第150話 闘技場第一戦



 という事で、闘技場コロシアム第一戦――


「最初に登場するのは……闘技場コロシアム最強にして、無敗の戦姫――メリッサ・メルヴィ-ン!!!」


 闘士グラジエータランキング第一位であるメリッサの登場に、観客たちは湧き上がる。


 黒光りするルーン文字が刻まれたハーフプレートと、宝石が埋め込まれたバスタードソード――上位者であるほど高性能な装備することができる闘技場コロシアム規定レギュレーションは、強者に優しく、弱者には厳しい。


「それでは……無謀なる小さな挑戦者を紹介しよう。ロザリー・シャルロット……戦姫の生贄の登場だ!」


 しかし――当事者一人であるロザリーにとっては、そんなモノは全く関係なかった。


「君は……本気で僕と、戦うつもりなんだよね? だけど……そんな小さな身体で勝ち残れるほど、闘技場コロシアムは甘くないよ」


 全身から膨大な魔力を放ち続けるメリッサを――ロザリーのガラス玉のような幼い瞳が嘲笑う。


闘技場コロシアム規定レギュレーションは、全部確認したのよ。召喚士(サモナー)が召喚する怪物モンスターに、制約は何もないわ」


「ああ、その通りだが……君みたいな子供が召喚できる怪物モンスターなどが、僕を傷つけられる筈もない。申し訳ないけど……すぐに終わらせるから」


 メリッサはロザリーを馬鹿にしているのではなく、むしろ、敬意を払って全力で戦おうとしていた。

 しかし……彼女の常識の範囲では、『ダンジョンマスター』ロザリーの実力を把握する事など出来なかった。


「カイエ様から、せっかく許可を貰ったんですから……ロザリーちゃんは、全力で戦わせて貰うのよ。我が……下僕たる最強の怪物モンスターよ! この魔族の小娘に、鉄槌を食らわせるのよ!」


 ロザリーの召喚魔法によって、地下迷宮ダンジョンから呼び出されたのは――蝙蝠のような羽を持つ金色の巨大な骸骨。その頭上には……光の輪が浮かんでいた。


 天使と悪魔とアンデット――全て偽物フェイクだが、本物を超える三つの力の長所だけを集めた最強の怪物モンスター

 究極のアルティメット創造と破壊の化身リクリエイター(改)――かつてカイエを倒すために召喚した怪物モンスターは、さらに進化していた。


 通称『ロザリーちゃんのラブリーラビット』は――その名に全く似合っていない禍々しいも巨体な体躯で、闘技場コロシアムの中央に聳え立つ。


「これは……幻影ではないんだね? 凄く強そうな怪物モンスターだけど……本当に見た目ほど強ければ良いんだけどね!」


 魔力によって相手の実力を測る事ができないメリッサは――自分が負ける事など全く考えていない自信たっぷりな態度で、『ラブリーラビット』に対峙する。


「カイエ様……一応、確認しますけど。ロザリーちゃんは、この馬鹿な小娘を、本当に成敗してしまって良いんですよね?」


「ああ、当然だな……ロザリー、全力で叩き潰してやれ。だけど……間違っても殺すなよ?」


 カイエの面白がるような視線に――ロザリーは邪悪な笑みを浮かべる。


「了解したのよ、カイエ様……魔族の小娘、己の愚かさを思い知るが良いのよ!」


 『ラブリーラビット』の金色の巨大な拳が――無慈悲にメリッサへと振り下ろされる。


 その圧倒的で絶対的で絶望的な一撃に、メリッサは避ける間もなく圧し潰される……


「――エスト」


「ああ、解っている……再生リザレクション!」


 次の瞬間――


「こ、これは……どういう事なんだ?」


 メリッサは無傷で、闘技場の中央に立っていたが――


「勝者は……ロザリー・シャルロット! 無敗の戦姫であるメリッサ・メルヴィンが……我々の前で……初めて破れました……」


 途切れ途切れに聞こえる実況コメントに――メリッサは自分が敗北したことを実感する。


「まさか……この僕が負けるなんて……」


 愕然として自分の掌を見つめるメリッサに――


「別に、おまえが悪い訳じゃないけどさ……これが現実で、まだ戦いは始まったばかりだからな?」


 カイエは意地の悪い笑みを浮かべる。


「そうだな、カイエ……メリッサ・メルヴィン。次の相手は私だ――『完全戦士化パーフェクトファイター!』」


 失われた魔法ロストマジックの詠唱によって、エストの全身が鈍色に輝き――現われたのは、身長四メートルを超えるゴーレムのような姿で……その顔の部分で、金髪碧眼のエストが、冷ややかな笑みを浮かべる。


「戦士としての技術……そのようなものを学ぶ機会は無かったからな。力づくで申し訳ないが――メリッサ。魔法ではなく、物理攻撃で君と対峙しようか!」


 カイエから教わった失われた魔法ロストマジックが――今のエストにとっては、最高のプライドだった。


 続く――


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