第69話 再会


 真の迷宮に出現するラスボスクラスの『偽物フェイク』たちを次々と撃破し――


「なんか、いちいち戦うのも面倒になって来たけどな?」


「馬鹿言わないの! 『偽物フェイク』の結晶体クリスタルは高値で売れるんだから、倒さないと勿体ないじゃない!」


 前回ですっかり味を占めたアリスは……瞳に『¥』を浮かべて、守銭奴のような表情になっていた。


「なんか獲物を狙う猛獣みたいで……アリスの顔が怖い!」


 エマは怯えた顔をするが――


「ねえ、カイエ……さっきの大悪魔アークデーモンを両断した剣捌き、物凄くカッコ良かったわ。次は私が左から切り崩すから……背中は守ってね!」


「私が『爆裂エクスプローシブストーム』を放ったときも……完璧なタイミングのフォローだったよ。カイエが一緒にいると、安心して敵を殲滅できるな」


 ローズとエストは結構物騒な話をしながらも……完全に乙女モードに入って、カイエにくっついている。


(こいつらも……まだ余裕だよな?)


 戦闘に入った瞬間に切替えはできているし、こんな感じでも別に油断している訳じゃないから問題はないが――何となく、鏡に映った自分の姿を見せられているような気がして……カイエは面白くなかった。


(俺も……もう少し、真面目にやるかな?)


 などと、らしくもないことを考えていると――


 光の扉を抜けた先に広がっていたのは、見たことのある天井の高い空間だった。


「みんな――」


 アリスが声を掛けるが――すでに全員が臨戦態勢に入っており、部屋の中央に居る体長二十メートルの金属の竜を見据えていた。


「カイエ!」


「解った、フォローするから!」


 あらかじめ決めていた手筈通りに――エストが詠唱を省略して、多重結界を展開する。

 さらに内側にカイエが『力場(フォースフィールド)』を展開した直後――偽物のフェイクバハムートは渦巻く青い光のブレスを吐いた。


 地面から鋭角に伸びる多重結界は、電流を帯びた光の束を反射して受け流しながらも次々と破壊され――最後の一枚にヒビが入ったところで、ようやくブレスが止まった。


「――今だな!」


 エストが無詠唱で支援魔法を発動すると同時に――右からローズが、左からエマとアリスが加速しながらバハムートとの距離を一気に詰める。


 カイエは『混沌の魔力』をバハムートの頭上に展開しながら、ローズたちの戦いを見守る。

 エストは休みなく支援魔法を重ね掛けしながら、次のブレスに備えて多重結界分の魔力を温存し、誰が狙われても間に合うようにと自らもバハムートへギリギリまで接近する。


 聖剣ヴェルサンドラが金属の鱗に罅(ヒビ)を入れ、神剣アルブレナが切り裂いていく。

 アリスの刺突武器エストックが何本も突き刺さり、電撃の鞭ライトニングウィップが内側から身体を焼くが――偽物のウェイクバハムートは無尽蔵の体力を見せて、爪と牙を振るい、ローズたちに襲い掛かる。


(さすがに……そろそろ限界か?)


 バハムートは耳障りな金属音のような咆哮を上げると――その口が一瞬光り、アリス目掛けてブレスを放とうとするが……


「――させない!」


 ローズはバハムートの眼前に飛び込むと、そのままの勢いで神剣アルブレナを一閃させる。

 その一撃は浅く、鱗を切り裂くだけだったが――竜の注意を引くには十分だった。


 方向を変えた金属の口から――放電する青い光のブレスが放たれる。


「……ローズ!!!」


 エストが咄嗟に放った多重結界が、ローズとバハムートの間に展開するが――正面からブレスを受けた結界は一瞬で突き破られる。


 しかし――その一瞬が勝負を分けた。


 ローズはブレスを掻い潜るように下からバハムートに迫ると、ガラ空きになった喉を神剣アルブレナで切り裂いた。


 切り落とされた首が――自らの身体から放たれる光のブレスによって溶かされていく。


「カイエ……私たちを最後まで信じてくれて、ありがとう!」


 いつの間にか隣にいたカイエに、ローズは思いきり抱きつく。

 カイエは本当にギリギリまで待つつもりで――最後の瞬間、彼女の隣に飛び込んだのだ。


「ローズ、おまえさあ……」


 カイエは呆れた顔で文句を言おうとするが、


「ローズ、カイエ……良かった、無事だったんだな!」


「もう……本当にビックリしたんだから!」


 その前にエストとエマが飛んできて、二人に抱きついた。


「まあ、カイエのことだから……最後は何とかするとは思ってたけどね」


 アリスは一人余裕を見せていたが――その声は微かに震え、握りしめた拳が真っ赤になっていた。


「アリス……心配させてごめんね」


 そんなアリスの内心に気づいて、ローズが申し訳なさそうな顔をする。


「そうよ……ローズは、いつも無茶ばっかり……カイエがいたって、絶対に助けてくれるとは限らないでしょ……」


 一歩間違えば、自分のためにローズが――そう思うと身体が震えて、アリスは顔を上げることができなかった。


「ホント……ごめんね、アリス……」


 ローズはカイエたちから離れると、アリスの元に飛び込んでいく。


「……馬鹿ローズ……本当に、もう二度としないで……」


 カイエとしても――今回はやり過ぎたなと、らしくもないくらい反省していると――


 彼らの上空に、白い光の球体が出現した。


「なあ、アルジャルス……毎回、バハムートと戦わされるのも、どうかと思うけどな?」


 カイエの目の前で光は竜の形となり――神聖竜アルジャルスが姿を現わす。


「文句を言うのであれば、我の元になど来なければよかろう。そうでなくとも――貴様のせいで、我は迷惑を被っておるのだ」


「……迷惑? ああ、この前王都まで行かせたことか? それなら、代わりに言うことを聞く約束をしただろう?」


「いや……そうではなくてだな……」


 アルジャルスは顔を顰めると、自分が下りて来た方向へと視線を向ける。

 それに促されるように、カイエが顔を上げると――もう一つ、今度は黒い球体が降りてきた。


 カイエが放つ渦巻く混沌の球体とは異なり――ブラックライトのような黒い光の玉は、地上に降り立つと、人の姿となった。


 その瞬間――カイエの動きが止まる。


「やあ、カイエ――本当に久しぶりだね」


 艶やかな黒髪をポニーテルに束ねて、眼鏡の下で、同じ色の瞳が煌めく。

 白衣のような白い服を着た女は――揶揄からかうように笑っていた。


「ああ、そうだな……エレノアねえさん」


「「「「……え?」」」」


 カイエの言葉に――ローズたち四人も固まった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る