第68話 再戦


「王都に神聖竜が降臨したという話は、私も聞いている。神聖竜の宣言によって、投獄されていた勇者ローズが解放されたこと。そして、カイエ・ラクシエルなる人物を、神聖竜が同胞だと言っていたこと……これらの件は、先ほどの話と繋がりがあるようだな?」


 ジャグリーンは抜け目なく追及するが――


「ああ、そうだけど……いちいち説明するのも面倒だし、詮索されるのは好きじゃないからさ。おまえが気になるなら、勝手に調べてくれよ?」


 カイエは意地の悪い笑みを浮かべると――彼女を放置して席を立つ。


「会計は済ませてあるから。それじゃ、おまえは王国軍に注意勧告しておいてくれよ?」

「え……ちょっと、待ってくれ!」


 目が点になっているジャグリーンを残して、カイエはそのまま高級食堂レストランを出て行こうとする。


「あ、待ってよカイエ!」


「悪いな、ジャグリーン。そういうことで!」


「ジャグリーン、まったねー!」


 ローズ、エスト、エマの三人も、当然のように席を立ってカイエの後に続く。


「まだ……私の話が……」


 引き留めようとする言葉も空しく、カイエたちは本当に出て行ってしまった。


「カイエって、こういう奴だから……あんたも諦めた方が良いわよ?」


 一番最後に席を立ったアリスは――可哀想な人を見るような目で、ジャグリーンを見ていた。


※ ※ ※ ※


 そして翌日――


 エストの転移魔法と飛行魔法で移動して、カイエたちは再びアルペリオ大迷宮を訪れた。


「ローズは初めて来たんだよな? 表の地下迷宮ダンジョン怪物モンスターも弱くて退屈だし――あいつらもウザいからさ、一気に最下層まで突破するけど?」


 完全フル装備の勇者パーティーは当然のように目立っており――他の冒険者たちが遠巻きに、チラチラとこちらを見ていた。


 前回の経験から……このまま普通に地下迷宮ダンジョンを攻略していたら、いずれ彼らが群がって来るのは明白であり――


「解ったわよ……カイエ、さっさとやっちゃいなさい!」


 アリスの諦めたような言葉を合図に――カイエはいきなり『爆炎業火インフェルノ』の連発を始める。


 地下迷宮ダンジョンに轟き渡る轟音に――唖然とした冒険者たちは、決して近づいて来ようとはしなかった。


 そして、カイエの暴挙を初めて目にしたローズは――


「カイエ……素敵よ! 『爆炎業火インフェルノ』もそうだけど……『索敵(サーチ)』に『検出ディテクト』に『看破シースルー』……感知系魔法を五種類も同時に発動するなんて!」


 一見すると適当に『爆炎業火インフェルノ』を連発しているように見えるカイエが――他の冒険者を決して巻き込まないように、細心の注意を払っていることを、彼女は一瞬で見抜いた。


「そうだろう……カイエの真似なんて、私には出来ないよ!」


 エストは憧れと称賛を込めて――うっとりとした視線をカイエに向ける。


「いや……そういうのはいいからさ……」


 あまりにもストレートな賞賛に――さすがにカイエも照れたのか、少し困ったような顔をすると、


「へえ……あんたでも、そういう顔をするんだ?」


 すかさず、アリスが突っ込んでくる。


「おまえなあ……後で、憶えてろよ?」


 カイエは意地の悪い顔になって、反撃しようとするが――


「……なんで? みんなカイエがカッコ良いって、褒めてるだけじゃない?」


 エマに不思議そうな顔をされて、感情の行き場を無くしてしまった。


※ ※ ※ ※


 それから三十分ほどで最下層まで辿り着いたが――


 案の定と言うべきか、真の迷宮への入口の場所は前回から移動しており、今回もカイエは、辺り構わず魔力を放出して入口を探すことになった。


「ホント、製作者の悪意を感じるだろ? 俺たち以外に、この先に辿り着ける奴なんていいないだろうな?」


「でも……その方が親切なんじゃないの? あんな場所に普通の冒険者が行っても、全滅するだけだからね」


 アリスの言葉に、エストとエマが頷く。


「ローズも……まあ、おまえはいつだって本気だろうけどさ? ここから先は敵の数も多いし、下手をしたら魔王クラスと戦うよりも危険だからな」


「うん……解ってる」


 そして、カイエが魔力を放出すると――五人は転移した。


 壁と天井が輝く正方形の巨大な部屋で、彼らを最初に出迎えたのは、骸骨長蟲スカルセンチピードの群れだった。


 カイエはすかさず『混沌の魔力』を発動させて、骸骨長蟲スカルセンチピードの半数以上を飲み込んでしまうが――


 そこからの展開は、明らかに前回と異なっていた。


「……いやややあ!」


 エストによる『飛行フライ』と『加速ブースト』の支援を受けて――光を放つ神剣アルブレナを手にしたローズが右から切り込んでいく。

 魔王すら一撃で仕留めた神剣は――骸骨長蟲スカルセンチピードを縦に一刀両断にした。


「さすがは、ローズだね……でも、私だって!」


 エマは金色の聖剣を掲げて、左翼から来る敵を迎え撃つ。

 巨大な怪物モンスターの突進を大剣で受け止めると――魔力を集中させた刀身をさらに押し込んで、骸骨長蟲スカルセンチピードの身体を文字通りに粉砕する。


 湾岸都市シャルトまでの旅の途中も、そしてシャルトに着いてからも――エマはカイエに頼んで、模擬戦を何度も行っていた。


 黒鉄の塔の四階にある『鍛錬室トレーニングルーム』は――カイエが魔力を付与することで空間が拡張される。


 さらには『混沌の魔力』と『空気の壁エアウォール』を二重に張り巡らすことで、あらゆる魔力と衝撃を吸収してしまうので、全力の模擬戦をすることができた。


 正直に言えば――最初は運動不足を解消するために始めたことだったが……カイエという圧倒的な強者と戦うことで、エマの実力は短期間で確実に伸びていった。


 そんな風にカイエとエマが二人だけで模擬戦をしているのを――ローズとエストが黙って見ている筈もなく、結局アリスまで加わって、食後の模擬戦は毎晩行われた。


 だから、強くなったのはエストもアリスも同じで――


 アリスが魔力を通した刀が、骸骨長蟲スカルセンチピードの鋼鉄並みの外骨格を切り裂き、エストは『聖盾ホーリーシールド』を展開しながら、同時に上位魔法で敵を消し炭に変える。


「これくらい戦えるなら……俺はフォローするだけで良いかもな?」


 カイエは苦笑しながら、彼女たちの戦いを見守っていた。


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