第110話 お仕置きと復讐


 こいつら、ヤバい……ヤバ過ぎるのよ!!!


 ずっと『遠見の鏡』で見てたけど――失われた魔法ロストマジックをバンバン使って、このロザリーちゃんの地下迷宮ダンジョンを、あっという間に蹂躙しちゃうとか。床を破壊して、階層を強引に突破するとか……マジであり得ないんだけど? 


 その上、この男が使った魔力――階層全部を一撃で破壊するとか、いったい何なのよ?あたしの可愛い下僕を、私の地下迷宮ダンジョンを滅茶苦茶にして……よくも、やってくれたわね!!!


 でも……さすがのあたしも、こんなヤバい奴らには絶対に勝てない。もう、諦めて降参するしかないと思ったけど……フフフッ、ようやく弱みを見つけたわ。


 所詮は――○欲だけで動く男ってことよね? 


 見てなさい……ロザリーちゃんの魅力で、あんたたちを引っ掻き回してあげるから!!!


※ ※ ※ ※


 四人から冷ややかな視線を向けられて、身動きが取れなくなったカイエを――ダンジョンマスターのロザリーが、円らな瞳に邪悪な光を宿しながら眺めていると……


「してやったとか……思ってるだろ? バレバレなんだよ」


 いつの間にかカイエは――意地の悪い笑みを浮かべていた。


「な、何を言ってるのかしら……あ、あたしには、ぜ、全然解らないわ!!!」


「へえー……まあ、どうでも良いけど。ほら、さっさとラスボスを出せって」


「わ、解ったわよ……」


 有無を言わせないカイエの迫力に――ロザリーは冷や汗を掻きながらも、彼らに見えないように邪悪な笑みを浮かべる。


(フン……見てなさい。ロザリーちゃん最強の下僕は、一人でなんか倒せないんだから!!!)


 ロザリーがパチンと指を鳴らすと――広大な地下空間に、禍々しい姿が出現した。


 蝙蝠のような羽を持つ金色の巨大な骸骨……その頭上には、光の輪が浮かんでいる。

 天使と悪魔とアンデット――全て偽物(フェイク)だが、本物を超える三つの力の長所だけを集めた最強の怪物モンスター究極のアルティメット創造と破壊の化身者リクリエイター――


 ――は出現したと同時に、二本の漆黒の剣で十字に分断される。


「え……うっそーん」


 怪物は消滅した証拠に、結晶体クリスタルだけを残した。


「こいつを回収する必要がなければ、剣を使うまでもなかったんだけどな」


 カイエは結晶体クリスタルを拾い上げると――ニッコリと笑う。


「さあ、用は済んだし……お仕置きタイムだな」


 そう言うなり、ロザリーの襟首を、むんずと掴んで吊り上げる。


「ちょ、ちょっと……何をするのよ、お兄さん!!! もう、ラスボスを倒したんだから、地下迷宮ダンジョンの攻略はお終いでしょ?」


「ああ……だから、ここからは俺の好きにさせて貰う。みんな、少しだけ待っていていくれよ。何度も言うけど……俺はロ○コンじゃないからな?」


 次の瞬間――カイエとロザリーは転移した。


 二人が移動した先は――ギャロウグラスの迷宮のさらに下の階層。ダンジョンマスターロザリー住処だった。


 煌びやかに飾り立てられた空間には、ロザリーの秘密――彼女が大好きなぬいぐるみの形をした偽物フェイクたちで溢れていた。


「こ、ここは……地下迷宮ダンジョンじゃなくて、あたしのお家だから」


 自分以外は誰も突破できない結界を張って、完璧に隠蔽した筈の場所に、いとも容易く踏み入られて、ロザリーは驚愕していたが――それ以上に、少女趣味の秘密を知られた羞恥心に、顔が真っ赤になる。


「ああ、解ってるよ……おまえらダンジョンマスターは、地下迷宮ダンジョンを管理するために、結構な魔力を与えられてるからな。暇に飽かして、趣味に走る奴が多いことくらい知ってるさ。おまえさ……なかなか面白い趣味をしてるじゃないか? これだけ作るのに、結構時間が掛かっただろう?」


 カイエの意地の悪い顔に――さらなる嫌な予感が、ロザリーの頭を過る。


「そ、そうだけど……まさか……」


「え、何だって……聞こえないな?」


 カイエはしれっと爽やかに笑うと――混沌の魔力で全てを飲み込んだ。


 何も無くなった空間に……ロザリーは崩れ落ちる。


「あ、あたしのお家が……み、みんなが……」


「まあ、この俺を揶揄からかったんだから、自業自得だな。ダンジョンマスター如きが俺に喧嘩を売るなんて、千年早いんだよ」


 ロザリーの目の前に立つと――カイエは身を屈めて、彼女の顔を覗き込む。


「お、お兄さんは……いったい何者なのよ? まさか、魔王とか……」


「おまえさ……俺を知らない時点で、人外のネットワークにすら加わってない小者だってバレバレだからな? まあ、そんな奴でも少しくらいは役に立つだろうから……」


 このときカイエは――情婦に語り掛けるヤクザのような笑みを浮かべた。


「取引きしてやるよ。おまえの住処を全部元通りにしてやるから、その代わりに……」


 カイエが語ねる言葉に……ロザリーは唖然としながら、コクコクと頷いた。




「みんな、待たせたな」


 戻って来たカイエとロザリーに……四人は、それぞれ複雑な表情を浮かべる。

 掛った時間は二十分ほどだが――明らかにロザリーの態度が変わっていた。


「みなさん、申し遅れました……私はロザリー・シャルロット、この地下迷宮のダンジョンマスターです。以後、お見知りおきを……」


 スカートの裾を摘まんで、優雅にポーズを取るロザリーは――まるで先ほどまでとは別人だった。


「「「「カイエ……いったい何をしたのよ?」」」」


 四人は唖然とするが……半分くらいは、想像がついていた。


「まあ、大したことじゃないさ。ロザリーにも現実って奴を、教えてやったんだよ」


 カイエは余裕の笑みを浮かべるが――その直後、自分が甘さを後悔することになる。


「ええ、そうですわ……色んなことを手取り足取り、たっぷりと教えて頂きました……だからロザリーちゃんは、カイエ様の従順な下僕になりました」


 瞳を潤ませながら、頬を染める少女の姿に――ツンドラのように冷たい四つの視線が、カイエに突き刺さる。


「いや、違うって……おい、ロザリー、おまえ……」


「嫌ですわ、カイエ様……さっきの約束は必ず守りますよ。ええ……あの熱い約束は、絶対に忘れませんわ」


 少女は唇に、小悪魔の笑みを浮かべた。


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