第205話 ターニングポイント(ローズ視点)
バルキリア大公一家とのお喋り(?)を終えた私たちは、今回チザンティン帝国が侵攻の言い訳にした魔族の氏族の元を訪れる事になった。
バルキリア公国と彼らの氏族は、これまでお互い不可侵という立場を取っていたみたいだけど。カイエがグイグイ踏み込んで行ったら――いつの間にか、互いに使者を送り合うという事になっていた。
ホント、カイエはいつも強引に話を進めるけど……本当はそうじゃないって、私は知っている。
敵以外には、カイエは絶対に
「しかし……我々が魔族と交流を始めたら。チザンティン帝国が再び侵攻する理由を与える事にならないだろうか……」
バルキリア大公は心配していたけと――
「チザンティンは俺が黙らせるから、気にするなよ。そんな事をしたら、どうなるか……奴らには、俺が徹底的に教えてやるからさ」
カイエが悪い顔をするから、バルキリア大公は怖がってたけど。結局、魔族との交流は進められる事になった。
カイエは、いつもそうだ――失われた都市アウグスビーナで出会ったときから。私に出来ない事を、簡単にやってしまう。
勇者の私は……世界中のみんなのために頑張らなくちゃって思って来たけど。カイエと一緒にいると、『おまえ一人で頑張る必要なんて無いから』って言われてるみたいで……物凄く安心する。
こんな事をいうと、カイエが強いからだって誤解されるかも知れないけど……そんな事無い。もし仮に、私より弱かったとしても……カイエは私を助けてくれる。
それは絶対に間違いないって――断言出来た。
その日の夜、黒鉄の塔に戻って。みんなと食事をしていると――アリスが耳元で囁いて来る。
「ねえ、ローズ……今日もカイエと随分楽しんだみたいね? ハッキリ言うけど……物凄く羨ましいわよ」
昼間の出来事を、なんでアリスが知っているのか……ロザリーを見ると、彼女はガタガタと震えていた。
「ロ、ローズさん、誤解ですの! ロザリーちゃんは……」
「うん、解ってるわよ。ロザリーは喋ったんじゃなくて、顔に出ちゃたんでしょ?」
うちの可愛い
「はい、そうですの……ローズさん、ごめんなさい……」
「良いのよ、ロザリー。アリスたちに隠し事なんて出来る筈ないし。そもそも隠すつもりなんて無いから。うん、アリス……今日も私はいっぱい甘えたから。みんなも……カイエに甘えて!」
アリスもエストもエマも、ロザリーもメリッサも……大切な仲間で。みんなカイエが好きだって、解っているから……私一人で独占するつもりんて無い。
たって、みんなといる事が……私の幸せだから。みんなにも絶対に、幸せになって貰いたい。
カイエなら、私たちみんなを幸せにする事くらい……出来るわよね?
それから、みんなでお風呂に入って――色々と凄い事になったけど。みんな恥ずかしがりながら、嬉しそうだった。
だから、私としては満足だったけど……
「何だよローズ、こんな時間に……」
みんなが寝静まった真夜中に――私はカイエの部屋を訪れた。
いつもなら、みんなが乱入して来るだけど……今日は私がお願いして、二人きりにさせて貰った。
「ねえ、カイエ……話があるの。少しだけ……付き合って貰える?」
少し
「そんなの当たり前だろ。おまえとなら何時間だって、一緒にいるよ」
「カイエ……大好き!」
優しい笑みで応えてくれるカイエの胸に……私は飛び込んだ。
「あのね、こんなことを言うと……面倒臭い女だって、カイエは思うかも知れないけど」
このとき私は――真っ赤になっていたと思う。精一杯の勇気を振り絞って……私は言った。
「私はカイエに一生懸命アピールして……好きだよって気持ちを伝えてるつもり。カイエも解ってくれるって思ってるけど……ど、どうして……わ、私を……抱いてくれないの?」
イチャイチャしたり、一緒にお風呂に入ったり、キスをしたり、抱き締めてくれたり……私の想いにカイエは応えてくれるけど。―絶対に一戦は越えなかった。
「ずっと昔から生きてるカイエから見たら、私が子供だから? 確かに、魅力が足りないのかも知れないけど――」
私の言葉を――カイエは強引に唇を塞いで止める。
絡まる舌に……私は酔いしれた。
「そんな事無いって……ローズは物凄く魅力的だから。だけどさ……」
このときカイエは……めずらしく
見た目は本当に華奢で、背だって私より少しだけ高いくらいで。そんな顔をすると……何だか凄く、可愛く見える。
「ホント……仮の話だからな? 俺が妄想野郎とか、絶対に思わないでくれよ?」
言い訳っぽい台詞も、愛おしく思えて……私はカイエをじっと見つめた。
「そんな事……思わないよ」
今度は私から唇を重ねて……カイエを抱き締める。
カイエも抱き締めてくれて……お互いの体温を感じながら。彼は耳元で囁いた。
「おまえを抱いて……もし子供が出来たら。その子にも、俺と同じ
カイエが何を言いたいのか……私にも、すぐに解った。
彼は大切な人々を失いながら――千年以上も生きる事を強いられてきたのだ。
「ごめん……カイエの寂しさとか悔しさとか。私には理解できないかも知れないけど……」
私はもう一度カイエを抱き締めて……想いを伝えようとする。
「私は、ずっとカイエの隣にいるよ。嫌だって言っても、絶対に放さないから。もし私がお婆さんになって、カイエより先に死んじゃったとしても。魂だけは絶対に……カイエから離れないから」
私の言葉に応えるように……カイエが私を抱き締める腕に、力を込める。ああ……やっぱりカイエは解ってくれるんだ。
私はニッコリ笑って、彼を見つめる。
「生まれて来る子供にも……絶対に悲しい思いなんてさせないから。カイエと私と、そしてみんなと……ずっと一緒にいるの。だから……もう一人で、心配しないで……」
「ああ、俺が馬鹿だった。ローズは殺しても死ななそうだし……」
少し意地悪な感じで、カイエは笑うと――
「もう俺も迷わないよ……ローズ、俺もおまえを愛してる。どんな事があったって。おまえを絶対に放してなんか、やらないから……覚悟しておけよ」
そして私とカイエは……一つになった。
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