第130話 本音は……
エリザベスとフレッドの率いる聖騎士団が、タリオ村へと急いでいると――村に程近い平原で、カイエたちが待ち構えていた。
完全武装の勇者パーティーは否が応にも目立ちまくっており……エリザベスは一キロ以上手前から、彼らの存在に気づいていた。
「よう、エリザベスさん……また会ったな」
そんな勇者パーティーの面々に囲まれながら、それでもカイエが一番目立っている。
少なくともエリザベスは、そう思っていた。
「エマを勝手に連れ出した件については、後で徹底的に追及させて貰うけれど――私たちを待ち構えていたという事は、魔族の件は全部片付いたと考えて良いのよね?」
彼女の問い掛けに、カイエは惚けた感じで応える。
「まあ、片付けた事は間違いないけど……エリザベスさんが想像してるのとは、たぶん違うやり方だと思うよ」
「……どういう意味よ?」
「まあ、今から説明するよ……俺たちは魔族と交渉して、とりあえず今回の侵攻は諦めさせた。だけど、奴らも色々と問題を抱えていたこらさ、少しは協力してやって、今後の争いの種を潰しておこうと思うんだよ」
そう言ってカイエは、面白がるように笑った。
「魔族に協力するって……何か取引をしたということ?」
「いや、これから交渉をするって話で……交渉相手は、エリザベスさんだよ」
エリザベスは訝しそうな顔をする。
「意味が解らないわ……もっと単刀直入に言って貰えるかしら?」
「ああ、悪ったよ……具体的な話は、当人同士で進めた方が良いと思ったんだよ。エリザベスさんには、魔族との交渉の席に立って貰たいんだ」
「それは……相手の出方次第ね。魔族が潜伏している辺境まで、こちらから出向くのはリスクが大きいけど。武装した魔族の集団を領内に入れるのは論外だわ。そうね……指揮官クラスが単独か、最低限の護衛だけ連れて来るなら、話くらい聞いても構わないわね」
そんな不利な条件を相手が飲む筈がないと、エリザベスは考えていたのだが――
「なるほどね……エマから色々教えて貰ったからさ。エリザベスさんなら、そう言うと思っていたよ」
このときカイエは――相手を罠に嵌めた悪人のような顔をした。
「全部お膳立てはしたけど……言っておくけど。いきなり切り掛かるとかは、無しだからな?」
カイエが
その瞬間……エリザベスは聖剣ヴェルカシェルを抜き放って、魔族に躍り掛かった。
「だからさ……そういうのは止めてくれって言ったよな?」
カイエは漆黒の剣で、銀色の聖剣を受け止める。
「……退きなさい、カイエ・ラクシエル! そこにいる魔族は、余りにも危険な存在なのよ!」
ゼグランを見据えて、エリザベスは目を細める――魔将である彼が放つ強大な魔力に、エリザベスは戦慄を覚えていたのだ。
一触即発の空気……しかし、カイエは敢えて無視する。
「エリザベスさんの言いたい事は解るけど……そんなに警戒する必要なんて無いから。こいつらは一切手出ししないって俺が保証するから、とりあえず剣を収めてくれよ?」
何食わぬ顔で言うが、エリザベスは全く納得していなかったが――
「もう……お母さんは、いつも勝手に決めつけるんだから! 少しは周りの空気を読んでよね!」
エマがジト目で見ている事に気がついて、冷静になる。
確かに二人の魔族は、敵意を見せていなかった。
「……解ったわ。とりあえず、話だけでも聞くわよ」
エリザベスは渋々という感じで聖剣を鞘に納めるが――フレッドは最初から、そして今も彼女を咄嗟に庇うことができる位置に、さりげなく陣取っていた。
(まあ……こういうやり方なら、ありかな?)
カイエは敢えて
「……お父さんも、そういうの止めてよね!」
エマに思いきり突っ込まれて――バツが悪そうに引き下がる。
「それじゃ……外で話をするってのも何だし。話してる内容が駄々洩れだから――俺が適当な場所を用意してやるよ」
そう言ってカイエは――混沌の空間を展開して、黒鉄の塔を出現させる。
「「「……えええ!!!」」」
混沌の渦から降り立つ塔に、聖騎士たちが……エリザベスが、フレッドが、そしてゼグランとサウジスが驚愕に言葉を失う中――
(ねえ、カイエ? 私たちの大切な
小声で囁きながらローズは、何故か不機嫌だった。
(ああ、そうだな……私たちの特別な場所なんだから。ああ……済まない。エマのご両親に文句を言いたい訳じゃ……)
(良いよ、エスト。別に気にしてないから! だって、私だって……)
(そうよね。みんなの気持ちは解るわよ……悪いのは、カイエだからね!)
エストが、エマが、アリスがジト目を向けて来るが――
「えっと……どういうことだよ? エレノアねえさんも、アルジャルスも……ジャグリーンだって入れただろう?」
彼女たちが何を言いたいのか、本当はカイエも解っていたのだが――そんなことを認めてしまえば、後で面倒になるからと。気づかない振りで、押し通すことにした。
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