第204話 フタリノセカイ
すみません、宣伝です……新作の異世界学園ラブコメを描きましたので、もし時間があれば読んでください。「突然、公爵家を継ぐことになった俺は、魔法学院でモテまくるが――地位と財産が目的のビッチなんて、お断りだ!!!」
https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054898249617
※ ※ ※ ※
イーグレットとカイケルを連れて、カイエたち三人は――バルキリア公国の首都クルセウスに転移する。
クルセウスに直接転移出来たのは、以前に訪れた事があるエストに頼んで。
元々カイエは、無駄に凝ったことをするのが好きだが――最近はその嗜好が、魔法の改良の方向に傾いている。
クルセウスは旧ギズアロン王国の東端の都市で。未開の地を挟んで、チザンティン帝国や他の国々との交易の窓口の役割を果たしていたのだが。バルキリア公国が独立した事により首都となり、公国は未開地を開拓して東側に領土を広げた。
チザンティン帝国も西側の国々を併合して版図を広げたことで――両国が国境線を挟んで対峙する現在の形になった。
「魔王討伐戦争の際も、クルセウスの街並みが戦火に焼かれることはありませんでしたが……本当にギリギリの状況でした。ローズ様たち、勇者パーティーの皆さんの到着が、あと三日遅れていたら……クルセウスは、魔王軍によって火の海に沈んでいた事でしょう」
当時を思い出して目を伏せるイーグレットと、彼女の肩を優しく抱き寄せるカイケル――その光景をカイエは無駄に凝った魔法で、音声付きの動画に記録する。
「な……カイエ様は今、何をしたんですか?」
「いや、気にするなって。俺の趣味だからさ……なあ、ローズ? 今回は、色々と遊べるネタがあるんだけど――」
面白がるように笑うカイエに――
「イーグレットに可哀そうなことはしないでって……私は言ったわよね?」
ローズは目だけが笑っていない笑顔で迫る。
「……了解だよ。俺も悪ふざけが過ぎたって、反省してるから」
「ふーん……そうなんだ? 私のお願いを聞いてくれるカイエの事が……大好きよ!」
閑話休題――首都クルセウスの中心部にあるセルナクルス城を、カイエたちは訪れる。
「これはこれは……よく来て下さいました。私はバルキリア公国の大公、ルークリッド・バルキリア。こちらは妻であるセレナと、第一公女のリターナ。そして第一公子のギジェットに……」
大公家の面々は、第二公女であるイーグレットと、最前線であるアルバラン城塞を守り切ったカイケルの帰還以上に、カイエとローズを歓迎するが……
「いや、そんな事より……面白いネタがあるんだけど。まあ……とりあえず、見てくれよ?」
カイエが魔法で見せたイーグレットとカイケルのラヴシーンに――大公家の面々は絶句する。
「ホークライト将軍……これは、どういうことだ?」
「大公殿下、大変申し訳ありません……ですが、私は純粋にイーグレット様を愛しています!」
壮年の将軍の思わぬ告白に――バルキリア大公は動揺するが……
「お父様、私も師匠を……いえ、カイケルのこと愛しています!」
いや、ここまで素直に暴露するとか――二人の行動は、カイエの予想を遥か斜め上に飛び越えていたが。
面白かったので……とりあえず満足するが。
「あの、カイエ様……ロ、ローズさんが、大変なことに……」
怯えるロザリーの視線の先で――ローズは、ニッコリと笑っていた。
「ねえ、カイエ……私は、お願いしたわよね?」
ローズの魅力的な褐色の瞳から……瞳孔が消えている。
「俺は何もしてないだろ……いや、解ったからさ? ローズが嫌がる事を、俺がする筈が無いだろ?」
強引にローズを引き寄せて、唇をこじ開けて舌を絡ませるカイエを――大公家の人々とイーグレットとカイケルと……他ならぬローズ本人が、うっとりと見つめる。
(ローズが俺のモノだって――こいつらに見せつけて、目を逸らせば良いんだよな?)
(うん……でも、カイエ。私……カイエの事が……)
視線で会話をする二人は……いつの間にか、二人だけの世界に入ってしまい。
周りの視線など忘れて――濃密なピンク色の世界に酔いしれる。
「……えーと。カイエ様とローズさんは、お取込み中だから。ロザリーちゃんが説明するけど……イーグレットとカイケルは、お似合いなのよ」
ゴスロリ幼女の台詞に……大公家の面々は何かに取り憑かれたような顔で、コクコクと頷く。
彼らにとっては次女と老将軍のあり得ない恋バナ以上に――勇者(女)と、チザンティン帝国を完膚なきまでに叩きのめした黒髪の少年のラヴシーンの方が、衝撃的だったからだ。
(イーグレット、おまえさ……これは本意じゃなくて。おまえに対する貸しだからな)
(はい……解っています。カイエ様とローズ様、そしてロザリーちゃ……様には、本当に感謝しています!)
アイコンタクトだけで、いつの間にか二人は意思疎通できるようになっていたが――それが誤りだと、気づいたときには遅かった。
(カイエ……イーグレットとフラグを立てる筈がないとか、言ってたわよね?)
カイエの舌を……ローズは思いきり噛む。
(いや、その通りだけどさ……ローズ。おまえは、何か誤解してるだろう?)
(そんな事無いわよ。私はカイエの事を……誰よりも理解してるから)
そんなことを言っても――褐色の瞳に感情など一切なくて。極寒の視線が、カイエとイーグレットを射抜く。
(ねえ、カイケル……あなたがイーグレットを、しっかり抱きしめていれば。こんな事には……ならない筈よね?)
流れ弾が……老将軍を撃墜する。史上最強の乙女である勇者ローズに――他の誰が、文句を入れる筈もないのだが……
「え……カイエ。どうして……」
いきなりお姫様抱っこされて――ローズは真っ赤になる。
「ローズ、おまえさあ……俺にとって、おまえが一番の特別だって。忘れているみたいだから――思い出させてやろうって思ったんだよ」
抱き抱えるローズに……優しく口づけして、抱き寄せるカイエに――ローズも感極まったように涙を零しながら抱きつく。
「カイエ……カイエ……カイエ、カイエ、カイエ……愛してる!」
「それくらい、俺も解ってるからさ……とりあえず黙れよ……」
互いを激しく求め合う二人に――自分たちは何をしてるのかと、他の全員が気づくが。
(それは、良いんですけど……カイエ様に、ローズさん? ロザリーちゃんのことを……完全に忘れてるのよ!)
涙目のロザリーが……恨みがましく二人を見るが――
そんな視線も今のカイエとローズは……眼中になかった。
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