第175話 再会


 結局カイエたちは、活動の拠点をウィザレスに移したのだが――その理由は、メリッサと無関係ではなかった。


「お父様は……カロリーナ・シュテッセフとの関係について、お母様に説明する義務がありますよね?」


 情報局との密会写真によって、すでにカロリーナは失脚していたが。それとこれとは、全く別の問題だった。


「ジャスティン……貴方とカロリーナの関係を、正直に話して貰えるかしら?」


 メリッサの母親であるステファニー・メルヴィンは金髪に灰色の瞳の魔族で――メリッサの髪と瞳の色は父親の遺伝だったが。その顔立ちは、さすがは母娘という感じで良く似ていた。


「い、いや、ステファニー……彼らのいる前でか?」


 ジャスティンの居城に、カイエたちも招かれており――その仕掛け人は、メリッサとカスタロトだった。


「ええ、貴方……何か不都合でも?」


 冷たく言い放つ妻に。こともあろか、身内から援護射撃が加わる。


「ジャスティンよ……女遊びをするなとは言わぬが。メルヴィンの氏族長クランマスターとして、見苦しい言い訳だけはするでない。自分のやった事の責任は、メルヴィンの誇りに掛けて取るべきだな」


 などと言っているカスタロトも、若い頃は散々浮名を流していたので……それを知っているジャスティンは、自分の父親を苦々しく思っていたが。


 それを暴露したところで、その息子である自分にはデメリットにしかならない事が解っていたから――彼は黙って、カイエたちの前で妻に対して土下座する。


「ステファニー……済まなかった。すべては……私の過ちだと、謝罪しよう」


 その後ジャスティンが、どのような運命を辿ったのかは定かではないが……翌日、彼の顔に生々しい爪痕があったことは、メルヴィンの重大ニュースとして、暫く語られることになった。


※ ※ ※ ※


 それから、さらに二週間ほど経過して――ジャスティンとブラッドルフと、他の十氏族の氏族長クランマスターの面々は、情報局と関係していた者たちを粗方呼び寄せて、クーデターの芽を潰し終えていた。


 その間にカイエたちは、情報局の密輸の現場を押さえて。彼らから呪術結晶を全て押収し、密輸船を完膚なきまでに破壊していた。


 しかし、情報局を操っている本命は、いまだに尻尾を見せず。その人物が実在する証拠として、カイエたちが警戒していたのとは別のルートで、呪術結晶がガルナッシュの裏市場に流れていた。


「結局、別ルートの呪術結晶も、ほとんど回収出来たけどさ……これって、向こうも回収されると解った上で、流したって事だよな?」


「ええ……十中八九、そういうことね。ムカつくけど……情報局にも、使える奴がいるって事だわ」


 回収した呪術結晶を持って、ジャスティンの居城にやってきたカイエとアリスは。嫌そうな顔で、そんな話をする。


「カイエ殿、アリス殿……何か問題が発生したのですが?」


 ジャスティンの言葉に――二人は顔を見合わせて、苦笑した。


「いや……問題って言ったら問題だけど。大した事ないって、言えなくも無いかな?」


 現実問題として、情報局を裏で操っていると思われる相手は――冗談のように解りやすい形で存在感を示したくらいで、実害は出ていない。


 だからと言って、見過ごすつもりは無いが……カイエたちとて、万能ではないから。

 本気で身を隠すことに徹底した相手が、それなりの切れ者だったら。見つけ出すのは、簡単ではなかった。


「まあ、こういう奴が……本気で動き始めたら、それなりに厄介なんだけどさ。その前に情報局の行動原理を、根本的にぶち壊す方法があるだよ」


 揶揄からかうようなカイエの視線の先で――ジャスティンは目をパチクリさせる。


「本当ですか……カイエ殿! 本当に、そのような方法があるのなら……是非とも教えて貰いたい!」


「なるほどね……だけどさ、本人の承諾は貰ってないんだけど。おまえが責任持つって言うなら……俺から頼んでも良いけど?」


 ジャスティンなら――当然、この条件を受け入れると解っていたから。カイエは確信犯として、持ちかけた訳だが。


「ええ……カイエ殿。是非ともお願いします!」


 カロリーナの件では、散々痛い目にあったというのに。チョロ過ぎるジャスティンに――カイエは少しだけ罪悪感を覚える。


「ああ、解ったよ……ジャスティン。とりあえず、交渉してみるからさ」


「カイエ、あんたって……(ホント、ひどい男よね?)」


 まるでジャスティンなど存在しないかのように――耳を甘噛みしてくるアリスに、カイエは苦笑するしかなかった。


※ ※ ※ ※


 そして、翌日――カイエたちは、人族の自由都市レガルタにいた。


 様々な種族が……魔族すら差別されながらも通りを歩く街の中心街の外れに。彼らの友人が住む『決して屋敷とは言えない』集合住宅はあった。


「まあ……皆さん! お久しぶりですね!」


 ノックの音に、自ら扉を開けたイルマ・ヘルドマイアは、あっけらかんと笑うが……


「どうした、お嬢……てめえ、カイエじゃねえか! いったい、何の用があって来たんだよ!」


 敵意剥き出しに睨みつけて来るガゼルに――


「「「「あ……ガゼルだ!」」」」


 ローズたち四人は、懐かしさを覚えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る