第109話 ダンジョンマスター
ギャロウグラスの迷宮が『
悪魔か天使かアンデッド――階層毎に出現する
ただし、下層に行けば行くほど出現する数が半端ではなくなるから、単独パーティーではなくレイドを組むなど、こちらも数を揃える必要がある。
――というのが、九十九階層までのギャロウグラスの迷宮の特徴だが……第百層目は、これまでの階層とは明らかに異なっていた。
「あ、今度は右から悪魔が来たよ。エスト、左のアンデットたちは私が倒すから、右はお願いね!」
薄明りに照らし出されるのは――これまでの複雑な迷宮とは異なり、地下に広がる平野とも言うべき広大な空間だった。
そんな只っ拾い場所に……数百体規模でアンデッドの軍勢が現れたかと思うと、今度は悪魔の群れが襲い掛かってくる。
「大して強くないけど……数だげどんどん増えて行くよね。まるで
新たに出現したのは――やはり数百体規模の天使たち。
幾ら中級クラス以下の
「なあ、エマ……そろそろ面倒臭いから、一気に全滅させても良いだろう? こんな奴らと戦うだけ、時間の無駄だと思うけど?」
エマとエストに任せると言った手前、カイエは結界を張ってローズとアリスと一緒に寛いでいたのだが。
いい加減に飽きて来たので、さっさと終わらせたくなった。
エストの広域攻撃魔法と、エマの超高速の斬撃があれば、あとは時間だけの問題だが――今日は、ずっと待っているだけで退屈だから、そろそろ勘弁して欲しい。
「うん……そうだね。大体攻撃パターンも解っちゃったし。これ以上戦い続けても、あんまり意味がないかな」
「ああ、そうだな……新しい魔法も粗方試すことができたし、私としても満足だよ」
「じゃあ、決まりだな……エスト、エマ。そいつらは放置して構わないから、俺の傍まで来てくれ」
「解った」
「解ったよ」
その言葉の通り――二人は敵にいきなり背を向けて、カイエの方に歩いていくが……襲い掛かっていた
単純に張るだけであれば、大した技術では無い防護壁を、ミリ単位で思い通りの形に一瞬で創り上げる事に、超絶技術を注ぎ込んでいる。
「さすがに、これは……私では真似できないな」
その技術の高さに、エストは感嘆の想いを口にするが――
「カイエの事だから、どうせ無駄な技術なんでしょ? そんなもの真似しなくて良いわよ」
アリスは呆れた顔をしながら、カイエの耳元に囁く。
「こういうテクニックは……カイエ、もっと違うことに使ってよね?」
「私は……こういう事をするカイエも、好きだけど」
ローズに背中からギュッと抱きつかれて――ホント、おまえら飽きないよなと、カイエは苦く笑う。
「えー! アリスとローズばっかり、狡くない?」
「あんたたちは別の事で楽しんだんだから……このくらい、役得でしょ?」
勝ち誇ようなアリスの笑みに、頬を膨らませるエマ。
全く緊張感のない光景に――まあ、良いんだけどさと……カイエは不敵に笑う。
「こういう無理なやり方は反則だろうけど……そっちも雑に数で押してきたんだから、文句は言わせないからな?」
そして、カイエが発動させたのは――混沌の魔力。
五人を包み込むように周囲に出現させた渦巻く魔力を、水平に膨張させて……階層の全てを飲み込んでいく。
漆黒の魔力が消えると――広大な空間には、何も残っていなかった。
「さてと……これで終わりだったら、呆気なさ過ぎるよな?」
揶揄うようにカイエが笑っていると……彼方から大音響の声が響く。
『あ、あんたねえ……何てことしてくたのよ!!! あたしの
「あのなあ……文句を言いたいなら、さっさと姿を現わせよ」
カイエは余裕で応えるが――他の四人は、全く別の事を考えていた。
『……絶対、嫌!!! あたしが姿を見せたら、今の魔力を使うつもりでしょ!!!」
「なら、別に隠れてても構わないけど。俺は
『ちょ、ま、待ちなさい!!! わ、解ったわよ……もう降参するから、攻撃しないって約束しなさい!!!』
「何で、命令口調なんだよ……まあ、良いか。弱い者いじめをするのは趣味じゃないし。解ったから、さっさと出て来いよ」
カイエが言うと――彼らの目の前に、忽然と光の球体が出現する。
「いや……防護壁も解除しろって。どうせ意味なんて無いんだから」
カイエのジト目に反応するように、光の球体は一瞬ブルリと震えたように見えたが……すぐに光は消失して、中から少女が現われる。
見た目の年齢は、十代前半というところか。翠色のポニーテールと、淡いピンクの唇。
ビスク・ドールを思わせる幼くも美しい顔で、円らな目が懇願するようにカイエを見つめるが――その瞳の奥に邪悪な光が宿っているのを、カイエは見逃さなかった。
「お願い、お兄さん……大人しくするから、乱暴にしないで」
少女が涙声で訴え掛けた瞬間――カイエが顔面に蹴りを入れる。
「いっ……痛いじゃない!!! もう攻撃しないって言ったでしょ、この嘘つき!!!」
「いや、今のはおまえが完全に悪いだろ……おまえさ、ここのダンジョンマスターだな? そういう気持ちの悪い真似はしなくて良いからさ。さっさとラスボスを出現させて、俺たちに攻略させろよ」
いつもとは少し違うカイエの態度は……どこか、焦っているようにも見えた。
「こんな幼気な少女に向かって気持ち悪いなんて、お兄さんひっどーい!!!」
甘い声で拗ねたように文句を言いながら……少女の邪悪な瞳は、カイエの背後を見ていた。
「おい……おまえ……」
「ねえ、カイエ……どうしたの? 何をそんなに慌てているのよ?」
耳元で囁くローズの声に――カイエは動きを止める。
「そうだな……さっきから、どうも様子がおかしいと思っていたんだ」
エストの冷ややかな声が響く――振り向かなくても、カイエには解った。四人がジト目で、自分を見ていることが……
「おまえら……勘違いするなよ? 俺は別に……」
「そうね……カイエが何もしなくたって、勝手にフラグが立つのよね?」
四人はニッコリと微笑むが――目は笑っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます