第19話 本当の迷宮
カイエたち四人が転移した先は――先程までの迷宮とは明らかに雰囲気が異なっていた。
壁と天井が白く輝く空間は、一辺が百メートル程もある正方形をしている。
四方の壁の中央には扉の無い入口のようなものがあるが、それ自体が眩い光を放っており、中の様子を伺うことはできなかった。
「ここも……アルペリオ大迷宮の中ってことよね?」
アリスの問い掛けに、カイエは正面の壁を見据えながら応える。
「ああ、空間的には繋がってるけど……ほら、早速来たみたいだな?」
その言葉とほとんど同時に――前方の壁の前に、金色の甲冑を巨人たちが忽然と出現した。
背中から鳥のような白い翼を生やし、手には光輝く長槍を構える。翼以外の全身が鎧で覆われているため、生身の身体は見えない――それが八体。
「
エストが呟く。天使とは名ばかりの凶悪な
「ああ、
カイエは
球体は群れの中央で一気に膨張すると、四体の大天使を飲み込んで消失させるが――
残りの四体は左右の壁際を擦り抜けるにして回避し、一気に距離を詰めて来た。
「アリス、エマ! 左の二体は任せるからな! エストは支援魔法と、身を守ることに徹しろよ!」
カイエは二本の黒い剣を抜き放って、右から迫る二体を待ち構える。
「何を勝手に――」
「うん、解った!」
「ああ、カイエ……承知した」
二人が同意してしまったので、アリスも渋々従うしかなかったが――彼女が身構えるよりも早く、大天使が槍を投げてきた。
巨大な槍は風切り音を立てながら物凄い高速で飛来し、一瞬でアリスに迫る。
想定を遥かに超える速度に、アリスは避けることを諦めて刀で受け止めようとするが――その細い刀身で受けるには、槍は巨大過ぎた。
(……チッ、仕方ない!)
自身と刀へのダメージを覚悟して、少しでも威力を逃がそうと斜め後方に跳ぶ。
しかし――アリスが覚悟していた衝撃は、襲って来なかった。
「良い判断だな」
カイエがアリスとの間に立ち塞がり、槍を黒剣で両断したのだ。
アリスはその一部始終を見ていた筈だが――
「あんた……どうしてそこに居るの?」
まるで瞬間移動したようにカイエは目の前に現れて、気づいたときには槍を切り捨てていた。
「邪魔して悪いとは思ったけどさ……アリスも刀が傷つくのは嫌だろう?」
カイエはそれだけ言ういうと、再びアリスの目の前から消え去り――次の瞬間には右手から迫る大天使と対峙していた。
カイエが二本の黒い剣を一閃すると――たったそれだけで、二体の大天使は縦に真っ二つに両断された。
「何それ……だったら、こっちも!」
槍を失った大天使は、眼前に迫っていた――アリスは
彼女が手にしたのは、二本の
太い針のような剣は半ばまで突き刺さったが、貫通するまでは至らずに止まる。
「チッ!……何て硬さなのよ!」
アリスは大天使に掴まれそうになり、相手の鎧を蹴るようにして飛び退く。
「でも……無傷って訳じゃないしね?」
アリスは別の武器を
「身体の中まで魔法に耐性があるか……試してあげるわ!」
再び迫る大天使に――アリスは自分が突き刺した刺突武器を狙って鞭を振るった。
鞭が触れた瞬間――鞭から放たれた電撃が刺突武器を伝って、大天使の鎧の内側でスパークする。
ようやく動きを止めた大天使を尻目にアリスは――
「エマの方は……大丈夫みたいね?」
大天使の堅い防御を前に、エマも相手を倒すには至っていなかったが――金色の大剣を繰り返し叩きつけることで、徐々にダメージを蓄積させていた。
「そうだな。手を貸す必要は無いね」
アリスの隣で、カイエもエマが戦う様子を眺めている。
もし、本当に手助けが必要だったら――カイエはなら、もう動いているだろうとアリスは思う。
「当然……だよ! 私だって……大天使の……一体くらい!」
全力で戦いながらも、どこか場違いな感じで喋っているエマに――アリスは思わず笑みを漏らす。
「そう言えば……カイエ、さっきはありがとう。とりあえず、お礼は言っておくわ!」
本当は文句の一つでも言ってやるつもりだったが――エマを見ていたら、そんな気も失せてしまった。
それに――あのときカイエは『刀が傷つくのは嫌だろう』と言ったのだ。
彼の意図に、アリスは気づいてしまっていた。
(私なら、このくらいで傷つくなんて思わない――おまえはそんなに
アリスはカイエと肩を並べながら――エマが戦いを終えるのを、じっと待っていた。
そんな二人の背後で、エストが複雑な心境で見つめていることには気づかずに――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます