第71話 姉弟の意味
カイエとの関係を訊きたくてグイグイ迫って来るエレノアに対して――
「カイエは私にとって……世界で一番大切な人です!」
『キャッ! 言っちゃった!』みたいな感じで、ローズは頬を染めながら即答するが――
「ちょっと待ってくれ、ローズ!」
エストはそれを制するようにして、エレノアの前に進み出る。
「それに応える前に……『エレノアさん』と呼んで構いませんか?」
「ええ、構わないわよ」
そんな風に律義な確認を終えてから――
「それでは、エレノアさん。まずは、あなたとカイエの関係を、もっと解りやすく教えて貰えないでしょうか? 血は繋がっていないが、魂は繋がっているとか……正直、どういう意味か良く解らなくて。あなたとカイエの関係次第で、私たちも、どこまで答えるべきかが変わって来ますので」
エストはアリスとエマの顔を見て、二人の意志を確認しようとする。
『当然でしょ!』という感じでしっかり頷くアリスに対して、エマはいまいち状況が解っていないようで、自信がなさそうに、とりあえずという感じで頷いた。
エレノアは、そんな三人のやり取りを観察してから――
「ふーん……まあ、良いわよ。でも、カイエから、私の事も少しくらい聞いているんでしょう?」
その問い掛けには――誰も何も答えなかった。
『マジで?』という感じでエレノアは目を見開くと――
「……ひ、ひどいわ!」
と、わざとらしく嘘泣きをして、カイエを恨みがましく見る。
「カイエって……本当に何も変わっていないのね? 私というものがありながら……こんなに可愛い子たちを騙すつもりだったの?」
その台詞に――四人は聞き捨てならないと、困惑とか疑念とか怒りとか、色々な感情が混じった視線をカイエに集める。
『おまえら……本気にするのか?』とカイエはジト目で四人を見ると――
「なあ……エレノアねえさん? ふざけるなら、話は終わりだ。さっきの取引には、こいつらの事は含まれてないだろう?」
エレノアの事など相手にしていなかったが――
「だったら、今から条件を変えるわよ。みんなの関係を教えてくれないなら、私は働かないからね!」
まるで子供のような事を言い出すエレノアに――カイエは呆きれ果てた顔をする。
「おい……何を滅茶苦茶言ってんだよ?」
しかし――エレノアの方が
「カイエも意外と甘いわね? ボールはこっちが持ってるんだから……後出しだろうが何だろうが、そっちは言うこと聞くしかないでしょ?」
エレノアは悪戯っぼく笑う。
人外たちの情報網を使いたいカイエに対して、エレノアの方は――カイエに言うことを聞かせる事など、正直に言えばどうでも良いのだ。
『言う事を聞かせる』内容として、カイエとローズたちの関係を喋らせることは簡単だが――全くするつもりはない。なぜなら……そんなことをしても面白くないからだ。
つまりエレノアは――カイエを
確かにエレノアに従わなければ、欲しい情報は得られないが――カイエは不意に、意地の悪い笑みを浮かべる。
「だったら……もういいや。面倒だから、エレノアねえさんには頼まないよ」
そう言うなり、エレノアに背を向けると、
「元々、俺はアルジャルスに頼むつもりだったし。こいつが無理だって言うなら、仕方ないから諦めるよ」
ローズたちに声を掛けて、さっさと帰り支度を始める。
「じゃあ、アルジャルス、エレノアねえさん。邪魔したな」
本気で帰ろうとするカイエに――
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんたの頼みを聞かないなんて、言ってないじゃない!」
エレノアが叫んだ瞬間――『掛ったな!』と、彼女に見えないようにカイエは悪人のような顔をする。
この瞬間、二人の立場が逆転したのだ。
「何だよ……俺だって忙しいんだからな?」
わざと不機嫌な感じでカイエが言うと――エレノアはクスクスと笑い出す。
「もう……解ったわよ。今回はこれ以上イジメないから……あんたとこの子たちの関係だけは、くわーしく教えて頂だい!」
そう言うと彼女は、エストの方に向き直って――
「さっきの話……私とカイエの関係のことだけど。本当ならカイエの口から説明するべきだって、私は思うわよ。でも、こいつは自分の事を話すのが苦手だから――」
このときエレノアはカイエを横目で見て……安心させるように、優しげな笑みを浮かべた。
「私とカイエは血が繋がっていない。だから本当の姉弟ではないけど――私の魂の一部をカイエにあげたから、同じ魂を共有するという意味では姉弟なのよ」
エレノアが唐突に語った言葉に――エストたち四人は、戸惑うしかなかった。
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