がる。
「ねえ、レイナ。気持ちは解らないでもないけど、ちょっと声が大きいよ! ここなら問題ないと思うけど、もう少し気をつけて欲しいな」
常連であるトールが用意して貰った個室は、密会用に防音の仕掛けが施されている。
「あ、ごめん……でも、本当でしょうね? 私は全然気づかなかったわよ」
ハーフエルフであるレイナは、人族よりも聴覚と視力が優れており。感知能力は『暁の光』の中でトールに次いで高い。
「うん、間違いないよ。感じからすると、相手は盗賊ギルドや冒険者じゃないね……多分だけど『神の血族』の配下の連中じゃないかな?」
『神の血族』とは、文字通り『雷の神の化身』の血族と言われる者たちであり、エスペラルダ帝国の支配階級として君臨している。
「それにしても……『神の血族』か。面倒な連中に目を付けられたな。でも、どうして……」
アランがエールのジョッキを片手に顔を顰めるが、
「そんなのカイエのせいに決まってるじゃない!」
レイナはそう言って、不機嫌な顔でグラスの酒を一気に飲み干す。
「あんな派手な魔法を使えば、警戒してくれって言ってるようなものよ。だから、私は言ったじゃない!」
「おい、レイナ……まだカイエの魔法が原因だって決まった訳じゃないだろう? 結構な高さで飛んでいた訳だし、あの速度だったんだ。誰かに見られたとしても、俺たちだと判別出来ないんじゃないのか?」
降りた場所も人目に付かないところを選んだのだから、飛んでいたのがアランたちだと知られている可能性は低い。
「だったら、他に『神の血族』に目を付けられる心当たりなんてあるの? 私たちも、それなりには活躍してるけど。『神の血族』から見たら、所詮は冒険者ってレベルよね?」
帝都エリオットにおける冒険者の評価は低い。支配階級である『神の血族』たちが、個々の戦闘能力で冒険者を上回っているからだ。
『神の血族』から見ればアランたち
「しかし、だからと言ってカイエのせいだと決めつけるな! カイエは俺たちの命の恩人なんだ、証拠もないのに疑うなんて失礼だろう?」
アランは全然納得していなかったが。
「ねえ、アラン。そろそろ、そういうのは止めない? 私もカイエには……まあ、恩は感じてるけど。こいつは結構意地悪な奴だからね? 『神の血族』に目を付けられたのだって、きっとわざと――」
「おい、レイナ! さすがに聞き捨てならないぞ、カイエに謝れ!」
一触即発の空気が立ち込めるが――
「いや、悪いけどアラン……レイナが言ってる事の方が正解だな」
カイエ本人が、アランの擁護の言葉を否定する。
「確かに飛んでいるところを目撃したところで、俺たちを特定するのは難しいし。地上に降りるところを誰かに目撃された訳じゃない。だけど、特定できなくても、疑いを掛ける対象を絞ることは出来るだろ……俺たちが帝都に入るときに、
カイエの質問にアランたちは唖然とする――つまりは、少なくとも彼らに気づかれない程度には上手な相手が、帝都に入る者たちを監視していたという事だ。
神の化身と魔神たちは、それぞれが国を支配して互いに争っている――それが異世界の現状だと、カイエも情報収集を通じて知っていた。だから、それなりの索敵魔法くらいは当然して使って来るだろうし、ある程度強力な存在が侵入したら警戒レベルが上がる事くらいは予想していた。
「つまり……カイエは全部知っていた上で、私たちを巻き込んだって事よね? ホント、酷い奴だわ!」
レイナは呆れた顔をするが――不安そうな素振りは一切見せない。
「ああ、そういう事だ……だけど責任は全部、俺が取るからさ」
平然と応えるカイエに、レイナは嫌そうに顔を顰める。
「責任を取るって……ああ、もう良いわ。どうせ面倒な事だろうから、聞きたくない!」
「レイナ、おまえ……良く解っているよな」
カイエは
「おい、レイナ。その辺で――」
アランが言い掛けた言葉を トールが肩を叩いて止める。
「ねえ、アランは多分誤解してるんだよ」
何を言ってるんだという顔をするアランに、
「レイナがカイエを邪険に扱うのはさ……仲が良い証拠だからね!」
この瞬間、レイナの顔が真っ赤になる。
「ト、トール……あんた、何を馬鹿な事を言ってるのよ!」
レイナの文句を、トールはニッコリ笑って
「アランには解らないかもしれないけど、他のみんなもそう思っているよ……ねえ?」
トールの問い掛けに、ギル、ガイナ、ノーラの三人が当然だろうと深く頷く。
「ちょ……あんたたちも、何を言ってるよ! 私とカイエは、全然そんなんじゃないからね!」
レイナは全力で否定するが――彼女だけに見えるようにニヤリと
しかし……この後レイナは、別の意味で深い谷底に落とされる事になる。
「いや、おまえら勝手に盛り上がってるところ、悪いけどさ……」
このときカイエは真顔で――爆弾発言をする。
「俺は国に嫁が四人と、愛人が二人いるんだよ。だから、おまえたちが期待してるような展開にはならないからな?」
「「「「「「え……!」」」」」」
アランたちの反応は予想していたが、レイナのフラグを放置するのは悪いとは思っていたから。カイエは早めに回収したのだ。
「そ……そんな事だと、思ってたわよ! カイエはいかにも女ったらしって顔してるから、こ、こんな話くらいじゃ驚かないから!」
「ああ、そうだよな……ところでさ、謝礼の話だけど?」
カイエは強引に話題を摩り替える――理由の半分は、レイナをフォローするためだった。
「俺としては本音を言わせて貰えば……さっきも言ったけど、情報だけで十分なんだよ。だけど、それじゃ道理が通らないってアランが言うから、それなりのの金額は貰うつもりだ」
そう前置きして、カイエは『暁の光』の面々の顔を見回すと。
「
「カイエ、何を言ってるんだ! 俺たちは――」
アランが、すかさず反論しようとするが。
「アラン、それ以上言うならさ……『神の血族』に目を付けられたのは俺のせいだから、その迷惑料と相殺して金は要らないって言うけど?」
ちょっと卑怯なやり方だとカイエは自覚していた――『
「じゃあ、決まりだな……早速だけど支払ってくれよ」
まだアランは納得していなかったが、カイエは急かすように謝礼を受け取る。
「これで清算は終わった訳だし……俺とおまえたちは、もう無関係だな」
「ちょっと、いきなり何を言い出すのよ?」
レイナの言葉に、カイエはニヤリと笑うと。
「だからさ、後の事は俺に任せてくれよ」
そう言うなり、瞬間移動姿を消した。
そしてカイエが向かった先は――彼らを監視している者たちのところだった。
「よう。俺がおまえたちの探してる相手だ」
『踊る兎亭』を入口を見張っていた者たちは、突然声を掛けられて驚愕するが。
「用件は聞いてやるけど、もし俺と一緒にいた奴らに手を出すなら……この国ごと、おまえらを滅ぼしてやるからな」
この夜、カイエは監視していた者たちに拘束された。
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