第174話 乱入者


 それから二日ほど掛けて、カイエたちは――ガルナッシュ全土で、呪術結晶を回収して回った。


 実は精密画写真を取った時点で、呪術結晶の隠し場所も粗方探しておいたから。カイエたちが手分けして行動すれば、回収自体は簡単だった。

 それでも呪術結晶を全て回収できたとは思えないが。数が少なければ、そこまで脅威ではなかった。


 各氏族の首謀者たちに脅しを掛ける方は、ジャスティンとブラッドルフに任せたが。彼らだけでは手が足りないので、ジャスティンは十大氏族会議を緊急収集して、アロウナ以外の氏族長クランマスターに、協力を求める事にしたのだ。


「他の十大氏族を巻き込むは正解だな。危機感も責任も共有しておかないと、メルヴィンとロズニアだけが孤立させられる可能性があるし。今後の問題を解決するにも、奴らの協力が必要だからな」


 諜報部門を強化するためには、メルヴィンにしろロズニアにしろ人材不足だ。他の氏族からも人材を集めるには、十大氏族の合意が不可欠だろう。


 そして情報局の方はと言うと――奴らの拠点に潜入して、呪術結晶の在庫を押収したくらいで。今のところは、予定通りに泳がせている。


「次の手としては……彼らの動きから、背後にいる奴を洗い出す事と。次に呪術結晶を密輸する現場を押さえて、輸送船を破壊するくらいかな」


 黒鉄の塔の大浴場で――カイエは一人、風呂に入っていた。

 とりあえず、今やれることは片づけたし。情報収集についてはアリスの組織が機能しているから。そろそろ平常モードに戻って良い頃合いだろう。


闘技場コロシアムの試合には継続的に出るとして。そろそろ第一都市ウィザレスに軸足を移しても良いかな。地方氏族の話も聞きたいから、ガルナッシュ中をゆっくり周ってみるのも悪く無いか」


 調査というレベルでは、すでにガルナッシュ全土を訪れてはいたが。

 そこに住んでいる魔族たちの本音や考え方などは、まだまだ全然掴めていない。


「ウィザレスは奇麗な街だったから……私としては、あそこに暫く住んでみたいわね」


 浴室に響いた突然の声にも――カイエは驚かなかった。


「アリス……おまえは、先に風呂に入っただろう?」


「あら……ちょっと動いて汗を掻いたから、もう一度入りたくなったのよ」


 湯煙の中に現れたアリスは――一切何も隠すことなく。スレンダーな肢体を、堂々と全裸を晒していた。


 彼女がシャワーを浴びていると、


「あ……やっぱり、抜け駆けして。アリスが考える事くらい解るわよ」


「そ、そうだな……呪術結晶の回収は私たちも手伝ったんだから。アリスの主役モードは終わりで良いだろう」


 ローズとエストが一緒に入って来たが――自然な感じで全裸を晒すロースに対して。隠れ巨乳のエストは、カイエの視線を感じで真っ赤になっていた。


「わ、私も……あ、汗を掻いたから……」


 最後の方は消え入るような感じで、ほとんど聞き取れなかったが。


「おまえら……まあ、良いけどさ。風呂に入っているときくらい、一人でゆっくりさせてくれよ」


 このシチュエーションで――恥ずかしがって目を背けたりなど一切せずに、何食わぬ顔で彼女たちの全裸を見るのがカイエという男だった。


「なんだ。カイエが良いって言うなら、私も入ろうっと!」


 小麦色の我がままボディで乱入してきたのは、当然エマで。湯船に飛び込もうとしたところを――


「エマ! あんたは本当に・・・汗だくなんだから。先にシャワーを浴びなさいよ」


 アリスに冷静に突っ込まれて、


「はーい……こういうときのアリスって、なんかお母さんみたいだね」


 エマは渋々という感じで、シャワーを浴びる事にする。


「それにしても……カイエ、あんたねえ。無反応なのは、さすがに失礼じゃない?」


 先にシャワーを終えたアリスが、挑発するようにわざと至近距離から湯船に浸かる。

 そして用意して来た二人分のグラスに、冷えた白ワインを注ぐと、


「カイエは、口移しの方が良いかしら?」


「ああ、それも悪く無いけどさ……冷たい方を貰うよ」


 もう一つのグラスを手にして、中身を一気に飲み干す。


「ちょっと、アリス……さすがに、やり過ぎだと思うけど?」


「そ、そうだな……カイエだって、困っているだろう?」


 カイエと密着度が高い二人が次に入って来て――ローズは当然という感じで、エストは沸騰しそうになりながらも、一糸纏わぬ姿のまま身体をピタリと寄せる。


「あら、ローズが良く言うわね……カイエだって、困ってなんかないわよね?」


 二人に両サイドを抑えられたりので、アリスは正面から迫る。


「あ、みんなズルいよ……カイエ、ちょっとズレてよ。私も入るから!」


 背中は私のモノだと、エマまで密着して来た。


「あのさあ……せっかく広い風呂なんだから。密着なんてしないで、もっとゆったりと使えよな」


 そうは言っても、満更でもない感じで。カイエは優し気な笑みを浮かべて、邪険なことはしなかった。


「この状況で……その台詞を言う? 私たちって、そんなに魅力が無いの?」


 アリスは不満そうだったが――


「そんなことないって。アリス……ローズも、エストも、エマも。おまえたちは……俺にとって物凄く魅力的だって」


 真顔で言うカイエに――四人は撃沈される。


「「「「カイエ……」」」」


 さらに密着度が高まって……色々なところが触れて、このままでは色々と不味い事になりそうな状況だったが……


(ぼ、僕は……どうすれば……)


 このときメリッサは――脱衣室でバスタオルにくるまって、五人の会話を盗み聞きしていた。


 いや、彼女の名誉のためにきちんと説明すると。自分も一緒に入ろうと来てみたものの、最後の勇気が出ずに一人右往左往していたところに、中から声が聞こえて来たのだ。


 しかし、当然ながら、カイエはメリッサに気づいていない訳が無く。


「おい、メリッサ……おまえも入って来るのか来ないのか、そろそろ決めろよな?」


(キャー! 嘘、バレてる!!!)


 メリッサは思わず大声が出そうなのを、必死に口を押えて我慢するが……

 中の四人はと言うと、そんな事には一切動じることなく――カイエの事だけに集中していた。


「おまえも……ホント、懲りない奴かしら。とくかく今は、撤退するのよ」


 メリッサを引きずって、ロザリーは脱衣室を出て行くが……どうして彼女がそこにいたのか。後になってからメリッサは疑問に思うのだが……


 結局のところ。浴室で全裸の五人が、その後どうなったのか――勿論、知っているのは残念ながら(?)彼らだけだった。


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