第123話 試練
それから二日間、ロザリーは真剣に魔族の調査を行ったが――カイエたち六人は特にやることも無く、思い思いに過ごしていた。
日課である鍛錬は欠かさなかったが、さすがに本気の模擬戦となると城塞内でやれば施設を壊してしまうので、時間を持て余したローズたちは、当然のようにカイエと密着する。
エマも昼間はカイエたちの部屋に入り浸っていたが、夜になると家族の元に戻っていたので、エリザベスも文句を言わなかった。
もっとも、この状況をエリザベスが見たら……また一悶着あっただろうが。
試練の準備に忙しいのか、彼女が干渉してくることは無かった。
そして二日が経ち……カイエは一人だけエリザベスに呼び出されて、試練を受ける事になった。
聖人たちの墳墓はグランバルトの墓地の一角にある神殿のような建物だが、その地下には、広大な空間な空間が広がっていた。
そして、カイエが墳墓に足を踏み入れるなり――
「ふーん……こいつが、試練ねえ?」
いきなり百人近い聖騎士に取り囲まれた。
しかも、単なる数の話ではなく――聖騎士たちは濃密な殺気を放っていた。
「こんなガキが……どうしてエマ様は、こんなやつを選んだんだ?」
「俺たちのエマ様を誑かしやがって……」
聖騎士団長の一人娘である上に、健康的美少女のエマがモテない筈はなかったが。
私情に塗れまくった聖騎士たちに『これじゃ試練じゃなくて、
「まあ……この際、どうでも良いけど。もう面倒だから、全員纏めて掛かって来いよ?」
カイエの面倒くさそうな態度が、聖騎士たちの怒りの炎に油を注ぐ。
「「「「「貴様……絶対に許さん!」」」」」
一斉に襲い掛かってくる聖騎士たちに――カイエはいつもの漆黒の剣ではなく、何の変鉄もない
「そんな細い剣で……舐めるな!」
最初の騎士が力任せに大剣を叩き込んでくるが――カイエは一突きで、大剣を根元からへし折る。
「な……」
何が起きたのか、訳が解らないという顔の相手を放置して、カイエは次に飛び込んで来た騎士の戦斧を粉砕し、隣の騎士の槍を真っ二つにする。
カイエが動く度に、聖騎士たちの武器は――次々と破壊されていった。
「一応言っておくけど……俺は魔法を使ってないし、力づくって訳でもないからな?」
今回の試練において――カイエは全ての魔法を封印していた。
相手はエマの身内であり、間違っても殺す訳にはいかないからだ。
さらには、後でチートだとか文句を言われないように、瞬間移動も、人ではあり得ないレベルの身体能力も封印し――
細身の剣一本で、ゴツい武器を壊すなど普通は不可能だが――カイエの超絶的な技術が、それを可能したのだ。
一ミリどころか一ミクロンのズレもない正確無比な突きが、ピンポイントで力を伝えて金属すら破壊する。
カイエが力づくで破壊していない事は、聖騎士たちも直ぐに理解した。
武器が壊れたというのに、自分たちは撥ね飛ばされる訳でもなく、一切ダメージも負っていないからだ。
全員が武器を失ったとき――呆然としている聖騎士たちの中から声が上がる。
「貴様……やはり、魔法を使ったのだろう! 汚い真似を……」
「おい、よせ!」
罵声を浴びせようとした若い騎士を止めたのは――顎髭を生やした年長の騎士だった。
「おまえには……解らないのか? 魔法じゃない、実力が違い過ぎるんだよ!」
これ以上、恥の上塗りをするなと、年長の騎士は憮然と言うが――
精鋭揃いと言われる聖騎士たちの大半は、既にその事実を悟っており……武器だけでなく、精神までもへし折られた者も少なくなかった。
「おまえたちも……その人数でアッサリ負けるとか。あり得ないだろう」
「そうだな、後で母さん……いや、騎士団長に鍛え直して貰うんだな」
そう言って出て来たのは――エマの二人の兄、バーンとアレクだった。
二人は、同僚たちの武器が破壊された様子を目の当たりにしながら、平然とカイエの前で構える。
ちなみに二人の武器は、エマと同じく大剣だった。
「バーンにアレク……だったよな? おまえらは、腕に自信があるみたいだな」
「おい、俺たちの義弟になりたいんだろ? だったら、バーンお義兄(にい)さんと呼べよ」
「そうだぜ、カイエ君。その辺はきちんとしてくれよな」
二人のとんでも発言に――カイエはしれっと爽やかな笑みを返す。
「ああ、良いよ……それに相応しい実力がなあるならな」
そして一秒後――二人揃って大剣を粉砕されたバーンとアレクの姿があった。
「おまえら……さっきの自信は何だったんだよ?」
「いや、勝つつもりだったさ……大事な妹を奪われたくないからな」
「だけどさ……カイエ君。君のレベルが異常なんだって」
アッサリ敗北したというのに――バーンもアレクも、あっけらかんとしている。
ウェット感を感じないのは、エマの兄らしいとも言えるが……
「エマなら実力とか関係無しに、絶対に諦めないけどな」
カイエは呆れた顔をする。
「おまえらに比べたら……アイシャのところのクリスの方が、よっぽど根性があるよ」
特に何かを意図した訳ではなく、何気ない台詞だったが――
「ク、クリスだと……カイエは、彼女を知っているのか?」
「まさか……カイエ君から、彼女の名前を聞くなんて!」
バーンとアレクは、どういう訳か頬を赤くして、照れ臭そうな顔をする。
こんなところに、別のフラグが立っているなんて――まあ、別に全然興味なんて無いけどさと、カイエは思っていた。
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