勇者（女）を魔神から救ったら一生放さないと抱きつかれた件（仮）

第70話 姉と弟の関係

「やあ、みなさん……私はエレノア・ラクシエル。カイエの姉……と言っても、血が繋がってるとか、そういう訳じゃないんだけどね？

　あ、でも、まあ似たようなものかな？　魂が繋がっているってのも、あながち間違いじゃないし。こいつは昔から私に頭が上がらないしね……

　ああ、そう言えば、あなたたちってカイエとどういう関係？」

　固まっているローズたち四人の前で――エレノアは一方的に捲し立てる。

「なあ、エレノアよ……この者たちも、困っているようだが？」

　神聖竜アルジャルスにフォローされるとは思っていなかったから、ローズたちは驚いて我に返る。

「神聖竜様……私はローゼリッタ・リヒテンバーグ、光の神に力を授けて頂いた現勇者です。先日は、私のためにご尽力頂きまして、本当にありがとうございました。また、お礼を申し上げるのが遅れましたことを、心よりお詫び申し上げます」

　ローズはこのように礼儀正しい挨拶の仕方も、当然できるのだが――本人は堅苦しいことは嫌いであり、いつもは逆に敬われる立場だから、普段は好んで十代の少女らしい言葉遣いをしている。

「神聖竜様――エスト・ラファンです。先日はお礼も申し上げず、大変失礼いたしました」

「聖騎士エマ・ローウェルです。私も……先日は大変失礼しました」

　ローズとともに、エストとエマは恭しく頭を下げた。

「アリス・ルーシェです。先日はありがとうございました」

　アリスだけは――丁寧ではあったが、一歩引いた感じで礼を言っていた。

「うむ……我が一方的に帰ったのだし。その件については、カイエと取引きしたておるからな。別に気にしてはおらぬ」

　アルジャルスの言葉に、ローズたちは胸を撫で下ろす。

「ですが……そうは言いましても、是非お礼をさせて頂きたいのです。どうでしょうか、私たちで宴の席を設けますので、神聖竜様にお越し頂けませんでしょうか？」

　これは皆で話し合ったことだった。

　神聖竜であるアルジャルスに何か贈り物をしようにも、彼女(？)が喜ぶようなものなど思い付かず、知り合いであるカイエに意見を聞いても、

「アルジャルスが喜ぶもの？　まあ、適当で良いんじゃないか？」

　などとぞんざいな答えしか返って来なかったので――

　神を奉る祭事にも宴は付き物だからと、結局は食事に招くことにしたのだ。

「宴か……なるほどのう。まあ、気が向いたら付き合おう」

　アルジャルスは口ではそう言っていたが……気が乗らないという訳ではないようで、宴の話のあと彼女の機嫌は少し良くなった。

「アルジャルスよ……そちらの話が終わったのなら、そろそろ話を戻しても良いな？」

　アルジャルスとローズたちが話をしている間、エレノアは大人しくしていたが、話がしたくてウズウズしているのは傍目にも解った。

「いや、こっちの話はまだ終わっていないから。エレノアねえさんは、もう黙っていてくれ」

　『なんだ、ツレナイなあ？』という感じでエレノアは拗ねた顔をするが、カイエは構わず話を続ける。

　魔族の残党の動きと、各地のクラーケンクラスの怪物（モンスター）の居場所を一部の上級魔族が知っており、それらを使役して彼らが反撃に出る可能性について説明する。

「まあ、奴らが再び戦いを仕掛けてくる確率は高くないと思うが……クラーケンという実例がある以上、楽観視し過ぎるのも問題だろう？　俺たちも各国の組織に働き掛けて警戒しておくけど……アルジャルス、おまえも情報網を使って、監視してくれないか？」

　神聖竜である彼女には――人外の者同士の横の繋がりがあり、人では決して立ち入ることのできない場所の情報を集めることも可能だった。

「カイエは、また面倒なことを言ってくるのう……あやつらに借りを作ると、後で面倒なことになるからな。出来れば関わりになりたくないのだがな」

　それでも――即座に断らない事に、彼女とカイエの関係性が伺い知れる。

「まあ、固いこというなよ。おまえが、そいつらに払う代償は俺が肩代わりするからさ？」

「いや、カイエは奴らのことを知らぬから簡単に言うが……」

　などとアルジャルスが煮え切らない態度を取っていると――

　パチンッ！　と手を叩く音が響いた。

「そう言うことなら。二人とも、私に任せなさいよ？」

　エレノアはニッコリと笑って、カイエを見た。

「弟のカイエのためなら、私が彼らに言うことを聞かせるわ。何私に掛かれば簡単な事だって、カイエも解っているでしょう？」

　カイエもアルジャルスも、彼女の言葉を否定しなかった。

「その代わり……カイエも私の願いを、何でも一つ叶えてくれるんでしょう？　アルジャルスにそう言ったんだから、私だけ条件を変えるなんて事しないわよね？」

　『おまえ、エレノアに喋ったな？』とカイエは睨みつけるが――アルジャルスは知らん顔で目を逸らしてしまう。

　カイエは憮然とした顔で頭を掻いて――

「仕方ない……解ったよ。その条件で良いから、エレノアねえさんは奴らを動かしてくれ」

「そうそう。素直になるのが一番よ」

　エレノアはしたり顔でそう言うと――ローズたちの方に向き直る。

「さてと、ようやく面倒な話が片付いたから……あなたたちとカイエの関係を、じっくり聞かせて貰えるかしら？」

　興味津々という感じで、エレノアは目を輝かせた。