第3話 こくはく

またある日のこと、午後8時。

ぼくはいつも通りにゲームをしていた。

そしたら、ドアからノック音がして、まやが入ってきた。


「ん、まやもやる?」

「あ……うん……」

「どしたの?なんか元気ないけど……」


ぼくはゲームを中断して、まやに向き合う。


「……あのね」

「うん」

「こんなことダメだってわかってるんだけど……」

「?」

「やっぱり本当の気持ちを伝えたほうがいいかなって……」

「うん……?」


まったく話が読めない。ぼく、なにかまやに悪いことしたっけ?

まあ、いつも朝は迷惑かけてるけど……


「……それで?」

「……」

「……」


静寂。裁判の時に、裁判長に「静粛に」と言われた後の様な静寂。

何かを言いたいけど、言えないこの空気。

どれくらいこの時間が続いただろう。5分?10分?あるいは1時間?

耐え切れなくなったぼくがとりあえず、何かを言おうとしたとき、


「……あたし」

「……」

「お、おにいちゃんが大好きです!つきあってください!!!」

「……」


……?

ん?今なんて言った?前半の「おにいちゃんが大好き」は聞こえたけど、

後半部分がよく聞こえなかった。ん?なんだこれ?

ちょっとまって。ちょっとまって。ほんとにまって。なにこれ?

「おにいちゃんが大好き」はもちろん家族の中でだろう。

うん。きっとそうだ。よし。それで、後半部分……

「つきあってください」……?なにを?ん?????

ちょっとまて。1回整理しよう。

あれがこうなって、ああなって、こうだから、こういうことなのか?

ん?あれ?ちょっとまって、って「ちょっとまって」しか言ってないじゃん。

それでもちょっとまって、頭がオーバーヒートしそう。何か冷やすものはないか、いや、そうじゃないそうじゃない。えーと……あぁ、そうだ。ええと、もしかして、これって、もしかして、もしかすると、もしかしたら、もしかするのか……?なにをいっているんだぼくわ。ちょっとまって、ほんとに待って、時間がほしい。僕が思い描いてきた妄想の説を行ってみるか?それとも現実を見るか?いや、もうチャンスはこれで最後だろう、ここはひとつ妄想の線で行くか、いや、どうしよう、でも、いままで幸せだったし、そろそろ反抗期だろうし、いま嫌われたって、後から嫌われたってどっちでもいいか。うん、そうだな。じゃあ、結論をだそう。「おにいちゃんが大好き」が家族としてなのか、男としてなのかは、置いておいて、「つきあってください」はどう考えてもあっちの方向しか考えられない。よし。ここはひとつ、現実を見ながら少し、妄想のほうに期待しよう。そうしよう。うわ、ログめちゃくちゃ長いやん、ほんま読者さんに迷惑かけるわ~って、

ほんとになにをいっているんだぼくわ。そろそろ戻ろうか。うん。


「……え?」


長い時間(実際はそれほど長くなかったのかもしれないが)考えた末、出てきた言葉はそれだけだった。


「……だめ?」

「だめ?って……ぼくたち、兄妹だよ?」

「うん……それは……分かってるけど……」


まやは顔を真っ赤っかにして続ける。


「お兄ちゃんとしても……一人の男性としても、おにいちゃんが大好きだから……」


ぐぉぉぉぉぉぉ!!!!!確定パティーン来ちゃいました!!!!!

妹の兄として誰でも1度は言われたいだろうこのセリフ!!!!!(個人差)

いや、待て。浮かれるな。現実を見ろ!猫助!!!

『あくま』でも、兄妹。兄妹なんだ。だからダメだ。絶対に。ダメだ。




……でも




心の中の『あくま』がそれを認めようとしてくれない。

『あくま』でも、兄妹だから……




「まや……」

「……?」


ぼくはまやに抱きついた。


「きゃっ!?ちょっと……」

「大好きだ!!!」

「……え?」


またさっきの様な静寂が訪れる。裁判長は激おこぷんぷん丸だ。

何時間続いただろうか……1時間……2時間……

それは永遠に続いていくように感じた。


「それって……OK……っていうこと……?」

「……うん」


あぁ、言ってしまった。肯定してしまった。

罪悪感と開放感と幸福感が一気に押し寄せてきた。

そんなぼくはいつのまにか泣いていた。


まやは強く抱き返してくれて


「あたしも……大好き……」


と言ってくれた。



ぼくはいつのまにかそのまま寝ていた。


目が覚めると、置き手紙があった。


   おにいちゃん、そのまま寝ちゃったから寝かしてあげました(笑)

   あたしは、このことをお母さんもお父さんも理解してくれると

   思ってる。でも、言わないよ。絶対に。誰にも。

   おにいちゃんは、あたしだけのおにいちゃんだから。

                                  」


また僕は泣きそうになった。

でも、我慢した。


目の前の電波時計を見る。

20:30と書いてあった。


信じられずに、スマホの時計も見てみた。

20:30とあった。


ほんとにこんなことがたった30分で起きたのだろうか?


信じられない。


ぼくは怖くなって、そのまま寝た。

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