第20話 探索の行方


 光の扉の先も、同じように広い正方形の部屋の連続で――カイエたち四人は部屋に入る度に、凶悪な怪物モンスターの襲撃を受けた。


 骸骨長蟲スカルセンチピード、静寂の殺戮者サイレントキラー精霊竜エレメンタルドラゴン大悪魔アークデーモンなど……出現する怪物モンスターは、どれも他の地下迷宮ダンジョンであればラスボスクラスばかりだ。


 しかも、カイエが『偽者フェイク』と呼ぶ怪物モンスターたちは、アリスたちが知る『本物』よりも確実に強く、強力な魔法耐性まで持っていた。


「……逃がすかよ!」


 カイエの黒い剣が、魔将デーモンロードの最後の一体を切り裂く――


 そんな感じで、毎回怪物モンスターの大半をカイエが一人が倒していた。渦巻く黒い球体の前では、魔法耐性など意味はなく、黒い剣は全てを切り伏せてしまう。


 アリスたちも、次第に『偽者フェイク』との戦いに慣れてきた。


 初めから一撃で仕留めようとするのではなく、攻撃に耐えながら相手の体力を削るように戦うことで、最後まで危なげなく凌げるようになったのだ。


「人が苦労して倒したのに、また随分と簡単に片づけちゃって!」


 エマとアリスが苦労して一体を倒す間に、カイエは残りの全てを掃討していた。


「それにしても……奇麗に真っ二つに両断するよね? どうしてカイエはそんな凄い剣技が使えるの?」


 エマが興味津々という感じで訊いてくる。


「何で、そんなことを知りたいんだよ?」


 カイエは不思議そうな顔をするが、エマは目をキラキラさせてグイグイ迫って来る。


「だって、カイエの戦い方って力技に見えるけど……実は動きに無駄が無くて、物凄く正確だよね? 私もカイエみたいに戦いたいから、どうすれば身に付けられるのか、教えて欲しいんだよ!」


 一緒に戦っているうちに――エマはカイエの剣にすっかり魅せられてしまった。


 エマは力押しするタイプで、これまでは強引な戦い方こそが自分のスタイルだと思っていた。


 しかし、自分よりも余程力で相手を圧倒できるカイエが、正確無比な技を併せ持っていることに気づいて――同じ剣を使う者として憧れのような感情を、いつの間にかカイエに懐いていた。


「あのなあ……ちょっと大げさじゃないか?」


 キラキラ輝くエマの瞳が眩しいと言うか、素直な賞賛を向けられて気恥ずかしいと言うか……カイエは頬を掻きながら、ぶっきらぼうに言う。


「俺の剣は……全部独学だからな? 人に教えられるようなものじゃないよ。自分で戦いながら、どうしたら勝てるかを必死に考えた結果が今の形かな?」


「でもさ、カイエなら力だけで誰にでも勝てるよね?」


「エマ、何言ってるんだよ?」


 カイエは呆れた顔をする。


「俺だって、最初から強かった訳じゃないからな?」


 人と魔族の間に生まれたカイエは、他者とは違う特別な才能を持ってはいたが――その未成熟な力で容易く敵に勝てる筈もなく、強敵を前に辛酸を舐めることも度々あった。


「俺は負けるのが嫌いだから、力を手に入れるために――手段を択ばずに何でも試してきたんだよ。剣だってその一つで、自分よりも強い奴に勝つための技術を身に付ける必要があったんだ」


 そうやってカイエは――あらゆる手段を用いて、人であることすら止めて、圧倒的な力手に入れたのだが、その間に身に付けたモノ全てが、今のカイエを形作っているのだ。


 そんなカイエの話を聞いて――エマは黙り込んでしまう。


 余計なことまで話したかなとカイエは思ったが――自分が手段を択ばずに何でもやって来たことを隠すつもりは無かった。

 だから、それのせいで誰かに拒絶されたとしても、仕方がないと覚悟は決めていた。


 しかし――


「それって……物凄く凄いことだよ!」


 エマの反応は真逆だった。


「強くなるために、どんなことでも努力したんでしょ? 私だって聖騎士として強くなるために頑張ってきたつもりだけど、カイエにはとても敵わないな!」


 さらに輝きを増したキラキラ輝く眼差しが、熱を帯びてカイエに向けられる。


「何でもなんて言うのは簡単だけど……本当に全部賭けたから、カイエは強くなったんだよね!」


「……そんな格好の良いものじゃないよ。俺は自分が強くなるためだけに、好き勝手をしただけだから」


 カイエは苦笑するが――


「でも、ローズを……私たちを助けてくれたじゃない!」


 エマは真っ直ぐカイエを見て……一歩も譲る気はなかった。


「カイエが何て言っても、その事実は変わらないよ! そして今だって、ローズを助け出すために、私たちと一緒に戦ってくれているじゃない!」


「私としては……自分が言いたいことを、全部エマに言われてしまった気分なんだけど?」


 エストが少し拗ねた感じで口を挟む。


 初めのうちは剣の話だからと二人が話すのに任せていたのだが――途中から急にカイエの話になって、聞き入っているうちにタイミングを逸っしてしまったのだ。


「私だって……エマと同じ気持ちだから。それだけは伝えたくて――」


 こんな話を聞いたところで――エマの想いも、カイエに対する信頼も、少しも揺らいでいなかった。


「あのねえ……そういう話は、ローズに聞かせてあげたら?」


 アリスが訝しそうな顔をする。

 彼女の場合はタイミングを逸した訳ではなく――エマのテンションについて行けずに傍観していたのだ。


「ああ……あいつには、もう全部話してあるよ」


 静かに微笑むカイエに――アリスはフンと鼻を鳴らす。


「だったら、良いわ……私はあんたのことを信用したつもりはないけど、強くなろうとすることは別に悪いことじゃないわよね?」


 それだけ言うと、彼女はカイエに背を向ける。


「ほら、あんたたちも……お喋りばかりしてると、ローズを助けるのが遅くなるでしょう? カイエも……自分が言ったことくらい、ちゃんと守りなさいよ!」


 そんなアリスの態度に――エストとエマは思わず顔を見合わせて、ニッコリと笑った。


※ ※ ※ ※


 それから、一時間と経たないうちに――

 四人は最悪の敵と対峙することになった。


 光の扉を抜けた先は、天井の高い広大な空間であり――その中央には、かつて見たことがないほど異様な竜の姿があった。


「……何よ、あれ?」


 思わずアリスが呟くが、それも無理はなかった。


 体長二十メートルを優に超える、金属の鱗を持つ竜は――

 生命の息吹を一切感じさせること無く、ガラスのような目で彼らを見ていたのだ。


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