第122話 翌朝


「聖人たちの墳墓にはね、歴代の聖騎士団長や、立派な功績を上げた聖騎士たちのお墓があるんだけど。私たち聖騎士にとっては、試練を受ける場所でもあるんだよ」


 翌朝、朝食の席で、エマが仲間たちに説明する。


「だけど、墳墓は地下迷宮ダンジョンじゃないから……試練を用意するのは、聖騎士団の皆だけどね」


 エマは笑顔で、試練の内情をいきなり暴露する――




 昨夜の騒動の後という事もあってか、朝食はエマの家族と一緒ではなく、カイエたちが泊った客室まで運ばれて来た。


 勇者パーティー他の女性陣に宛がわれたのは、キッチンこそないが来賓用のコンドミニアム型で、カイエだけ男と言うことで、別室を用意されたが――彼らが何処で寝たのかは想像にお任せする。


「エリザベスさんも、意外とアッサリしてるんだな? 試練が終わるまで、俺はエマに会えないかと思ってたよ」


 昨夜の別れ際に、エリザベスが『あなたが誠意を証明するまで、エマとの事は絶対に許しませんからね!』と宣言して、エマを連れて行ってしまったので……そういう流れかと、カイエは思っていたのだが。


「お母さんは、そのつもりだったみたいだけど。私が『カイエに会うこともできないなら、今すぐ駆け落ちするからね!』って脅したら、普通に会うことを許してくれたよ」


 あっけらかんとエマは笑うが――つまりは、ゴリ押ししたという事だ。

 

 カイエに宣言した手前、エリザベスも折れたくは無かっただろうが。愛娘の強引な手口を前に、許す他は無かったのだろう。

 カイエはエリザベスのバツの悪い顔を想像して――少し気の毒に思う。


「おまえさあ……どうせ数日の事なんだし。少しはエリザベスさんの顔を立ててやれよな」


「えー! カイエと会えないなんて、一日だって嫌だよ。元々、お母さんの方が強引なんだからさ。少しくらい困らせたって構わないよ」


 エマは末っ子の気楽さで言うが――


「ふーん……エマはカイエに会えないことだけが寂しくて。私たちのことは、どうでも良いんだ?」


 ジト目で見ているローズに、エマは『しまった!』という顔をする。


「そ、そんなこと…無いに決まってるでしょ? 私は、みんなと一緒にいたいんだから!」


「そんな事を言っても……昨夜は、完全に抜け駆けしたけどな」


 エストの極寒の目には――まるでモノを見ているように感情がなかった。


「あら、私は別に構わないわよ。だって……エマには後で、キッチリ代償を払って貰うから」


 アリスはニッコリと笑っていたが――黒い瞳の奥には、魑魅魍魎が跋扈ばっこしている。


 勇者パーティーの三人の姉の視線に、エマの背筋が凍り付く。


「おまえら……そんなにエマをイジメるなよ。こいつが悪いって訳じゃないんだからさ?」


 カイエはしれっとエマを庇うが――


(((……加害者のカイエが、それを言う???)))


 ジト目を向けて来る三人に――それでもカイエは何食わぬ顔で、堂々と言い放つ。


「何度も言わせるなよ。おまえたち四人は、俺にとって特別なんだって――だからさ、俺がエマを守るのも当然だろう?」


 確信犯の漆黒の瞳に――ローズたちは、仕方ないわねと深く頷く。


「……っていう事で。エマについては、俺がどうにでもするからさ。もう一つの話題、魔族についてだけど……なあ、ロザリー。何か動きはあったのかよ?」


 突然話を振られても、ロザリーは動じなかった。


「この辺り一帯に、ロザリーちゃんの下僕たちを配備していますけど……今のところは、魔族と接触した形跡はありませんわ」


 しかし――本心は、真逆だった。


(こ、この人たちは……いったい、何なんですの???)


 エマに纏わるローズたちとカイエのやり取りに――正直に言えば、ロザリーは完全にビビっていた。


 笑顔で会話をしながら、一瞬で相手の首を切り落とすような殺意を放っている……ロザリーは本気で、そう感じていたのだが――


 圧倒的な実力を持つカイエたちにとって、それは仲間内のじゃれ合いに過ぎなかった。

 ロザリーが殺意と感じたのは、相手に向けた何気ないであり――そのくらい避けるよねと、互いに思っている。


「そうか……だったら、エマの件が片付くまで。魔族については、ロザリー、おまえに任せて良いよな?」


 そんなロザリーの思惑を見透かすように――カイエは意地の悪い笑みを浮かる。


「カイエ様、勿論ですわ……このロザリーちゃんに任せておけば、万事解決なのよ!」


 ロザリーの能力はカイエも把握しているから、任せておいて問題ないと思う。

 それでも、全幅の信頼というレヘルではないから――とりあえず、保険は撃っておいた。


「それで……エマ。俺の試練って、いつやるんだよ?」


「それは……お母さんから聞いたんだけど。二日後になるみたいだよ」


 準備機関を考えれば、順当というところか。


「じぁあ……二日後には、出発するからさ。それまでに……ロザリーは魔族の思惑を、しっかり掴んでおいてくれよ」


「「「「「「え……」」」」」」


 これまでの話の流れから逸脱した台詞――カイエはロザリーに、魔族の件を解決するに等しい要求をしたのだ。


「それって……カイエ様、どういう意味ですの?」


 ロザリーの問い掛けにも――カイエはしれっと、当然のように笑う。


「いや……ロザリーなら。全部一人で解決できるって……俺は期待してたんだけど?」


「あ、当り前ですわ……このロザリーちゃんが、全部サクッと解決してみせますわ!!!」


 勝ち誇るように笑うロザリーを――こいつって本当にチョロなよと、カイエは呆れた顔で眺めていた。


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